20 審判(JUDGEMENT)

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XX 審判(JUDGEMENT)
正位置の意味:再生・復活・達成・目覚め・懐かしさ

        ◇     ◇     ◇     ◇

── …島さんを、お願いします。

    以前(むかし)、それと意識しないままにも私は、一つの惑星(ほし)を滅亡に至らしめた。
    斬り刻む刃と言うよりは、根こそぎ叩き壊していく大斧のよう。
    他者に向かってこの能力(ちから)を、もう…二度と振り下ろさないと誓った。 誰かの生命の終(つい)えるのを、もう見たくなんて無かった。
    だけど…ごめんなさい。 その誓いも今、私は…忘れます。

    たった…ひとつだけだけれども、とても…護りたいものが在るんです。
    とても、とても…大事なもの。 生き永らえて欲しいもの。 何よりも、誰よりも…愛しているから。

    それを害するものを排する為に、もう言葉が通じないというのなら。 もう…この能力でしか全(まっと)うする事が出来ないというのなら。
    私は喜んで…いいえ、口惜しく思いながらだけれども。 私は…再び破壊神になりましょう、死神にもなってみせましょう。

    だから…ごめんなさい。

    既に、くらり…と視界が歪んで、暗がっていく。 歪み落ちていくのは実景ではなく、ここまでに体力を失っていた自分自身の気力。
    …まだ、いけない。 もう少し…だけ、我慢して。
    己の呼び出した反物質が、常物質を対消滅に喰い荒らしていく。 それをこの範囲に押さえ込んでいるのも、また自身の能力。
    今、私を失くせば害するものを力有るまま残してしまうかも知れない。 護りたいはずのものまで、私の能力に喰らい尽くしてしまうかも知れない。

    それは…駄目。 だから、あと少しだけ。 もう…少しだけ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …神様って、存在(い)るのかしら…?
    在(い)るなら…こんな私でも、神様は「赦して」くれる…のかしら?

    意識を集中している中に、ふ…とそんな思考の空白が生まれる。 そうして、こんな状況(とき)なのに…そんな自分に苦笑がこぼれてしまう。

    もしかして…私は、誰かに…神様に赦してもらいたいのかしら?

    …馬鹿ね。 そんな事…叶うはずが無いじゃない。
    だって…赦されるには、私の能力は強大過ぎた。 そして、それを使い過ぎた。 そうと分かっていながら、たった今も…こうやって。
    だから…赦されなくて構わない。
    私は、私の「罪」を背負ったまま、堕(お)ちて行け…と言われてしまえば望んでそれにも従おう。


    …けれども、ひとつだけ。
    こんな私も、自身の為にこの能力を使った事は無いんです。 その事は…誇っても良い事でしょう?


    …神様って、存在(い)るのかしら?

    蒼い地球、水と緑の惑星(ほし)。
    永過ぎると思ってもしまうほどの平和な頃に、繁栄の都市(まち)。
    戦争なんて…知らない世代。

    …そうね、たった一つだけ。
    もしも、時間(とき)を遡れるのなら。 何事も無く、貴方と偶然に出会える距離に生きていきたかったわ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    己の呼び出した反物質が、常物質を対消滅に喰い荒らしていく。
    そろそろ…自身さえ喰い潰されていく。


── …瞳(め)を開けて。私を、見て…。

── また…逢えると思っていたわ。

── 私も…行きます。

── いいえ…私は、ここに残ります。

── …貴方が、島さん?


    意識の中に、時間(とき)が逆行していく。
    …もしかして、本当の時間軸も狂っているのかしら…?
    いいえ…そんなはずは無いわ。 過去から未来へとしか流れていけないのが、時間というものの正体。 それと承知していて、どうして…そんな馬鹿な「夢」を思うの?

    …夢? そうね、夢なんだわ。私の。

    対消滅に失われていきながら、細胞のひとつひとつまでが夢を見る。

── …あの、初めまして…。
    頬に朱を刷(は)きながら、いつもより早く打つ心臓を押さえてしまいながら、初対面の挨拶を。 早くも、並んで歩く未来さえ思い描きながら…。

    …そうして、今。 対消滅の爆発力が光芒となって、眺めていた人の眼を強く白く射抜いた。
    それは、最後の細胞の…夢の終わり。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …きっと、いつか。
    また…もう一度、何処かで逢う事が出来ると思うんです。

    その時にも貴方は、私を…また愛してくれますか?

    今度は…何の能力(ちから)も持たず、何を殺す事も無く。 平穏な惑星(ほし)に生まれて、他人の中で微笑いながら生きて、過去に悩む事も無く。
    だから…きっと、今度こそは。
    伸べられる手を素直に取る事が出来る、向けられた愛情を素直に受け容れられる。 貴方と「それから」を生きていく事を、必ず躊躇(ためら)わない。

    …だから。
    ねえ…また貴方は、私をもう一度愛してくれますね…?
※「2」第26話

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Last Update:20060330
Tatsuki Mima