常々「俺は飛行機乗りになる」と公言しまくって、それが可能だろうフライトシムのスコアを叩き出している奴なので。
このクラスで、飛行科を1度でも考えた事のある連中には、加藤は大きく意識されていた…と言って良い。
そして加藤は、自分と同類…飛行科志望と見るといきなり懐いてくる奴でもある。
違う言い方をすれば、いきなり馴れ馴れしくなる…とも言うが。
「こないだ、上手い奴見たぜ」
「ああ…そう」
だから、加藤がこんなセリフを言った場合。
その「上手い」というのは、フライトシムの事を言っていると思ってほぼ間違いない。
「でも、誰だか分かんねえんだよな〜」
「…へえ」
基礎過程に1年以上、同じ顔突き合せているのだ。
どれだけ他人の顔を憶えるのが苦手な奴でも、もう…いい加減クラス全員を憶えていて当然。
…という事は、少なくともこのクラスの人間ではなかったという事だ。
「誰だったんだろうなあ」
「さあ、な」
どうでも適当に答えながら、加藤の「上手い奴」という言葉に南部の顔を思い出していた山本である。
このクラスじゃない…という条件が付くと、寮の同じ部屋に始終突き合わせている顔しか思い浮かばなかった…というだけだが。
まあ…加藤の言ったのが、本当に南部なのか知れたものじゃないし。
そうだったとしても当人は砲術って言ってるしなあ…という事で、自分の思った事は黙っておいた。
◇
◇
◇
◇
「…お前、俺の話聞いてないだろ?」
「いや、聞いてる。聞いてる」
加藤の疑わしげに睨み付ける視線も、何のその。
そもそも、話し掛けている加藤の方を向いていない。
背中こそ向けていないが、余所向いて。
その上、ご丁寧に図書室から借り出してきた本を開いていたりして。
「聞け〜っ!!」
「ああ、はいはい」
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Last Update:20080719
Tatsuki Mima