「あのねー、怖い夢見たのー」
ひどく怖がって泣きながら、その合間に途切れ途切れにやっとその理由を。
一生懸命にしがみ付いてくるのを、身体ごと抱き締めて。
…こんな場合(とき)、あいつならどうしてやるんだろう?
何をするのも、まずそれが全ての判断の基準。
何故なら、俺は「父親」では無いから。
俺は…ただ「父親の代わり」以外の何者でも無いから。
「大丈夫だ、もう怖くないだろう?」
1年の期限、いつか別れる事は承知の上。
そう…何もかも、最初から。
◇
◇
◇
◇
一度は父親と呼んだ人間を、今更…それ以外の何と呼べば良い?
「ねえ、ねえっ。お義父さまっ」
その意味では俺は、いつまでも沿うと呼ばれて…恐らくは死んでしまうその瞬間(とき)まで、ずっと。
少し考えてみれば、それは至極当然の事だった。
だが…違うだろう?
もう取り敢えず、人目を避けている必要も無い。
俺の後ろに隠れて、自分が一体誰なのかを偽る必要ももう無い。
現在(いま)は真実の親と一緒に暮らして、俺の傍には居ないのに。
それでも…感情は、正直だ。
そんなわずかな途惑いも蹴散らすほど、そうと呼ばれて嬉しがっている俺も…居る。
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Last Update:20051007
Tatsuki Mima