Growing up:01

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    何処にでも喋る事が好き、賑やかな事が好き…ってな奴は居るもんだ。
    こんな時代でも、こんな事態でも。 そして…こんな訓練学校(ところ)でも。
──…苛々する。
──何でこんなに、暢気なんだろう? 今まで、こんなに人間(ひと)が死んでいるのに。
──人間だけじゃなく、地球(ほし)さえ死んでしまうかも知れないってのに。

「なあ?お前は?」
    不意に降ってきた言葉に顔を上げれば、名前もまだ憶えてないがそれなりに見知った顔。
「騒げるのなんて、どうせ今のうちだぜ?」
何が面白いのかにこにことして、心底楽しげに話し掛けてくる。
    聞くつもりなんかなく耳に入っていた言葉を、薄い記憶から一生懸命手繰ってみれば。 まだ本当に「基礎の基礎」の座学しかない今のうちに、遊べるだけ遊んでおこう…というような話だったような気がする。
──何しに、こんな所まで来たんだ?
呆れるのと、腹立たしいのとは同じくらいに。
──これからだって…一体どれだけの遊星爆弾が降って来て、一体どれだけの人間が死ぬのか分からないってのに。
    そんな苛立たしさは、顔に出なかったんだろうか? 当り障り無く断る言葉に、なおもしつこいまでの誘い。 それに、むしろ戸惑ってしまった自分。
「いや…俺は…」
戸惑いなど通り越して、うろたえていたかも知れない。
「俺は…こいつと、ちょっと約束してるから…っ」
    視界の端に有った腕を掴んで、咄嗟な言い繕い。
──何やってるんだ…。
はっきりきっぱり切り捨ててしまえば良いものを、表面を取り繕おうと焦っている自分の優柔不断さ。 そんな「約束」が無い事など自分も承知なら、相手にだって分かり過ぎている。 言い訳にもならない、言い訳を。
「…そういう事なんで、2人とも不参加だ。悪いな」
    …だから、如何にも調子を合わせてくれたような答えは、とても意外で。

    誘いを蹴られて、一瞬詰まらなさそうに。 しかし、すぐまたにこにこと愉快そうに次の標的を口説きに掛かる。
    巧く断れたような様子に、思わずほっとする。
「あ…悪い、助かった」
「いや…興味無かったから、俺もどの道断るつもりだったし」
思い出したように謝意を述べる俺に、言い訳に付き合ってくれた奴はさら…っと返してきて。
「…どうでも良いが、そろそろ離してくれないか?」
言われて初めて、自分がまだその腕を…袖口を捕まえたままだった事に気付いた。
    慌てて手放して…ふと、思い出した。
「お前…誰だっけ?」
我ながら間抜けた問いだが、本気で俺はその名前を憶えていなかった。
「人の名前も知らないで、ダシに使ったのか?」
「いや…さ。お前は今まで、俺に話し掛けてきた事無かったんで…」
    それは…本当。
    普通に「友人になろう」と言わんばかりのにこやかさで、手当たり次第自己紹介を掛けてくる連中にうんざりしていた。 何をする為にここに来たんだ…という思いが強くて、友人を作る為にここに来たんじゃないんだ…という思いが強くて。 まだ入学したばかりからかも知れないが、あまりの暢気さに苛々して。
    だから…あの焦っていた時に、言い訳を探していた時に。 誘うにこやかさと暢気さに戸惑って慌てていた時に、今まで話し掛けて来なかった人間に縋り付いたのだ。 何となく…他の連中よりは、自分に近いような気がして。
「ああ…それなら」
──何だ…こいつも、笑えるのか。
    さっきから今まで…いや、正確には多分入学してから今まで。 無表情に近いような仏頂面をしていたのが、初めて苦笑を見せた。
「俺は、自分から話し掛けたことが無いからな、まだ。 お前だけじゃなくて」
何がおかしかったのかは良く分からないが、そのままくすくすと笑い続けて。
「じゃあな」
    そのまま軽く手を挙げて、離れようとする背中に。
「あ、おい…」
「島だよ、俺は。 島大介」
慌てて投げかけた言葉も、途中で切られてしまった。

    そんな理由で訓練学校に入学して、最初に顔と名前が一致したのが、島だった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …ああ、あの時の事か?
    そりゃ、まあ…驚いたさ。 古代の横を通り過ぎるだけのつもりが、いきなり引き止められたんだから。
「何なんだ、こいつ」
…って感じだったかなあ…。 いや…驚いたってのもあったけど、呆れた…って方が近かったな。
    なんて言うか…ああ、ほら。 溺れた猫だ。
    必死なのは分かるけど、助けてやろうとしてるのに爪立てるな、暴れるなよ…って。 そうそう、あんな感じだったよな。 こう…見捨てたら「可哀想」とかじゃなくて、化けて出て来そうだな…って。
    …悪い、悪いっ。 でも、嘘は言ってないからな。俺は。

    おかしかったんだよ、あれは。 何が…って、どうして俺なんだ…って思ってたら「話し掛けてきた事が無いから」なんて理由だろう?
    ものすごい冗談を、真面目な顔して言う奴だな…って思ったんだよ。 あれが「本気だった」って聞いた時には、もっと笑ったんだけどな。

    …ところで、古代?
    あの時、お前に誘い掛けてた奴って…誰だか憶えてるか?
・・・・・・・・・・・・・・。
    やっぱり…。 あの頃のお前って、本当に「他人の事」なんか、どうでも良かったんだなあ。
    …え?俺は憶えてるよ、勿論。 お前も俺も、良〜く知ってる奴だから。 何なら、ゆっくり思い出してみるんだな。

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Last Update : 20040108
Tatsuki Mima