19 太陽(THE SUN)

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XIX 太陽(THE SUN)
正位置の意味:発展・成功・幸福・出産・結実

        ◇     ◇     ◇     ◇

    航海から帰還して、3日目。 報告だの、そんな雑事を済ませてしまって、これからやっと本当の休暇。
「ねえ、叔父さま。 島さん、迎えに行かない?」
「え…?」
    仕事に出る雪を、一旦は見送りながらもしっかりと、確信犯的に二度寝を決め込んで。 だから…起きてからそうは時間の経ってない、ぎりぎり午前中。
    どっちにしても、朝昼兼用にしかならない食事を。 今にするか、もう少し後にしようか…考えていた時。
「…誰が、誰を迎えに行くって?」
    いや…サーシャの言葉を、聞きそびれた訳では無いのだが。
「私と、叔父さまが。 島さんを、迎えに行くの」
「…何で、また…島を?」
迎えに行く…という相手が、兄や真田でなかったからつい、訊き返した古代だ。
「だって…見たいもん。 島さんが、どんな顔するのか」
    意味が良く掴めないで、少しばかり考え込んでしまっていると、とうとう…サーシャは呆れたように。
「もう…っ! 『お父さま』になった島さんが、どんな顔するのか見たいのっ!」

「…物好きだなぁ」
    いつも下艦(お)りてくる側で、誰かが下艦りてくるのを待った事など無いから。 その待ち時間の長さが、サーシャに対する言葉になって出て来る。
「叔父さまだって、赤ちゃん見てないじゃない。 でしょう? 見たくないの?」
    それは、確かに。 改めて問われてしまえば、見たくない…と言い切ってしまうのは嘘になるし。 赤ん坊の方ではなく、島がどういう顔をするのか…にもちょっと興味が無くはない。
    帰還して雪に聴かされて、何となく。 見たような気になってしまっていたのも、本当の所。
    互いの任務の関係で、意外なくらい島と逢う事なんて…無いから。 「以前」の視覚情報を「今」に引っ張ってくる…なんて、当たり前にこなしてしまっていて。 そんな癖が、すっかり身に付いてしまっていて。 だから。
    自分から言い出したくらいだから、サーシャは目敏(めざと)く島を見付けて。 恥ずかしいなあ…と古代が思ってしまうほど、大きな声と身振りで島を呼ぶ。
「…サーシャ?」
呼ばれて気付かないなんて、絶対に在り得ないくらいにはっきりと。
「…何で、古代まで…」
    如何にも「呆れた」と見える表情(かお)で、島が呟いてしまうのも当然の事。 今まで古代は、ただの一度も宙港に島を出迎えた事など無いのだから。
「運転手だ、運転手っ」
サーシャを指して、精一杯の言い訳。
    サーシャなら宙港に…くらい、連絡線(シャトル)で来るはずじゃないかな。 …とも思いながら、腕にぶら下がるその当人の重みに、島は何も言わないで。
「まずは『病院』よねっ?島さんっ?」
「え…?ああ…まあ…」
    かくして「年下の女の子」に諾々として引き摺られる島と、その後をただ仕方なくついて行く古代と。 何だか…妙に情けない一行は、駐車場へ。

    航海中に、乗員への私信を繋ぐ…もしくは、伝言と言う形にしても知らせる事など、原則在り得ないが。 島…と言うよりは、その配偶者たるテレサの場合は、状況が違う。
    雑多で複雑な諸事情の絡む上に、軍内、及び病院内に好意的、かつ比較的「強権」の保持者が控えていたりするから。 それでも一応は、あくまでも「例外」という形を取って、既に…当人にまで知らされていたりする。
「大体分かってたんだから、休めば良かったのに」
    そう言い放つサーシャは、当然のように今日は休暇を取っていて。
「…大体しか分からなかったから、休めなかったんだけどね…」
    テレサは、地球人では無いから。 それだけの原因で、断定的な「出産予定日」の宣言は在り得ず。 従って島は致し方無く、いつもと変わらず航海に出て。
    …漫才みたいだ…とは、後部座席の会話を聞いてるだけの、運転手の思う事。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    意外と…詰まらない、かも。 友人の慶事を何だと思ってるんだ…と誰かに言われかねなくとも、それが古代の素直な感想。
    だって…島は当たり前のように、照れが見えながらでも嬉しそうで居て。 首も据わっていない柔らかいだけの身体を、恐る恐る抱き上げてるようでも…当たり前のように「父親の顔」をしていたから。
    大体、産褥(さんじょく)に在る女性を見舞っても、言葉に困る。 結婚はしたが、そんな気色(けしき)すらまだ見えないのだから、何も…知らないから。
「うわぁ、小さーい。可愛いー」
    生きて動いている「生まれたばかりの赤ん坊の、本物」なんて見るのが初めてなサーシャが、突付き壊しそうなのを…止める為に来たようなもので。
「やーん、叔父さまのケチ」
「そういう問題じゃないだろうっ?」
産科の病室でなければ、十中八九追い出されていたに違いなく。
「もう…っ、帰るぞっ!」
    どちらかと言えば、古代自身にとっても…居場所が無いから。
「見るだけ見て、目的は果たしただろっ?」
友人の…2人の為にも、しばらく振りの再会を邪魔しないで、お騒がせな姪を引き摺ってでも、とっとと帰った方が良いような気がして。
「あ…いや、古代。 俺も出るから」
    振り返れば既に、島はベッドの上のテレサに、抱いていた赤ん坊を手渡そうとしていて。
「…何、言ってるんだよ。 お前は還って来たばっかりなんだから、ゆっくり居りゃ良いだろ?」
古代のつもりでは、正確には「ゆっくり居てやれば」なのだが。
「いや…だから、帰還報告が…」
「お前、なあ…」
    帰還後、一週間以内に済ませれば良い報告を。 何も律儀に、いつも通りに、極力早く済ませようとしなくても良いだろう?…と。 こんな時でも、パターンを変えようとしない友人に、心底から呆れて溜息を。

    大した距離でも無いから、歩く…と言う島を。 無理矢理のように、また後部座席に押し込んで。 車でなら確かに大した時間ではないが、歩けばそれなりに長い道程(みちのり)を送る。
    ぷう…っと膨れて、ご機嫌斜めな姪は放ったらかして。
「相原や、雪にからかわれて来い。 後…兄さんにも、な」
「…煩(うるさ)いっ」
    司令本部の前で、そんなやり取り。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    案の定、島の航海予定なんか先刻承知の相原に、一番に捕まったらしい。
「…でね? 今日は早めに帰るから、家(うち)に来なさい…ってお義兄さんが」
「兄さんが?」
    結局、あれから遅めの昼食を、しっかりサーシャにもたかられて。 その後、官舎(いえ)まで送って行ったから、言われた通り行けば…今日は2度目になる…という事で。
「相原君…は、自分から言ってたけど。 真田さんと太田君にも声掛けてたみたいよ、お義兄さん」
    壁の向こうで、雪は着替えながら。 それでも、声だけはくすくす…と笑いながら。
「…地球(ここ)に居る奴、全部じゃないか」
話し始めてからさっぱり読んでない雑誌を、諦めたようにソファの上に放り出して。
「島をダシに、呑みたいだけだろ…。それって」
「…それでも『お祝い』よ?」
着替え終わった雪が、ドアから姿を見せて。
「行くんでしょう?」
「そりゃ…行くけど、一応…」
    帰還報告の司令本部で、相原とは少しだけ話もしたけれども。 真田や太田とは、古代もしばらく振り…になる訳だから、行きたくない、逢いたくない…と言えば嘘になるから。
    第一に、島とさえろくに…まだ話してもいないから。

    夕食…なんて、ほんの申し訳。
「南部が、冥王星軌道上で口惜しがってましたよ」
    生まれた…と知ってからの、定時連絡のどれかを受けて、相原はわざわざ教えたらしい。 南部の言い分としては「そんな、面白そうな事」…に、同時進行で加われない事が…であるらしい。
「余計な事を、教えなくて良い…っ」
    食事どころか、仕方なくここに来た瞬間から遠慮無く。 あれやこれやと言われ続けているから、もう…見るからに島は不機嫌…と言うよりは、拗ねていて。 取り敢えず…同年代の中で、自分が一番先に「父親」になったんじゃなくて良かった…と、古代は真剣に思ったりもして。
「すごいわよねぇ、人間って」
    呑まないし、誰も呑ませようともしないが。 サーシャもしっかりと、この場に居座ってしまっていて。
「あんなちっちゃいのが、こんなに大きくなるんだもん」
…こんな、とは。 そこに居る中で一番の高身長を誇る、実父だったり…するが。
「…何が言いたい?」
「すごいなあ…と思って」
    微妙な、父娘の間抜けた会話が、一頻(ひとしき)りの苦笑を誘って。
「…そもそもの、スタートが違うような気がしなくは無いな。 お前の場合」
「ヒトの事が言える、身長と頭脳(あたま)かっ? お前がっ!」
同じ「娘」を持つ、2人の「父親」の妙なやり取りが、それ以上の笑いを誘った。

    島にしては、普段よりハイペースで呑んでるなあ…と。 まあ…実際は、飲まされているだけでしかない訳だったりするが。 そんな事に気付く古代も、実は結構なハイペースだったりする。
    いや…島や古代だけではなくて、はっきり言えば全員が。
    言葉はどんなふざけていても、からかい半分でも。 その底に、祝う気持ちが有るのは本当で、それは…結構真面目に思ってる事だから。 だから島も、拗ねてるようでも、怒ってるようでも。 逃げ出しもしないで、からかわれ続ける事にも甘んじていて。
    …そんな時刻。
「ねえ、ねえっ。おとうさまっ」
    守と真田の間に割り込みついでに、サーシャは両方の腕を両手で同時に抱えて。 だから、2人ともがほぼ同時に娘を振り返って見て。
「もう1人の『おとうさま』は、誰?」
「…はあ?」
しかし、その言葉に答えたのは、異口同音に…全員が。
    全員の注目を集めてしまって、ちょっとばかりうろうろとしながらも。
「だって…私には、お父さまと…お義父さまでしょ?」
それぞれに視線を送りながら、サーシャは言って。
「あの子の場合には、島さんと…叔父さま?」
    …何故、そうなる…と思うのが半分。 そう考えるのも仕方ないのかも…と思うのも、また半分。
「…嫌だ。 古代に預けなきゃならないくらいなら、真田さんに頼む」
「…どういう意味だ、島…」
こっちの友人同士は、そんな会話を。
「…どういう育て方をした? 教育担当」
「ごく普通にしか、育ててないぞ」
向こうの友人同士は、そういうやり取りを。
    そして、大いに苦笑しながらも。
「あのね、サーシャ…」
雪と相原と大田の3人掛かりで、特殊な成長の経緯の在ったお嬢さんに説明を。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「見たかったですねえ、それ。 ものすっごく」
    無理矢理忘れかけてた頃に、還って来た南部に改めて言われて。
「う…るさいっ!」
古代と島の両方が、同時に同じセリフで言い返したり…した。
※「3」以降

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Last Update:20040524
Tatsuki Mima