仕事の事は寝て…起きても憶えているのに、今日が休み…なんて事に限って簡単に忘れてしまうのは、何故だろう?
今日の場合は、普通に起きて顔を洗って、食事をしている途中で…やっと休みなのだと思い出した。
気付いた途端、食事のペースが遅くなる辺り…ものすごく素直かも知れない。
仕事に使う時間の配分は下手じゃない…と、自分でも思うが。
仕事以外の時間の使い方は…そんなに上手いもんじゃないな、と。
少しばかりの、自嘲。
寝直してしまうには、些(いささ)かしっかりと目覚め過ぎたし。
普段見ていない番組なんて、途中から見たってさっぱりだ。
結局は、普段よりちょっとばかり丁寧に新聞を読んでみたり。
どうでも良いような雑誌をぼーっと眺めて、無駄で無用な知識を記憶に残さないまま読み飛ばしたり。
無為で、自堕落な時間が流れていく。
俺が何をしていないままでも、ものの影は刻々動いていく。
3人掛けの肘の一方を枕代わりに頭を乗せて、もう一方の上には脚を投げ出して。
今ひとつ…窮屈で、寝転がるんならベッドに行っちまえよ…とは、自分でも思いながら。
…だって、こっちの方が居心地が良いんだよ。
と、自分に言い訳。
特に何も聴いていない耳に、何でもない日常の音が聞こえてくる。
同じ場所に誰かが居る、そんな証拠。
それがどれだけ…人間(ひと)を安心させるのか、聞こえてこなかった頃をまだ憶えているから…余計に。
誰かの気配がする、そんな中が一番…居心地が良いから。
だから、俺は。
似たような姿勢に、ろくに動きもしないくせに…疲れもして。
いつか、うとうと…と。
◇
◇
◇
◇
声と、音と。
俺はどちらに気付いて今、目覚めたんだろう?
…どちらにしても、目覚めた俺の目の前に。
こちらを覗き込む顔の有った事は、確かで。
「…何だ?」
姿勢はそのまま、問うた俺の耳は返答の代わりに、遠く響いてくる音を聞いた。
「雨か…?」
そう言いながら、窓の方に視線をやる。
但し…その方向には椅子の背が在って、頭を椅子の肘に預けたままでは幾ら首を捻(ねじ)ったところで、景色は映らない。
「まだ…降っていないわ」
こちらを覗き込むに浮かせていた腰も、今はすっかり落として。
俺の肩辺りに手を揃えたまま、床に座り込んだ彼女は…そう。
…これだけ、顔が近付いてるんだ。
もう少し、面白そうな表情(かお)してみせろよ?
「イスカンダルでだって、雨も雷も在っただろ?」
近ければ、強い閃光と轟音を伴う自然現象だ。
自然や人工物に被害の及ぶ事だって、意外に頻々。
しかも、その破壊の規模も決して小さくない。
「だから…分かっているでしょう?」
どうにも取り乱してしまうほどには怖れてはいないようだが、嫌い…だという事も確かだ。
それは、見てきて知っている。
ほんの少し…怒っているような口振りに、雷雲が近付いてきているんだな…と想像出来て、苦笑しながら。
「…こんな時だけ、甘えてくるなよ」
そう言って、子供をあやすように軽く…その頭を、2度3度と。
そうする事を狙っていたかのように、さっき聞いたより大きく近く響く音が聞こえてきたりして。
閉ざしている窓を通してまで、いきなり強く聞こえてくる雨の音。
合わせて、部屋もぐん…と薄暗くなって。
暗くなればそれだけ、外から射す光に気付くようになる。
光ればその後を追い駆けてくるように、近さに即した大きさで音が響く。
光の度、音の都度。
ほんの少し強く押さえてくる指の強さを、腕に感じてしまいながら。
俺は…光と音の間を、頭の中で秒を刻んでいて。
「…さっきより、遠くなったぞ?」
俺だって、な?
別に…怖くは無いが、いきなり響く大きな音にはそれなりに…驚かされたりはするんだよ。
「ま…だ、近いわ」
お前が居なくても、間抜けに態度に出したりはしないだろうが。
お前が居るから、驚いた…なんて素直な口を利くのはせいぜい我慢しているだけで。
重力に逆らって持ち上げたままの手を、その頭に規則的に触れる事に疲れて、いつからだったか…その肩に廻したまま。
光の都度、音の度。
俺の事など忘れたようにこの顔から視線を外して、窓の方を仰ぐ横顔を。
「すぐ…止むさ」
「…分かっているわ、それくらい…」
…口惜しいけれども、綺麗だ…と思って。
面倒くさくなった俺は、そのまま引き寄せた。
◇
◇
◇
◇
「も〜っ、出ようとしたら降るんだもんっ」
雨の降った長さの分だけ、普段より遅れて戻って来るなり、そう言うから。
「出てから降られるより、マシだろ?」
特に、声のする方に目をやらないままで、そう答えて。
▲ |
<前頁
Last Update:20050701
Tatsuki Mima