質問です。
「古代進」って、どんな人ですか?
「訓練学校の同期だから、同い年だよね?」
ひどく分かり切った事を、相原が。
「何…って、艦長だよな。つい、この間から」
太田の言う事も、今更知れた事。
「実際の所は、遊び道具ですかねえ?
賭けのネタだし…」
ひどく真面目な顔をしながら、南部がものすごい事を…あっさりと。
「お前らっ!
俺を、一体何だと思ってるんだっ!?」
「…そうやって、すぐ吠えるから、南部たちに遊ばれるんじゃないのか?」
島の言う事、至極ごもっとも…である。
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実際には、どれだけ戦闘が立て続いていようと。
本来は、戦闘を主たる目的としないで出航(で)た航海。
元より、ある程度以上の長期航海になる事は、最初から承知の上で。
棲む事が適わなくなる前に、新しい故郷を探す。
非公式な任務は、あくまでも後ろに隠れたまま。
任務の為に員数は欲しくとも、もっともらしい理由が見付けられずにそれも叶わなくて。
新人の訓練を兼ねる「外周パトロール」という事で、数だけはようやくに揃えたような状態。
最初はギリギリ、間抜けた結果しか出せなかったような訓練も、それなりにこなしてみせるようになった頃。
任務と任務の…戦闘と戦闘の、ちょっとばかりの隙間。
訓練と任務の厳しさに、不満と愚痴なら…最初から。
少しばかり慣れて、余裕も出てきた現在(いま)はようやく、もっと冷静な評価と…俗な興味が、ちらりほらり…と。
…と、言う訳で。
「…それで、新人連中だけじゃなくてお前らまで『俺の品定め』って訳か?」
拗ねたように、ぶん膨(むく)れた艦長と。
「やだな〜。
古代さんの『品定め』なら、何年も前に終わってますってば」
「今更、分かり切ってる事を言ってるだけだよね?」
「…お前ら、な〜っっ!?」
最初の航海から遠慮の無い、同期で、部下で…友人でもある幹部乗員たちの。
こんな事が日常茶飯事の、困った艦内の「日常」だったりする。
太田や相原なら取っ捕まえて、腕力で憂さを晴らす事だって出来なくは無いが。
ものの見事に逃げてくれて、腕力にも訴えられなければ、口ではもっと敵わない…のが1人居て。
「勝てない相手の多い奴だな、お前は」
「…って、何だよ」
同い年の副長の呆れたように呟く声に、ちょっと拗ねたらしい様子でしっかり反応するのは、まだ若い艦長。
「今、お前が聞いたままだが?」
最近すっかり、単なる密談の場と成り下がった艦長室。
それが、職務にかかわる事ばかりと限らない辺りが「成り下がった」と言われてしまう、その所以(ゆえん)。
但し、当然のように新人連中はそんな事など知らない。
艦長と副長が頭付き合わせていれば、粛々として真面目な話題が交わされていると思っている。
そんな…本当の事を、遠慮無くほざいてしまうのは…結局は幹部連中だけで。
「お兄さんに勝てない、真田さんにだって勝てない」
「…勝てる訳無いだろ」
どっちも、俺よりずっと先に生まれてるんだから、仕方無い。
その時間の分だけ、勝てるはずなんて無い。
ぶつぶつと、不満を口にする時のように、とても小さく呟きながら。
そんな古代の様子を、島は見ていないようで…見ていながら。
手も表情も、艦長を仕事に追い立てる副長のままで。
「それから、雪にも」
「煩(うるさ)いっ」
先に上げられた2人とは、全く違う理由を持つ相手の名を出されて、古代は。
ほんの微かに、朱を刷いた顔をして。
◇
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◇
自分1人の「力」なんて、たかが知れている。
たった独りでは、何も為(な)せないほど「力が無い」なんて事は、痛いほど分かっている。
偶然に、今までを生永らえてきただけ。
俺自身は、こんなに年若で…ただ弱い。
「…補修状況は?」
「真田さんから預かって来てる…これだな」
誰かに手を牽(ひ)いてもらわねば、歩けない。
誰かの手を借りねば、俺は…艦長で居られない。
あの…子供の頃に嫌と言うほど思い知った、無力なだけの…自分自身。
それを…まだ、憶えている。
忘れられないままに、こうやって…ここまで偶然に生きてきて。
「お前は、お前だろう?」
あっさりと、そう言ってしまう1人。
「俺は、俺以外の誰にもなれない。
お前だって、お前以外の誰にもなれない。
…だろう?」
自分自身を、悔(く)やもうと自惚(うぬぼ)れようと、俺は…俺。
それで良いんだ…と、許容してくれる優しい「現在(いま)」という名の時空。
優し過ぎて、居心地が良くて、甘えてしまうだけと分かっていても。
どうにも甘やかしてはもらえなかった過去(むかし)の自分が、現在(いま)を何処かしら疑いながらも…信じたがっていて。
少しばかりは満たされた現在(いま)の自分は、過去(いままで)は疑い無く信じられるから…未来(これから)を期待に騙されてみても良いかも知れない…なんて。
…苦笑しながら。
「俺だって、勝てないさ。その…3人には、な」
友人は、自分自身に困惑したような表情も見せながら。
弱いのは…何も出来ないのは、俺だけでは無いんだ…と。
本音なのか、嘘なのか…までも知れないまま、この耳に聞かせてくれて。
「…そんな事無いだろ」
聞こえてくる他人(ひと)の言葉をそのままに、信じたいのと、信じられないのと。
嘘でも…それが優しいのなら騙されていたいと思う気持ちと、嘘ならば…優しいだけ余計に…聴かされたくない考える心と。
綯(な)い交ぜの中で、この口から出て行く言葉だけは、それを否定する。
「一緒だよ。
俺もお前も、勝てない相手には…全然歯が立たないからな」
そうして戻って来る、また…それを否定する言葉に酔いそうになる。
やっぱり、嘘かも知れないと疑いながら。
やっぱり…真実なんだな、と納得しながら。
…優しさは、今。
こんな俺の周りにも、ありふれたものになっているから。
温かさなら、ずっともっと。
たった1人の女性の姿を見せて…この身の傍に、在るから。
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◇
◇
◇
…その回答。
「一旦、仲間だとか…身内だとか思い込むと、甘いからなあ。古代さんって」
全く考え込むような事無く、太田が。
「雪さんとか、島さんは当然として。
俺たち相手にまで『勝てない』のも、その所為なんですけどねえ」
呆れ切ったように、それでも苦笑しながら後を続けたのは、南部で。
「…それに気付いてない辺りが、古代さんだよね」
そう言いながら、第一艦橋の天井を…それを通り越して見えないはずの艦長室を、相原は見上げて。
「ま、ね。
きっと、一生気付きませんよ。あの人は」
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Last Update:20041221
Tatsuki Mima