陽の光の下で:06

NovelTop | 第三艦橋Top

    そんなに遠い場所でも無いから、街中ばかりのつまらない風景の中の短いドライブも、もうお終い。
「送って戴いて助かりましたわ、相原さん。 じゃあ…また、明日…」
    ここまで来ても晶子さんは、僕に「ついて来てくれ」とは言わないで。 多分…僕が、今更居なくても済む事なんだろうけど。
    これを見送ったら…夜になる。 それも…見送ってしまったら、もう明日になる…。
    あ〜、もうっ! もう…勢いだよ、それしか無いじゃない。
「あ…あのっ、晶子さんっ」
運転席を飛び出して、そう叫んで…ほんの少しだけ…もう、後戻り出来ないって事への後悔。

「はい、何でしょう?」
    車体の分だけ遠廻りをしなきゃならない僕を、数歩戻って待っていてくれて。 そうしてまた、晶子さんは真っ直ぐに僕を見て。
「え…と…、僕…どうしても、今日…今、晶子さんに言わないといけない事が有って…」
「…はい」
何かしら…と言わんばかりに、首を傾げて続く僕の言葉を待っている。
「こんな…今頃になって、すごく馬鹿みたいなんですけど…。 本当に…今更、こんな事…って、自分でも思ってるんですけど…」
    …言い訳ばっかりだなあ、僕。
「それでも…この前の出航の時から、還って来たら言おう…と思ってた事なんですけど…。 ちょっと…どうしても、言えなくなっちゃってて…その…」
もう…言い訳は良いってばっ。
「えーと…僕…。 僕は…貴女が好きですっ」
    ああ…もう…。 何処までも、格好良くないなあ…僕って…。

    言った瞬間は、ちょっと…晶子さんの顔なんか見てられなくて下を向いたりしていたから。 その後の、妙な静かさがちょっと怖くて、顔を上げるのも…ホントに恐る恐る…って感じで。
「…はい…嬉しいですわ。 私も…相原さんが…貴方が、大好きです」
だから、僕と目が合うのを待っていたようにそう言ってくれた晶子さんの言葉に、何だかすごくほっとして。
    朱を刷いたその顔に、改めて…いや…多分初めて「可愛い」じゃなく「綺麗だなあ」と思って。
    そう思った途端に、上着のポケットに突っ込んできた物がすごく重く感じて。
「だから…その…こんな間際になって、馬鹿みたいなんですけど…。 今更、すごく…馬鹿みたいなんですけれども…」
慌てると、小さい箱なのに…引っ掛かってしまって、全然…簡単に取り出せなくて。
「やっぱり、どうしても…僕から…言いたいから…」
やっと出てきた箱を、晶子さんに見せる暇も無く押し付けるように、手渡して。
「その…僕と…結婚して下さい」
    あ…もっと、気の利いた言葉を思い付かないかな…僕。
「はい…ええ…喜んで」
    一瞥くれただけで、中が何か知れてしまうような箱に、それを開けて確かめようともしないで、頷いてくれる晶子さんに。 まあ…僕なら、こんなもんでしかないんだろうな…とも思って。
    好きでいてくれるらしい様子に、それを確かめもどうもしないで…流れに流されるままに居て。
「良い…んですか? 僕は…馬鹿だから、いつでも何をやっても多分…こんな調子ですよ?」
とどのつまりは、他人に後押しされてやっと、結婚式の前日に、式場の駐車場でプロポーズしちゃうような、間抜けっ振りなんだから。
「ええ…例え、何がどうでも…それがきっと…相原さんですから」
    そう…だよね。 僕は僕で、それ以外になりようが無いんだから。 こんな調子でも…多分、僕らしいんだろうね。
「打ち合わせ…付き合います」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「ほーら、やっぱり。 告白の勢い余って、プロポーズ…になったじゃないですか」
「お前が、要らん小道具渡したからだろう? ずるいぞ」
    妙に得意気な南部に、アンフェアさを主張する太田。
「ま、失礼なっ。 俺はねぇ、純粋に相原君の為を思ってやったんですよ?」
「…どうだか…。 単に、面白がってただけじゃないのか?」
    僕の事を「相原君」と呼ぶ時の南部は、大体において真剣でも真面目でも無い。 そうと知っているからこその、太田の突っ込みに。
「当たり前でしょ? 俺が面白くも無い事に、そんな手間隙(てまひま)掛ける訳が無いじゃないですか」
言ってる事はふざけているのに、顔だけは変に真面目くさって南部が答えた。
「…言い切るなよ。…ったく、お前はさあ…」
    …そんな、1年も前の「賭け」の結果の出た、後日談。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「あのさぁ…南部。 1つだけ、訊いて良い?」
    再開されたパトロール艇の航行で、宇宙に出ていた南部が戻って来てから訊ねた僕。
「あの…指輪なんだけど…」
「合ってましたよね?サイズ」
「いや…合ってたけど…。 測った訳じゃないんだよね? 『見た所』って言ってたし…。 何で、分かった訳?」
    僕の問いに、南部は一瞬…黙ってしまった後。
「ああ…その辺は、まあ…長年の経験と勘…って奴です」
軽く叱られた子供のような苦笑を見せながら、そう答えた。
「…長年の『経験』って、何…?」
    …そんな、もうひとつの後日談。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima