XX 審判(JUDGEMENT)
正位置の意味:再生・復活・達成・目覚め・懐かしさ
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── …島さんを、お願いします。
以前(むかし)、それと意識しないままにも私は、一つの惑星(ほし)を滅亡に至らしめた。
斬り刻む刃と言うよりは、根こそぎ叩き壊していく大斧のよう。
他者に向かってこの能力(ちから)を、もう…二度と振り下ろさないと誓った。
誰かの生命の終(つい)えるのを、もう見たくなんて無かった。
だけど…ごめんなさい。
その誓いも今、私は…忘れます。
たった…ひとつだけだけれども、とても…護りたいものが在るんです。
とても、とても…大事なもの。
生き永らえて欲しいもの。
何よりも、誰よりも…愛しているから。
それを害するものを排する為に、もう言葉が通じないというのなら。
もう…この能力でしか全(まっと)うする事が出来ないというのなら。
私は喜んで…いいえ、口惜しく思いながらだけれども。
私は…再び破壊神になりましょう、死神にもなってみせましょう。
だから…ごめんなさい。
既に、くらり…と視界が歪んで、暗がっていく。
歪み落ちていくのは実景ではなく、ここまでに体力を失っていた自分自身の気力。
…まだ、いけない。
もう少し…だけ、我慢して。
己の呼び出した反物質が、常物質を対消滅に喰い荒らしていく。
それをこの範囲に押さえ込んでいるのも、また自身の能力。
今、私を失くせば害するものを力有るまま残してしまうかも知れない。
護りたいはずのものまで、私の能力に喰らい尽くしてしまうかも知れない。
それは…駄目。
だから、あと少しだけ。
もう…少しだけ。
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…神様って、存在(い)るのかしら…?
在(い)るなら…こんな私でも、神様は「赦して」くれる…のかしら?
意識を集中している中に、ふ…とそんな思考の空白が生まれる。
そうして、こんな状況(とき)なのに…そんな自分に苦笑がこぼれてしまう。
もしかして…私は、誰かに…神様に赦してもらいたいのかしら?
…馬鹿ね。
そんな事…叶うはずが無いじゃない。
だって…赦されるには、私の能力は強大過ぎた。
そして、それを使い過ぎた。
そうと分かっていながら、たった今も…こうやって。
だから…赦されなくて構わない。
私は、私の「罪」を背負ったまま、堕(お)ちて行け…と言われてしまえば望んでそれにも従おう。
…けれども、ひとつだけ。
こんな私も、自身の為にこの能力を使った事は無いんです。
その事は…誇っても良い事でしょう?
…神様って、存在(い)るのかしら?
蒼い地球、水と緑の惑星(ほし)。
永過ぎると思ってもしまうほどの平和な頃に、繁栄の都市(まち)。
戦争なんて…知らない世代。
…そうね、たった一つだけ。
もしも、時間(とき)を遡れるのなら。
何事も無く、貴方と偶然に出会える距離に生きていきたかったわ。
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己の呼び出した反物質が、常物質を対消滅に喰い荒らしていく。
そろそろ…自身さえ喰い潰されていく。
── …瞳(め)を開けて。私を、見て…。
── また…逢えると思っていたわ。
── 私も…行きます。
── いいえ…私は、ここに残ります。
── …貴方が、島さん?
意識の中に、時間(とき)が逆行していく。
…もしかして、本当の時間軸も狂っているのかしら…?
いいえ…そんなはずは無いわ。
過去から未来へとしか流れていけないのが、時間というものの正体。
それと承知していて、どうして…そんな馬鹿な「夢」を思うの?
…夢?
そうね、夢なんだわ。私の。
対消滅に失われていきながら、細胞のひとつひとつまでが夢を見る。
── …あの、初めまして…。
頬に朱を刷(は)きながら、いつもより早く打つ心臓を押さえてしまいながら、初対面の挨拶を。
早くも、並んで歩く未来さえ思い描きながら…。
…そうして、今。
対消滅の爆発力が光芒となって、眺めていた人の眼を強く白く射抜いた。
それは、最後の細胞の…夢の終わり。
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…きっと、いつか。
また…もう一度、何処かで逢う事が出来ると思うんです。
その時にも貴方は、私を…また愛してくれますか?
今度は…何の能力(ちから)も持たず、何を殺す事も無く。
平穏な惑星(ほし)に生まれて、他人の中で微笑いながら生きて、過去に悩む事も無く。
だから…きっと、今度こそは。
伸べられる手を素直に取る事が出来る、向けられた愛情を素直に受け容れられる。
貴方と「それから」を生きていく事を、必ず躊躇(ためら)わない。
…だから。
ねえ…また貴方は、私をもう一度愛してくれますね…?
※「2」第26話
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Last Update:20060330
Tatsuki Mima