直撃喰らうのは避けられても、反応遅れてかすめていく事は良くある事。
そんなかすり傷も数多く重なれば、致命傷となる事も…無くはない。
「…っ」
撃墜(お)とされて暗転する画面に、ち…っと舌打ち。
シミュレーターの内部空間は、実機のそれとほぼ同じ。
しかし、その空気はシミュレーターの方が数段重く感じる。
それはきっと、窓の外に空間の有る事を素通しに見て取れるのと、窓では無い画面にただ映し出されているだけ…の差なんだろう。
その閉塞感に息苦しく、扉を開け放して記録(レコード)の吐き出されるを待った。
島にも言われた通り、進む専科を砲術に定めるに全く悩む事無かった古代である。
悩んではいないが、フライトシムを突付くのが楽しいのは事実。
突付いて相当に良いスコアの残せる事も、きっとその理由の一つなのだろうが。
こっちの方に適性の有るように思う事も、理由のまた一つじゃないかと感じていた。
外す事無く的を射抜く事と、自在に機を操縦する事と。
自分の適性はどちらに傾いているんだろう…と、悩むでは無くただ思う。
もしかしたら選んだ砲術よりもこっちの方が、よっぽど。
そんな気さえ。
◇
◇
◇
◇
「お、良いスコア」
いきなり頭上から降ってきたセリフに、思いっきり驚かされた古代だ。
反射的に振り仰いだら、斜め後ろから一杯に被さるようにして記録(レコード)を覗き込んでいる見知らぬ顔が一つ。
思っていた以上にその顔が近くて、また少し引いた。
恥ずかしく思うようなスコアじゃなかったが、ほんの少し角度を変えてそちらからは見えにくく。
「やっぱ、飛行科?」
見ていた記録(レコード)を隠された事なんて、全く意に介していないような顔をして、そう。
自分を2年と見て、やっぱり飛行科を選ぶのか…という意味なのか。
それとも…それ以上と見て、やっぱり飛行科の学生(ひと)なんだな…という意味なのか。
「いや…」
そのどちらとも判別付かなくて古代は、その語尾をものすごく曖昧にして返した。
「ふ〜ん」
どっちの意味で答えたと思って納得しているのか、相変わらず良く分からない。
他人と話すのは、苦手だ。
苦手だが、必要に迫られればそれも仕方無いとは思う。
逆に言えば、どうしても…という必要が無いなら話さないで済ませたい。
それをもう一つ裏返せば、他人と話したくないからなるべく顔を合わせずに済ませたい。
話をして…話をしようと身構えて疲れないで済むのは、今のところ兄さんと島だけ。
兄さんと話して疲れないのは、子供の頃から身近に居て慣れているから…だろう。
島と居ても、疲れると思わない理由は…良く分からない。
授業じゃない、いわゆる「自習」という奴だ。
今日の時間割(シラバス)終わらせて、それからずっと好きでここに居た。
かれこれ2時間。
大した休憩も無く画面を見続け神経尖らせてきたので、いい加減目の奥辺りも痛い。
反射の落ちている事も、スコアに出始めてきている。
そろそろ、止め時だ。
「お」
1回ごと吐き出させた記録(レコード)の束だけを引っ掴んで、覗き込んできた奴の横を軽い会釈も無しにすり抜けて。
「…何だ、詰まんねえ」
そいつのぼそ…っと呟くのも聞きながら、部屋を出た。
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Last Update:20080719
Tatsuki Mima