X 運命の輪(THE WHEEL OF FORTUNE)
正位置の意味:転機・好転・因果応報・始まりと終わり・運命の出会い
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レーダーが反応を示す。
何らかの連絡より先に、レーダーが捕らえてしまうものは…十中八九、遊星爆弾。
「またかよ…っ」
「…これ、変じゃないか?」
2人きりだと、相手が黙っているのに自分1人が喋るのは間抜けだし。
島が喋っているのに俺が黙ってるのは、何だか…悪いし。
「何が?」
「遊星爆弾にしては、脚が速くないか?」
何となく。
どんなに短い返事でも、真面目な事もふざけた話も、必ず往復になって。
…地球に居るより、よっぽど「会話」してるんじゃないか?
俺たちって。
「じゃあ…」
一体、何なんだよ?
言い掛けた言葉は、足下からの衝撃で引っ繰り返されてしまって。
「…んなんだよっ!?」
さっきの続きではなく、全く別の意味で同じような言葉を。
「墜落…か、着弾だよ」
それには、島がやっぱり起き上がりながらも、しっかり答えて。
「地球司令部より、指令。
墜落した飛行物体の、正体を確認せよ」
今度は、スピーカーが会話に割って入った。
「飛行物体…って事は、遊星爆弾じゃないんだな」
観測所の、レンジも狭いような簡式なレーダーはともかく。
司令部で今更、遊星爆弾を見間違えもしないだろうから。
「だから、冥王星…」
「だから、距離が有り過ぎるって言っただろう?」
…言いたい事くらい、全部言わせろよ。お前は…。
そう思いながらも、当たり前のように…何故かじゃんけん。
「あ、また俺の操縦かよ」
基地建設の為の、準備施設としての観測所。
基地建設なんて、それどころじゃない状況に何年も前から凍結されているらしいし。
俺と島が居る事で分かるように、最早ただの訓練学生の合宿所…みたいなもんで。
専門の整備員が居る訳でも無い、旧式の探索艇は俺でも嫌なくらい操縦しにくくて。
「操縦は、島の領分じゃないか…」
俺も島も、ここに来てからせいぜい整備してご機嫌を取ってみたのだが。
以前に居た誰かが、変な癖も付けてくれてたようで。
どうにも手に負えない機体に、いつの間にか…こんな席決めの方法を。
「小型機は、俺の範疇じゃない」
さら…っと言ってのけながら、島はとっとと後部ナビゲーター席に。
「俺だって、小型機は専門じゃないよ」
まあ…得意な方だし、そこらの連中に腕で劣ってるつもりも無いけど。
一応…砲術なんだよ、俺の専門は。
「文句は後にして、さっさと乗れよ」
「乗ってるだろう、今っ」
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後ろから、島の言う通りの方角を目指して…。
「20分、左にずれてるぞ」
あー、煩(うるさ)い。
1度もずれてないって事だろうが、それって。
「1度も違ってたら、あさっての方向に辿り着くな」
「微修正、効きにくいんだよっ!」
これが操縦しにくい事なんて、百も承知してるくせに、いちいち可愛くないなあ。もう。
「…今度は、右に4度」
結局、島が思い描いているコースを右に左にジグザグと、はみ出す度に後ろからぶつぶつと言われながら。
「おい、島っ。あれだっ」
視認してから、俺が言うより。
計器上で位置を把握してる島の方が、先に分かってるような…気もしたが、一応。
「宇宙船らしいぞ」
…見れば、分かるよな。
小型艇…って辺りだな、戦闘用…って感じはしない。
せいぜい、4〜5人乗りって所だろう。
火星の薄い大気の中でも、派手に煙を噴き上げている。
墜落した…と気付いてからでも、ざっと20分。
「…爆発するかな?」
燃え続けるには酸素の無い大気の中で、未だに…という事は、何らかの手段で火点に酸素が供給されているという事。
「さあ…しないとは、言い切れないだろうな」
少し離れた位置に、円筒様の物体が。
こちらは、さしたる損傷も見えないし、煙を噴いてもいないようで。
そっちで燃えている船体の一部…というよりは、多分。
「脱出用のポッドか?」
…何か、さっきから俺、島に振ってばっかりいるな。
「生存者が居るとしたら、あっちの方だろう。
調査は、あれからだな」
生存者云々…なんて事が無くても、普通はあっちからだよな。
燃えてる船体に、特別な装備も無いのにうかうかと近付いて、怪我でもしたら…馬鹿だ。
「降りるぞ」
近くまで来てみると、意外と大きくない。
でも…やっぱり、ガミラスのものでは無さそうだな。
地球のものじゃないのは、もう…一目瞭然だったけど。
蜘蛛のような脚で、本体を支えてる。
こういうの…何処かで見た事が有るなあ。
ほら、何か…大昔の。
「軟着陸船だろう?
月とか…火星とか」
でも…この感じなら、衝撃の吸収の役には立ってなさそうだな…と、島は続けて。
扉らしきものが、開いたままになっていた。
それも、着地…というより墜落のショックに耐えられなかったからかも知れない。
もしこれが、最初に思った通りに脱出用のものだったとして。
乗ってたはずの人は…どうしたんだろう?
そこから覗ける、狭い空間には人の姿は見えなかったから。
扉の開いてしまうほどの衝撃に、弾き飛ばされてしまったのか。
乗れないまま、空のまま射出されてしまったのか。
…だとしたら、あの燃えている船内に…まだ居るんだろうか?
「操縦する…って感じじゃないな」
元々、航法が専門の奴だから、島には操縦のシステムとか、機関の方に興味が有るようで。
「俺たちの感覚で、物を言うのも間違ってるかも知れないけど。
これ…殆ど、方向変えられなさそうだぞ?」
この際、内部は島にお任せ…って事にしておいて。
自分は、さっきから外側を。
屈(かが)み込んで見ていた背を伸ばして、在り得ない「色」を見たから。
「…おい、島」
現在の地球のように、乾いて赤茶けた岩と土。
極に近いからどれも薄く白い色に凍り付いて、少しばかりはそんな色も薄くなって見えるけれども。
金と、濃いピンク。
いや…赤紫色って方が正しいのか?
どっちにしても…火星の自然の中には在り得ないはずの色。
しかも…それは、人の姿にも見えたから。
近寄ってみれば、やっぱり…人。
それも、かなり華奢で「女性」にしか見えなくて。
男の俺としては、何だかちょっとばかり遠慮がちに、半身を抱き起こしてみたりして。
「死んでる…」
普通は…死んで当たり前だよな、地球人なら。
火星の大気中で死なない為に、俺も島もこんな格好してるくらいなんだし。
「何だ…?通信カプセルか?」
姿勢が変えられた事で、彼女の手から転がり出たらしいものを。
島は拾い上げて、じっと見ていた。
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確認しろ…という命令なんだから、確認しました…という報告をやらなきゃならない。
本体はまだ燃えているから、取り敢えず遠巻きに映像を撮るくらいに止(とど)めておいて。
ポッドの方は逆にほぼ完全だから、勝手にバラしていいものか困って、これもまた映像だけにして。
「持ち運べる資料」として、取り敢えず通信カプセルらしきものと…彼女を。
「…『資料』って言い方も、何だけどなあ…」
人間の1人くらい、楽に収納出来る貨物スペースは有ったけれども。
それも…あんまりな気がして、後部座席に。
当然、どっちか乗れなくなるからまた例の方法で、また…負けて。
彼女を観測所まで一旦運んでから、島を迎えに行く…という面倒な往復を。
2人揃ってから、報告を。
最初に、映像を送り付けてしまってから、口頭での報告。
おおよそは満足して戴けたらしく、誉め言葉も無い代わりに叱責も無い。
島が、ポッドの方には操縦する…というほどの機能が無さそうな事を報告した所為か、そっちはそのまま捨て置いて。
本体の方から、幾つかのパーツを引っ剥(ぺ)がしてこい…という追加の指令を受けた程度。
通信が途切れて一番最初に、少しばかり明るめの島の声。
「…じゃあ、彼女を埋めてやりますか」
ほっとしたのは、島だけじゃない。
俺だって同じだ。
「…って、この辺りで良いのか?」
「え?」
地球外の物質に興味が有るように、地球外の人間だって興味が無い訳じゃない。
特に今は、地球外の何者か…と戦う事を強いられているのだから、余計に。
「だって…死んだのは、あそこだろう?」
…が、地球との距離の所為か。
出来れば…同意を取り付ける事も適わない死者に対する、人道的な気持ちから…だと思っていたいが、いずれにせよ。
少しばかりの髪と、衣服の切れ端だけしか、通信機の向こうは要求してこなくて。
「…どうやって?」
彼女の生命を落としたのは、極冠にほど近い場所。
公転に居場所を移せば融けもするだろうが、生憎と今は地面も凍り付いている時期で。
とてもじゃないが、人の手では掘り起こせない。
折角、余った部屋の中に運び込んだ身体を、また人間の生きられない大気に曝(さら)す。
既に呼吸は無いから、これ以上に彼女が苦しむ訳でも何でも無いけれども。
何となく申し訳無く思うのは多分、部屋を出る前に仕方なく切り取らせてもらった髪の毛の所為じゃないかな…と。
これほどの長い髪のうちの一房の、わずかに20センチばかりでしかないけれども。
「でも…綺麗だったよな…」
「…お前、何を見てたんだ?」
素直な感想は、素直に…言葉になっていたらしい。
思っていただけ…のつもりを、しっかり言葉で突っ込まれてしまって。
それも…そういう「話題」だし、かなり慌ててしまって。
「顔…?」
「…正直で良ろしい」
うっかりと、とぼける事も忘れた俺の返答に。
言葉は茶化して、でも…島の顔は思いっきり呆れていて。
「本当に、お前…何見てたんだよ…」
それから、深ーく溜息を付いて、そう言ってくれて。
「う…るさいなっ。
お前はどうなんだよ?
何も思わなかったってのかっ?」
バツの悪さに、声を荒げて問い返したが。
「いや…ごく当たり前に『美人だなあ』とは思ったが?」
何も無かったような顔をして、さら…っと言い放ってくれるから。
勢い込んで突っ込み返したはずの自分の方が、とんでもなく脱力してしまった。
「…島、お前なあ…」
「美人を、美人だと気付かない方が問題有るんじゃないのか?
男としては」
いや…それも、正論だが。
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◇
「火星観測所の学生。
資料を持ち、撤退してくる戦艦へドッキングして戻れ」
応答は、島に任せておいて。
自分は、早々に身支度を。
「資料」も、あれからちょっとばかり増えているから、さっさとまとめておこうと思って。
取り敢えず一番最初に、そこに置いてあったあのカプセルを手に取って。
ふ…と、彼女の髪も有ったんだっけ…と思い出して。
「何か、有ったのかな…」
戻れ…という事は、予定ではまだ1ヶ月くらいここに居るはずだった予定が変更になった…という事。
訓練内容ならともかく、日程が変わるような事は今までには無かったから。
島の訝(いぶか)しむのも、その辺り。
「知るか」
他に人間も、マスメディアも無いこんな所で。
2人っきりで首を捻っていても正解に辿り着くはずなんて無いから、至極あっさりと。
「戦艦に同乗して…って話も、今まで聞いた事が無いし」
…考えてろよ、1人で。
1人…。
そう言や、1人になっちまうんだよな。
俺たちがここを離れたら…彼女は。
何処で生まれて育ったのかも分からないけれども、こんな…普通には人も棲めないような所で。
「後…3時間だったよな?」
「撤退してくる戦艦」が、火星軌道に到達するまで。
「え…?
ああ…そう言ってたな」
手にしていたカプセルを、また置き直して。
その代わりに、島のヘルメットを取って。
「じゃあ、ちょっと付き合えよ」
彼女の…墓参りに。
これが、きっと…最後だから。
無理だとは分かっていても、今ここに花の一つくらい有れば良いのに。
そんな事も、思ってみたりして。
※「1」第1話
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Last Update:20040607
Tatsuki Mima