Day-to-day:05 / 夢を見て

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    外はどれだけ寒くても、部屋の中は空調が効いていて暖かく快適だ。
    それがベッドの中なら、尚更。 布団だけでも充分に暖かいが、そこには愛する奥さまもご一緒なのだから…それ以上に。
「…って、飛鳥〜」
    言っても、仕方が無い。 仕方が無いとは思うが、やっぱりお子様は…お邪魔だ。 例え、それが我が子が泣きながら這い上がってきたのであっても。
    いや…我が子だからこそ、余計に。
「なあに?どうしたの、飛鳥?」
何故なら奥さまは旦那さまより、どうしてもそんな様子の子供の方を優先してしまうから。
「あのねえ…」
    ぐすぐす…と、見た夢の怖かった事を切れ切れに訴える飛鳥に。 雪は、隣に居る古代の事なんて思いっきり忘れて、そちらに掛かりっきり。

    …諦めよう、今日のところは。
    どうせ聞こえやしないだろうが、ものすごく控えめに一つ溜息を吐いて。 不承不承布団を被って、不貞寝を決め込んだ古代である。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「あ〜…変な夢、見たわ」
    最低限の「お肌のお手入れ」はしても、化粧を塗りたくるつもりの無い場合は、朝に余計な時間を費やす事は無いようで。
「…そうか? 良かったな」
起きて、顔を洗って…プラスアルファ程度の時間で、朝食のテーブルまで辿り着くサーシャである。
「良くないでしょ、ちっとも」
    わざとなのかどうなのか、守と話の噛み合わない事なんて結構日常茶飯事。 今更…あんまり腹も立たないが、一応突っ込んではおく。

「あ〜っ、もうっ! 忙しいんだってば、僕もっ!」
    古代に島、南部は航海勤務で、地上で捕まえる事は元から難しい。 ちょっとばかり前から太田も、ようやく航海勤務に戻ったので同じく。 雪は、滅多に捕まるものじゃない。
    守と、その秘書している晶子の「邪魔」をする勇気は有るが…後が怖い。
    従って、専(もっぱ)ら相原の邪魔ばかりする事になるのだが。
「も〜っ、逃げた〜っ」
その相原に、本気で逃げられたら…司令本部の中には、サーシャが話を持ち掛ける相手が居なくなる。
「…で、何故。俺の所に来るんだ?」
    いや…同僚たちとも普通に雑談くらいするから、全く居ない訳でも無いのだが。
「え? うーん…何か、お義父さまを良く知ってる人じゃないと駄目な気がしたのよね」
話の中身で、話す相手を選んでみるからこういう事態にもなる。
    …という事で、科学局。 真田の研究室(ラボ)に、その仕事中を邪魔しに来たサーシャだ。
「だから…何なんだ?」
    夢見がどうこう…というところまでは、部屋に入ってきながらまくし立てた言葉でご存知だったが。 そこから先、その内容だとか、サーシャがそれに付いてどういう感想を持っただとか…という事は、まだだ。
「うん。 夢の中でね、なんだか知らないけどお父さまとお母さまが喧嘩しちゃってて」
「向こうはともかく、古代は喧嘩しないだろうが」
    学生時代から変わってさえいなければ、守が女性とは口論に至らないはずだ。 まあ…それもサーシャのように、女性で無く「女の子」ならその限りでも無いが。
「そうね。 私も見た事無いわ」
    …でね、とサーシャは夢の続きを語った。

「…在り得ないだろうが」
「そう?」
    在り得ない。
    喧嘩したその勢いのまま、あの2人が別れる…ところまでは、まあ…良いだろう。 それまで在り得ないとは、言い切れないのだから。
    だが、その後。 どうして、よりによって「その再婚相手」が俺になる?
「え〜? 私、どっちでも良いような気がするんだけど」
「良くないだろうっ!」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「ねー、パパー」
    足下から小さな声と、軽く引っ張られる感触。 優梨だ。
「一緒に、寝よ?」
「…はい?」
    古代なら大いに舞い上がって、ベッドに直行しそうな「娘のセリフ」だが。 生憎と、南部にはあんまり効き目は無い。
    何故なら、長女の方はそんな可愛らしい事を言ってくれた事なんて無いから、だ。

「ああ…それ、何か怖い夢見てるらしいのよね。ここのところ」
    奥さまは月面なんぞに出張中、簡単に逢いに行けるような距離でも無くて。 独り寂しく寝てしまうよりは良いか…と、遊梨の言葉を了承したのが運の尽き。
    はしゃいでくれて、なかなか寝てくれないわ。 寝たら寝たで、しがみ付いて離してくれないわ…で。 もう、しっかりと寝不足。
「パパの居ないのはいつもの事だけど、今はママも居ないし」
「そういう事、ですか」
    その上に、休暇中の南部にしては…だが朝も早くから起こされてしまって。
「…俺、も1回寝て良いですか? 絵梨さん?」
「朝ご飯、食べ終わってからなら」
    食べてくれないと片付かない、片付かないと学校に行けない。 だから、まだ大して食欲も無い南部の目の前に、容赦無く絵梨は皿を並べていく。
「でも、優梨を何処かに預けてこないと眠れないと思うわよ。 多分」
    絵梨の指差した先に、何かを…ものすっごく期待しているらしい顔で、南部の上着の裾をしっかり捕まえている優梨が居て、思いっきり見上げてくれていた。
「…えーと、優梨さん?」
「はーいっ」
    ヒトの気も知らないで…の良いお返事に、いっそ眩暈がしそうだ。
「俺…寝たいんですけど〜?」
「じゃ、一緒に寝よ?」
そのついでに、15年後には言って欲しくないようなセリフを、とってもにこやかに可愛らしい笑顔で。

「絵梨さ〜ん。 学校、休みません?」
「…休んでも良いけど、遊梨の面倒は見ないわよ?」
    きっぱり言い切った後、泣き付いてくる父親を放っておいてとっとと登校する絵梨だった。

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Last Update:20070729
Tatsuki Mima