Birthday:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    女の子というのは総じて、占いの類が好きなもの。 そして5人も集まれば、その1人くらいはちょっと詳しい人も居たりして。
「へえ…私の星座は、ねえ」
    でも、大体。 西洋占星術と血液型ばっかりなのは、何故? 特別、道具が要らないから…かしら?
    そして、女の子というのはこれまた総じて、恋愛の話の好きなもの。 はっきり言ってしまえば、前述の占いだって全てはその為。
    ミーティングのはずが、途中から雑談三昧になってしまっている。 やれやれ…と、軽く溜息を吐いてみる生活班長の雪だった。
「はい、はい」
    話の隙間に、パンパン…と手を打って。
「お喋りより先に、報告の方終わらせてね」

    女子校の教師って、こんな感じかも。

    それにしても、まあ…よくも、はっきりと訊いてくれるものよね。
「好きな人、居ないんですか〜?」
    居ようが居まいが、私の勝手。 大体…そうだと簡単に教えられるようなら、多分…本気で好きなんじゃないと思うわ。
    誰それさんが、好きなんです。 …って、それじゃ芸能人のファンしてるのと変わりないでしょ。
    つん。

    …とは言いながら、好きな人、気になる相手の居ない訳じゃない雪である。
    それも、好きになってくれますように…お星さまに願掛けしてみる程度には真剣で、占いでもしてみた方が良いかも…と思ってしまう程度に「何も」無い。
    そう、本当に何も無い。 いや…ゼロと言うより、むしろマイナスかも。
    生活班長とか看護師という立場の所為もあるけれども、基本的にクドクド、ガミガミと文句言ってみたり叱ってみたりするのが自分。 17、8の男の子にとって、ものすっごく年上の…おばさんならともかく、似たような年齢の女に言われるのはきっと面白くないに違いない。
    実際、詰まらない事で良く口論になっているし。

    …はあ〜。 前途多難…って言うか、お先真っ暗?

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…何だ。 お前ら、俺より『年下』なんだな」
    エレベーターのドアの開くなり、聞こえてきたのはそんな声。
「年下…って、何ヶ月のレベルじゃないですか。 同期なんですし」
「何ヶ月だろうが、何日だろうが、俺の方が先に生まれてるには違いないだろ」
    呆れたような南部の言葉を、またあっさりと引っ繰り返しているのは古代だった。 それも、ものすごく得意気な表情(かお)をして。
    ここ数日、敵との遭遇も無く順調な航海が続いていた。 だから、第一艦橋(ここ)でもちょっとのんびりとした雰囲気。
    何で、ここでもそういう話題になってるのよ〜。
    「恋するお嬢さん」が、即座にそう思ってしまうには訳があった。 生活班長という立場では、全乗員の個人的なデータもほぼ全て閲覧可能で…その所為で。 そのお相手より自分の方が「半年早く生まれている」という事に、しっかり気付いていたからだ。
    たった半年、でも半年。 それが例え1日だろうと「年上」という事実の重過ぎるように感じる、女心の妙。
「…あ、分かった」
    ちょっと考えていたらしい相原が、得心と同時にぽん…と手を叩いてしまって、その場の全員の視線を集めてしまう。 だが、その注目に気付いてないのか、単に臆してないだけなのか。
「島さんの方が、古代さんより『年上』でしょ?」
あっさりと、疑問形ながらほぼ…断言。
    ぐ…っと言葉に窮する古代は、この際放っておいて。
「ああ…なるほど」
「…って、島さん。 何月なんですよ?」
太田は良く分かったような事を言って、勝手に納得してしまい。 南部はもう読めた結論を全くすっ飛ばして、島に問うてみる。
    そうして、島の回答は。
「古代(こいつ)より、3ヶ月『年上』」

「たった3ヶ月、だろうがっ」
「何ヶ月でも、何日でも、年上は『年上』…だったんじゃないのか?」
    何処かで聞いたような反論は、ついさっき自分が言った言葉を盾に取られて、自滅。
「敬い、奉(たてまつ)ってくれ。 遠慮せず」
「お前、なあっ!?」

    要するに古代は、年長者相手にはかなり萎縮してしまう…タイプだという事だ。
    まあ…これは偏(ひとえ)に、その実兄の所為である。
    10も離れていて、物心付いた頃の古代にとっては充分に「大人」。 体力…腕力的にも知識的にも、全く敵うはずが無く。 ついでに、その性格は極めて前向き…悪く言えば自信過剰気味。
    すごいなあ…という兄へ素直な憧れが、絶対に敵わない…という思い込みにいつの間にかすり替わって。
「…古代さんが、島さんに勝てない理由が分かった気がする」
    相原が、ぼそ…っと。
「まあまあ…兄とか姉に勝てないのは、誰も一緒ですって」
「そうなんだよな〜」
    その相原に腕力で返してやろうか…と構えた古代の襟首を、島がしっかりと捕まえて。 知ったような事を南部が言って宥めて、太田はしみじみと頷いて。
「…って、兄姉(うえ)在(い)ないんじゃなかったか?」
「従兄は居ますよ」
ふ…と思い出した島の突っ込みに、南部がさらっと返す。
    自分の後方での、何事も無かったかのようなやり取りに。
「どーでも良いから、離せっ! こら〜っ!!」
他人様に飛び掛ろうとして…リードを引かれて止められた犬のように、古代が1人吠えまくっていた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    時間、わずかに遡って。
『古代より、3ヶ月年上』
    島のそんなセリフに、今更。 ああ、島君って5月生まれなのね…などと考えていた雪である。
    全乗員のデータを見る事は出来るのだし、ここまでの仕事の内で1度や2度は眺めた事が有るはず…なのだが。 名前や所属ほど必要不可欠でも無い「生年月日」という情報、そうそう…記憶してなどいられない。
    逆に言えば、そんな「どうでも良い情報」を古代に限ってはしっかり憶えている…辺り、その関心度に差のある事の証明だ。
    その前後の会話も聞こえてはいたが、要約すれば「古代は『年上』に頭が上がらない」もしくは「『年上』が苦手」という事。 古代より半年先に生まれた自分を悔やんでもいる現在、そんな…都合の悪い話なんて聞こえない振り、である。
『へえ…私の星座は、ねえ』
    誕生日…生年月日がキーワードとなって、最前の事をふ…と思い出す。 そう言えば、占いって生年月日が付きものだわ。
    古代君って…獅子座? 水瓶座と相性良かったんだったかしら?
    口に出してきゃあきゃあと話すのと、内心で思うだけにしておくのと、どちらもあまり変わりない。 周囲に自分の恋心とその対象を、曝してしまうかしまわないか…の差だけだ。
    だが、それには気付いていない雪だった。

「あ…そう言えば、雪さんって誕生日いつなんです?」
    そんなセリフで、現実に引き戻された。
「…え?」
    いきなり自分に話が振られた事に、しばらく狼狽(うろた)える。 日付から星座を考えてたりした所為で、何と無く…心の中を見透かされたような気もして。
「…相原君、女性に年齢(とし)訊くもんじゃありませんよ」
「年齢(とし)訊いてないじゃない、訊いてるのは誕生日だもん」
    席が隣同士な2人の、そんなやり取り。 どっちでも似たようなもんだろう…と、航海班の2人は思ったが。
「あ…その、今月よ。 もう…過ぎちゃったけど」
そうか。 生年を言わなきゃ、年上(うえ)も年下(した)も無いんだわ…と気付いた雪だ。
    しかし…そう気付くと、もう少し早く訊いて欲しかったかも…とも思う。 そう、本当にもう少しだけ。 誕生日の前、いや…その当日でも良かったから。
    …うん、今日誕生日なのよ…って答えたら、おめでとう…の一言くらい言ってもらえたかも知れないじゃない。 例え…今ここに居る5人の中で最後に、でも。
「へえ…おめでとう」
    一瞬、耳を疑った。 一番言って欲しい人が、他の4人に引き摺られるようにして仕方無く最後に…じゃないかと思っていた人が、真っ先にそう言ってくれて。
    やだ、嬉しいっ。 …なんて事を、思う暇も有らばこそ。
「…で、幾つになったん…っ」
「相原以下かっ、お前はっ!」
    古代が続けようとしたセリフは、後頭部への一撃に途切れた。 喰らわせたのは当然、島である。

    で、幾つになったんだよ? 古代の言いたかった事は、多分そうだろう。
    幾つ…って、そうだわ。 「半年」年上じゃなくて「1歳」年上になってるんだわ、私…。 溜息吐いたり舞い上がったり、また落ち込んだり。 忙しい次第である。
    今もその前も、誕生日そのものは移動しないから「半年の差」も変わらない。 だが、少し前までは「同い年」だったのが、今ははっきり数字で「1つ上」だ。
    この差は大きい。
    あああ…もう。 どうせ好きになるんなら、年上の人を好きになるんだったわ。 などと口の中で呟きつつ、年上…と言って真田や徳川しか思い付けない自分の発想の貧困さに、もう一つ溜息も吐いた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「でも、古代さんじゃないけど…良いなあ。 皆、年上なんだもん」
    自席に戻った通信班長が、またしてもぼそ…っと。
「…って、相原君。 誕生日、遅いの?」
    さっきの会話には途中から紛れ込んだ雪は、古代が島以外の3人に訊ねたその回答をご存知無い。 古代以外の誕生日を、雪が記憶していないのは先に言った通り。
「そう、今月の終わり」
    え…?それって…。
「まだ17だもんな〜、相原は」
「あと10日だけっ!」
ちら…っと考えた事は、古代と当の相原とのやり取りで裏打ちされてしまった。
    今の相原君と私って、2歳差な訳〜っ? しかも、いつでもきっちり1歳差〜?
    改めて、古代たちより学年では1つ上だという事を、必要以上に強く実感した雪である。

「と…取り敢えず、好きになったのが相原君じゃなくて古代君で良かった…」
    その日の終わり、ようやく自室に戻って1人になって。 思いっきり深くて長い溜息と一緒に雪の吐き出した言葉は、現在(いま)も未来も…誰も知らない。

<< (Attention) | Nothing

| <前頁
Last Update:20070413
Tatsuki Mima