こんな日常:04

NovelTop | 第三艦橋Top

    そこまで安普請では無い、防音はそれなりだ。 だが、あくまでも「それなり」でしかない以上、ヒトの名前を大声で呼ばわりながら廊下をどたばたと走ってくれば、まだ辿り着かないうちから充分気付く。
「…またか」
    それが誰だか、そして何処が目的地なのか分かったから。 ベッドの上、転がっていた山本が読んでいた本を捨てて起き上がる。
    戸口に待つ事、ほんの数秒。
「静かにする…って芸当、無いのかっ!お前にはっ?」
開いたドアの向こうに居るのが誰か…と確認しないまま、思いっきりぶん殴っておく。
    ドアの開くを待ちかねて、飛び込んでこようとしていた加藤だ。 一瞬、目の前が暗転し、飛び交う星を見た事は言うまでも無い。

「…死にますよ?」
    そう言った南部の言葉に。
「死ぬかっ、こいつが」
「殺すなっ!」
…と、山本の返答とほぼ同時に返ってくる辺り。 身体だけはとことん丈夫な、加藤である。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    何の事は無い。
    古代が、島には既にバラしてしまっている事が結果として出た為に、ある意味ものすごく暢気な加藤の耳にまでそれが届いただけの事である。
「お前、しっかり取得(と)ってやがるじゃないかよっ!」
    …それだけの文句を言う為に廊下を突っ走ってきて、挙句。 殴る蹴るにも遠慮と容赦の無い友人に、見事吹っ飛ばされていれば世話は無い。
「取得(と)らない…と言った憶えも無いけど?」
    勢い込んで言ってくる加藤に、しれ…っとした顔であっさり返す辺り、南部の根本的な性格が知れる。
「単独(ソロ)で曲技飛行(アクロバット)出来る程度には自信が有る…とも、言いましたよ?」
「…まあ、そうだろうな」
    横から、納得した…と口にしたのは山本の方。
    その点では加藤と同じく、最初っから専科を何処に選ぶか決めていた。 だから、他はどうでも戦闘機シムの成績(スコア)だけは、ずっと気にしてきた訳だ。
    加藤が未だに再戦、再戦と小煩く言うほどの、基礎過程での数回の結果を、今でも南部がコンスタントに出せる…というなら。 下手したら、飛行専科の誰より好成績で資格試験に合格しても、当然。
    そもそも、並みの自信しか無いようならせいぜい「飛べる」と。 少なくとも、南部のように「曲技飛行が出来る」とは言わない。
    だから、あっさりと納得した訳だ。

「…砲術のくせに〜」
    この辺りが、加藤の文句の拠(よ)りどころ。
    そう。 南部が同じ飛行科に属(い)るようなら、何の文句にもならない。 せいぜい、負けてたまるか…と無駄に一方的な対抗意識を燃やすだけの事。
    いや…今の状態も、無駄に一方的な対抗意識を燃やしていないとは言えないが。
「何なんだよ…ったく、もー」
    既に「煩い、喧しい」との突っ込みは山本から入っているのだが、それがまだ腕力になっていない為に加藤の口は続いている。
「古代とかってのも、艦と機と取得(と)ったらしいし。 今年の砲術は〜っ」
    …南部の事が聞こえたようなら当然、ほぼ同じ状況の古代の事だって聞こえている訳である。
「ああ、あの人は…変わってますからねえ」
    砲術…戦闘士官を目指しながら、操艦や戦闘機に興味も示す辺り。
    それと、もう一つ。 基礎過程で1年半、同じ教室に顔突き合わせてもきたはずの自分を…どうやら憶えていなかったらしい事も、南部にしてみればそれ以上に。
「変わり者…は、お前もだろうが」
    山本は取り敢えず「思っただけ」で済ませたが、加藤の方はそれもはっきりと口にする。 そして、決して間違ってはいない。
「…そうですか?」
「そうだよっ!」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「だって…皆。 軽飛行機だとか小型船舶だとか、当たり前に取得(も)ってますからねえ」
    だから、入学以前に船舶、滑空機…といった資格(もの)も持っていた訳だし。 艦艇、小型機もその延長線上でしかなかった。
    実に、しばらく振り。 ようやく落ち着きもして、手紙に南部を呼び出していた木崎は…そこまで黙って聞いていたが。
「…普通、そういう一族はあんまり居ないって事に気付いとけ。馬鹿」
ついでに、誰だかに言われた通り「自分が、変わり者だ」という自覚も持ってろ…と、一刀両断。
「あれほど、無駄に目立つなっつったろーが。お前は〜っ。 言葉(くち)も全っ然、直ってねえしっ!」

    こちらもまたしばらく振りに、言葉遣いに添削受けまくった南部である。

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Last Update:20060830
Tatsuki Mima