振り向く「時」の背中に

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    口惜しいなあ…と思うのは、時は確実に流れている事。 哀しいなあ…と思うのは、今は過去に、過去はまだ遠い過去に変わりつつある事。
    忘れたいとは思わないし、忘れようとも思わない。 そして、忘れてしまったとも思わない。 …だけど、確実に…想う時間は減っている。

    想えば、まだ泣ける。 だから…まだ、哀しい。
    だけど、笑う事も出来る。 楽しい事には、楽しいと思う事が出来る。
    自分が薄情だとは思わない。 …だって、これが初めてじゃない。 その誰もをこうやって見送って、忘れてはいないままに悲しみだけはいつの間にか薄らいで。 思い出す事に、いつの間にか涙は伴わなくなって。 そうやって、今まで生きてきた。
    そうして、また…次の誰かの為に泣くのだろう。

    その意味の分からないほど、幼くはない。 だから、戻って来ないことなどとっくに理解出来ていた。 戻って来ない事が、既に現実であったから。 疑いたくとも、そう思い込めなかったから。
    けれども、理解したくなかった。 そのままその現実を、時の流れに浮かべて流してやれるほど、素直でも大人でもなかった。 既に解かれたもやい綱を、一人で一生懸命引っ張っていた。
    こんなに泣きじゃくっていて、一体何を理解していなかったと? 理解しているからこそ、あれだけに泣けたものを。 この身は「巨体の鬼」でも無いものを、一人で時の河を塞き止められるはずもないというのに。
    それに気付いた時、もやい綱は痺れた手のひらからこぼれていった。 離れた舟は、どんどん過去に押し流されて行く。 無駄に暴れた自分には、もう追い駆ける気力も無い。

    せめて、高台に登ろう。 わずかでも、ほんのわずかでも遠い過去まで見渡せる所に居よう。 かすかにでもその舟の見える間は、君の去った事に泣いていよう。 舟を見失ったら…君を忘れてしまいそうな、自分の愚かさを嘆こう。
    泣き寝入った酷い顔で道を下れば、きっと君の幻が…ただ笑って出迎えてくれるだろうから。
──何だ…こんな所に居たんだね。
それから先は、きっと笑っていられるから。 ずっと、君の幻と笑って過ごせるから。

    そうして君は、いつか上流を指差すのだろう。
──ほら…「僕」が生まれてきたよ。
…と。

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Last Update : 20040120
Tatsuki Mima