Anniversary/My dear

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    子供は、たった1人居ても大変だ。 それが2人になれば、尚更の事。
「こら〜っ、喰うな〜っっ!」
    それも寝てばかりの、本当に「赤ん坊」のうちなら動かないというだけで、もっと息吐く暇も有るのだが。 動き廻るようになって、何でも「唇と舌で確認」しようとする頃だと、もう…どうにも。
    危うく口の中に放り込まれそうになっていた、ペンのキャップを飛鳥(あすか)から取り上げて。 思わず、思いっきり安堵の溜息を吐く。 そして…その代わりとして、盛大に泣かれてしまうのだが。
「…頼むからさあ…。 もっと、ちゃんと見ててくれよ〜。 お姉ちゃんだろ〜?」
    足下に、遊ぼうとしてじゃれ付いてくる弥生を見下ろしてのセリフも、相手がまだ2歳だと、無意味で無理が有る。 もっとも…あれだけ年齢が離れている実兄が、0歳児の自分を真剣に面倒見てくれていたかどうか。 それを知っていないから、そんなセリフも出てくる訳だが。

    2回目の産休の明けてから、育児休暇もそこそこに。 雪は、早々に秘書の仕事に戻ってしまって。 勿論、本日も朝から出勤、帰宅はきっと…早くない。
    …おかげさまで。
    航海と航海の隙間、必要な書類も終わって休暇のはずの数日間の昼間に、保育士の如く体力と声の尽きてしまう古代だった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    当たり前だが、夫婦ともに仕事を持っているのだから、その子供は何処かに預けられて育つ事になる。 それは、致し方無い。
    古代には兄夫婦、雪には両親が身近に居て、そのどちらも全く預かってくれない人では無い。 いや…どちらかと言えばむしろ、面白がって預かってくれる人たちかも知れないが。 2人ともほぼ毎日、延々と長時間預けてしまう程には図々しくも無い。
    だから、然(しか)るべき施設を利用は…している。
「…当たり前でしょ。 だって…普段居ない人が、家に居るのよ? はしゃぐに決まってるじゃない」
    それらしい時間に食事をさせて、適当な時間に寝かし付けて。 やっと静かになって、本日の疲労にぐったり…と伸びているところに戻って来た奥さまの、容赦無いお言葉。
    航海(それ)が仕事だとは言え、確かに宇宙に居る方が永く家を空けてばかりの古代である。 それを皮肉られたようで、ちょっと…むっとして。
    勿論…雪の方では、そんなつもりは全く無く。 食べさせる事に手一杯で喰いっぱぐれている古代の分と2人分、遅い夕食を温め直しながら。
「だから、ちゃんと連れて行って…って言ってるじゃない。 もう…っ」
    何処にしろ誰にしろ、預かってくれるからといって迎えに来てまでくれるとは限らない。 …という事は、仕事の為に預けざるを得ない雪の場合、出勤前に連れて行く事になる。
    ただ、出勤するだけでも何かと慌しい朝だ。 余計な…とは思いたくないし言いたくも無いが、忙しい時間に廻り道をしたくない…のも、事実。
    だから、雪も無理にとは言わない。 だけど、古代の方でもそれが分かるから。
「…俺だって、そのつもりではいるけどさあ…」
自分の地上に居る間くらい…とその送り迎えを快く、古代の方から言って引き受けた…は良いのだが。

    準備もさせて、さあ…と思ったところへ。
「やー、行かないー。 パパと居るー」
思い出したようにわがままに、だが…どうにも嬉しくなってしまうような言葉を、笑顔で言われてしまうと。

    それで…つい。

「…馬鹿」
    温まった皿を両手に、テーブルまで戻って来た雪が呆れたように呟いて。
「煩(うるさ)いな〜。 どうせ馬鹿だよ、放っとけよっ」
それに対して、古代が拗ねてみる。 しかし、この年齢では可愛くも何とも無い。
    仕事を持っていようと、それがどれだけ忙しかろうと、ほぼ毎日間違い無く顔を合わせて会話して…という雪に較べれば。 航海で離れている時間が永い分だけ古代は、わがままで気紛れで、ころころと変わる子供の言動に免疫が無い。
    ちょっと拗ねられてしまえば大いに途惑って、ちょっと泣かれてしまえばどうして良いか分からなくて狼狽(うろた)える。 そんなだから、ちょっと可愛らしい事を言われてしまうと思いっきり舞い上がってもしまって。
「甘やかさないでよ」
「…そんなつもり無いけどさあ」
    旦那さまが拗ねている間にも、温めるだけの食事の準備は終わる。 言葉にではなく、雪の仕草にそれに気付いて、2人のとても遅い夕食がやっと。
    甘やかすつもりも何にも無いけれど、客観的に見れば相当に甘いんだろうな…とは自分でも。
「明日は、ちゃんと預けてね?」
「はい、はい」
    雪の言葉に、無理…かもなあと苦笑しつつ、生返事。
「はいはい…じゃ無いわよ、進さん。 こんなんじゃ、貴方の『休暇』にはならないでしょ?」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    慌しい朝に、雪を見送って。 こっちもまた騒々しく、散らかしながら朝食を終わらせて。 弥生を着替えさせて荷物を持たせて、自分は片腕に飛鳥を抱え上げて。
    良ーし、今日こそは絶対に。
「えー、やだー。 パパと遊ぶー」

    そして、やっぱり昼になる前に後悔し始めている古代だった。

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Last Update:20051007
Tatsuki Mima