新人:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    今年もまた、頭の痛い季節がやってきた。
    …と言っても、世間一般・老若男女・全人類的に…ではなく、ごくごく一部的に…だが。
「…そういう表情(かお)するな。 お前らの所には、使えそうな奴しか廻してないっ」
    恐らくはその筆頭…かも知れない守が、飲んでる片っ端から醒めてしまいそうな視線に言い訳をする。
「『使える』のレベルが、僕たちの考えるのと違うんですけど〜?」
最初っから諦めたような不機嫌さを、全っ然隠す気の無い相原が、それを言葉にもはっきり出して問い返す。
「無理言うな」
    むしろ、そんな顔をしてみたいのは俺の方だよ。 そう思いながらも、今更…そんな駄々をこねてみせるほど、守も単純でも素直でもない。
「俺や真田の時は入学150人中、卒業まで扱(こ)ぎ付けたのは106人だ。 お前らの時は?」
    いきなり「学生時代」に話が飛んで、えーと…と考え込んでしまった相原だ。
「入学は120人だったですけど…」
「3学年の時には94人でしたよ、確か」
その代わりに答えたのは、太田。
「今年(いま)の連中は、入学180人、ドロップアウトは一桁だ。 レベルの落ちたのが、訓練学校の課程(シラバス)なのか教官の質なのか…の判断は、お前らに任せる」
    名簿の中の、成績という数字と当人の配属の希望とから、パズル的に無理矢理割り振って。 それ以上の責任と面倒を今更、参謀(おれ)の所に言ってくるな…の守だ。

「…単に、平和ボケしてるだけじゃないんですかね? 学生も教官も、訓練学校も」
    南部の呟いた言葉に、思わず…頭を抱えた全員だった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    メーカーが違っても、携帯だの端末だの…果ては家電や車でも。 基本的な操作法…という部分では、殆ど差は無い。 ちょっと眺めて試しに突付いてみれば、おおよそ呑み込めるものだと相原は思っている。
    …だから、ここのコンソールも、その辺りのご家庭用端末と根本的な部分は一緒なんだってばっ。
    自身に廻ってくる仕事の量は、相変わらず…いやむしろ、慣れた数人が異動してしまったから多少増えたかも知れない…中で。 相原としては、ひどく初歩的な部分から全て問われて、その都度…いちいち答えて教えて、自分の仕事はしっかり滞(とどこお)って。
    その分は、当然のように多少の残業となって跳ね返ってくる。 新人たちが定時で帰ってしまって、邪魔される事の無い「時間外」の方が、よっぽど仕事の効率が良い。
「せめて…マニュアルを一度探して見てから、僕(ひと)に訊いてよねえ…」
    相原が、言いたい言葉も呆れて口にはしないで、溜息だけ吐いている頃。 秘書室の方では雪も、ほぼ同じような理由で溜息を吐いていた。

    宙港の管制官…は、訓練学校とは関わり無い。
    大気圏内外を問わず、民間航路の管制とこなすべき仕事の内容はほぼ同一であるから、その教育・訓練施設は民間に既に在る。 そこの課程を修了した者のうち希望する者が多少の試験の結果、軍籍を持つのである。
    …だから俺は、元々管制技官じゃないんだけど。
    今までにも時々、同じセリフを言ってきている太田である。 本来は航法士官の太田が、いつぞやから管制をやっているのは全て、人員の不足によるものだ。
    管制技官が、地上から艦艇の航路の監視と誘導を行う職ならば。 航法士官は艦艇の中から、その誘導に従って発着を安全にこなす為の職だ。
    真反対の位置から、管制という仕事がきちんと理解出来ていて、こなす事も出来るから…という理由からの事。 それだけの能力と知識と、小器用さの有る事が災いした…とも言えなくは無い。
    こうやって…決して専門ではない太田の目から見て、溜息の一つや二つ出てくるような技能しかなくとも、曲がりなりにも「専門家」が養成されてはいるのだから。
    …いい加減、本来の仕事に戻してくれないかなあ…と。 ひどく真剣に太田が思ったとしても、きっと誰も責める事は出来ないだろう。

    真田は「科学局局長」という位置に居て。 組織の構成上、やたらと多数の「部下」が居る事になるのだが、その殆どは顔も知らない。
    元々が、事務から成り上がった真田ではない。 ちょっとばかりの権限を手にしたのを良い事に、職場に自身の研究室(ラボ)を作ってしまっているような、単なる実研究の好きな工学系科学者だ。 事務的な実務は、殆ど捨てている…と言っても良い。
    そんな頂上(トップ)を抱えて、科学局が滞りなく機能しているのは。 そのすぐ周りに居る秘書だの副局長クラスの人間が、やたらと真面目で、事務方面に才長けているから…でしかない。
    …そんな訳で。
    人事から採用・配置の書類が廻って来、それに目を通した以上は間違い無く記憶には有るのだが。 どの部署で、誰が、どんな間抜けた言動をしていようが、それが雑音として殆ど耳に入ってこない真田は。
    本日も、いつもと変わらぬ様子で自分の研究に勤(いそ)しんでいた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    パトロール艇の乗員数なんて、両手に満たない。
    つまり…どうしても1つの部門に要員は1人、多くても2人。 24時間航行している艇内で、休憩も睡眠も取らねばならない事を考えれば。 それしか出来ない「専門馬鹿」より、ある程度何でも小器用にこなせる人間を必要としていた。
    艇の規模が大きくないから、大型艦のように余計な数人すら乗せておく余裕は無い。 1人の新人を入れれば、慣れた誰かを余所にやる事になる。
    それは、新たに混ざってきた者の技量次第では、命取りにだってなりかねないほど。
    …いざとなれば、2人も居れば何とか航行出来るのがパトロール艇で。 この艇の艇長は、どの席に座ったとしても過不足無く扱える南部で。
「何やってるんですよ? 訓練学校で、3年も4年も寝て暮らしてたんですか?」
    はっきり、完全なミスを起こす一歩手前まで何にも言わないでいて。 言う時は、言葉の変に丁寧な分だけ余計に辛辣に響いて。
「無理言っちゃ可哀想ですよ、艇長。 何て言っても、まだ新人なんですから」
    そんな南部に、既に慣れた誰かの苦笑しながらの取り成しも。
「新人だろうが、ベテランだろうが。 俺は、男と心中する気は毛頭ございません」
あっさりと、一蹴してしまう。
「言われたくなければ、とっとと使えるようになれば良いんですよ。 出来ないなら、人事に転配願でも出すんですね。 引き止めたりしませんから」
    …何処までも、言う事に容赦の無い南部だった。

    輸送艦も、見た目の大きさの割には意外と乗員数の少ない艦である。
    艦の大部分が格納スペースで、特殊な荷で無い限りはそれを管理する為の要員もさほど必要ではないし。 積み下ろしは機械と、寄港・到着地の地上スタッフが行うからだ。
    それでも、「小型艇」であるパトロール艇に較べれば。 1回の航海がある程度長いし、居住スペースもそれなりに確保されているので、無駄な…と言うか新人の補佐に廻せる人員を乗せられなくも無い。
    その意味では、新人を迎える側としては楽だと言える。 フォローする者、出来る者が居るから、致命的な失敗にはなかなか繋がらないからだ。
    …ただ、この艦の艦長は島…である。
    過剰に速度を上げる訳では無く、航行管理部の立てた予定の甘い部分を突く事で、その予定を必ず2日や3日は縮めてくる…ある意味、とんでもなく性質(たち)の悪い艦長だ。
「…良い、んですか…?」
    航海の日程くらいは、誰の頭にも入っている。 慣れない新人ほど、余計に早く仕事から解放されたくて、強く記憶しているくらいかも知れない。
    だからこそ尚更に、初めて島の下に配置された人間は、そう訊ねてしまう。
「同じ結果を短時間で終わらせて、文句を言われる筋合いは無い」
    最初のイスカンダルへの往復と、太陽異常の時の航海と。 結果は出したが、予定は大幅にオーバーした2度の航海。 それが有るから島は、予定を短縮する事には少しばかりこだわっている。
    もっとも、そんな事の分かるのはそのどちらかの航海に参加して、その時の島を身近で見ていた者くらいしか居ないのだが。
「…早く帰還(かえ)りたくないと言うなら、荷物と一緒に冥王星に降ろしてやるが?」
「い、いえ。結構ですっ」
    あっさりと言い放ってくれる艦長に、慌てて思いっきり首を振って否定する新人だった。

    見た目通りのパトロール艇や、見た目よりは意外に…の輸送艦とは違って。 曲がりなりにも「戦艦」の部類に入る護衛艦には、見た目の大きさのままに相当の乗員が居て。
    その分だけ、新たに配置される新人の数もそれなりに多くなる。
「…何やってたんだ、あいつらは…」
    輸送艦隊の護衛に付いている身である。 まさか、隣に非武装艦の居る状態で、砲塔を振り廻して訓練をやる訳にもいかない。 やってやろうにもヤマトに居る時のように、自分の癖の分かってる操舵手も砲術統括者も居ない。
    古代の場合は、その辺りが思いっきり…ストレスを感じてしまうる部分だ。
    大体…俺たちの頃と違って、訓練航海の1度や2度やってるはずだろうが…。
    自分の「最初」だって、そうそう使えた代物じゃなかった…とは思っても。 現在(いま)の恵まれている訓練環境なら、もう少し技術だの経験だのが有っても良いんじゃないのか…と、そればかりが目に付いて。
「まあ…そのうち慣れますよ、あの連中も」
    休憩時間中の、苦笑しながらの誰かの言葉も。
「慣れてもらわなきゃ、困る」
どうしても、不機嫌な仏頂面でしか返せない。
「良いじゃないですか、まだ…今年は」
    別の誰かが、やっぱり…苦笑しながら。
「去年の今頃は、もう…1人下艦(おろ)してたでしょう?」
続けた言葉に、その時の事をしっかりと思い出したらしく。
    古代は思いっきり脱力しながらも、軽い溜息を吐くだけに…やっと留(とど)めた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「新しく来た人? うーん…面白い人かな?」
    せいぜい…備品の置いてある場所を教える程度で、まだ他人を指導する立場に無いサーシャは、極めてお気楽にさら…っと答えて。
「そりゃ、良かったな」
    本日は休日の参謀は怠惰そうに、リビングのソファの上から娘に返した。

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Last Update:20050301
Tatsuki Mima