Watershed:06

NovelTop | 第三艦橋Top

    直撃喰らうのは避けられても、反応遅れてかすめていく事は良くある事。 そんなかすり傷も数多く重なれば、致命傷となる事も…無くはない。
「…っ」
    撃墜(お)とされて暗転する画面に、ち…っと舌打ち。

    シミュレーターの内部空間は、実機のそれとほぼ同じ。 しかし、その空気はシミュレーターの方が数段重く感じる。 それはきっと、窓の外に空間の有る事を素通しに見て取れるのと、窓では無い画面にただ映し出されているだけ…の差なんだろう。
    その閉塞感に息苦しく、扉を開け放して記録(レコード)の吐き出されるを待った。

    島にも言われた通り、進む専科を砲術に定めるに全く悩む事無かった古代である。
    悩んではいないが、フライトシムを突付くのが楽しいのは事実。 突付いて相当に良いスコアの残せる事も、きっとその理由の一つなのだろうが。 こっちの方に適性の有るように思う事も、理由のまた一つじゃないかと感じていた。
    外す事無く的を射抜く事と、自在に機を操縦する事と。 自分の適性はどちらに傾いているんだろう…と、悩むでは無くただ思う。
    もしかしたら選んだ砲術よりもこっちの方が、よっぽど。 そんな気さえ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「お、良いスコア」
    いきなり頭上から降ってきたセリフに、思いっきり驚かされた古代だ。
    反射的に振り仰いだら、斜め後ろから一杯に被さるようにして記録(レコード)を覗き込んでいる見知らぬ顔が一つ。 思っていた以上にその顔が近くて、また少し引いた。
    恥ずかしく思うようなスコアじゃなかったが、ほんの少し角度を変えてそちらからは見えにくく。
「やっぱ、飛行科?」
    見ていた記録(レコード)を隠された事なんて、全く意に介していないような顔をして、そう。
    自分を2年と見て、やっぱり飛行科を選ぶのか…という意味なのか。 それとも…それ以上と見て、やっぱり飛行科の学生(ひと)なんだな…という意味なのか。
「いや…」
そのどちらとも判別付かなくて古代は、その語尾をものすごく曖昧にして返した。
「ふ〜ん」
    どっちの意味で答えたと思って納得しているのか、相変わらず良く分からない。

    他人と話すのは、苦手だ。 苦手だが、必要に迫られればそれも仕方無いとは思う。
    逆に言えば、どうしても…という必要が無いなら話さないで済ませたい。 それをもう一つ裏返せば、他人と話したくないからなるべく顔を合わせずに済ませたい。
    話をして…話をしようと身構えて疲れないで済むのは、今のところ兄さんと島だけ。
    兄さんと話して疲れないのは、子供の頃から身近に居て慣れているから…だろう。 島と居ても、疲れると思わない理由は…良く分からない。

    授業じゃない、いわゆる「自習」という奴だ。
    今日の時間割(シラバス)終わらせて、それからずっと好きでここに居た。 かれこれ2時間。 大した休憩も無く画面を見続け神経尖らせてきたので、いい加減目の奥辺りも痛い。 反射の落ちている事も、スコアに出始めてきている。
    そろそろ、止め時だ。
「お」
    1回ごと吐き出させた記録(レコード)の束だけを引っ掴んで、覗き込んできた奴の横を軽い会釈も無しにすり抜けて。
「…何だ、詰まんねえ」
    そいつのぼそ…っと呟くのも聞きながら、部屋を出た。

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Last Update:20080719
Tatsuki Mima