陽の光の下で:05

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    今日は…というより、今日から休み。
    …って、男の僕が前日から休みを貰って、何を準備しろ…って?
「…仕事したいな〜、もう…」
    仕事をしていれば、あんまり色んな事を考えないで済むから。 陽の在るうちに部屋に居ても、何もする事が無さ過ぎる。
    あらかたの家財…と言っても、独りだから元々大した事無いんだけど、それも「新居」の方に運ばれちゃってるし。 今更…僕が、どうこうしなきゃいけない「準備」も無いし。 ガラン…とした部屋の中、僕は床にころりと転がってる状態で。
「寝ちゃおうかな…」
    今日を眠り続けたら、当日。 何にも考えないで済むなら、それも良いかも。

    寝ては居なかったけど、けたたましいチャイムに飛び上がるように起き上がって。
「相原くーんっ、遊びましょっ」
能天気な笑顔と声に、脱力する。 …南部…幾つだよ、年齢(とし)は…。
「こらー、締め出し喰らわせるつもりですか〜? さっさと開けないと、鍵壊して入っちゃいますよ〜?」
    画面越しに見えているはずの、僕の様子にはお構いなしでそんな事を言っていた。
「遅いですよ、開けるのが」
…放っとくとホントにやりそうだったから、通しただけだよ。
「何しに来たんだよ、南部」
「ご挨拶ですねえ? ヒトが折角、結婚の前祝持って来てあげたというのに」
    部屋の中が空っぽに近くても、そんな事なんて想像が付いていたのか驚いた様子も無く、南部は床に座り込む。
「…前祝?」
つられたように、僕はその前に腰を下ろす。
「う〜ん…婚約祝いの方が正しいんですかね?」
あのねえ…ここまで来て、後どれくらい「婚約期間」が残ってると思ってるんだよ?
「…っと、その前に。念の為、確認して良いですか?」
    ちょっとだけ真面目な顔して訊いてくる南部に、僕もちょっとだけ真面目に。
「確認…って、何を?」
…と、返せば。
「相原君って、彼女に『好きだ』とか何とか、言ってないでしょ?まだ?」
    それこそ…何を、今更。
    帰還して、思い掛けない晶子さんの言葉に言いそびれてしまって。 それから先は、途惑いと訳の分からない慌しい展開に、忙殺されて。
「やっぱり、ねえ。 ま、そうだろうとは思ってましたけどね」
    呆れたようにそう言いながら、南部は僕に「小さな箱」を投げて寄越した。

「…何、これ…」
    いや…箱の作りを見れば、僕にもその中身が何だかおおよその見当は付いたけど。
「俺の見た所…だけど、サイズはまあ…多分合ってると思いますよ」
「そうじゃなくて、だから…何で…?」
「だって、渡してないんでしょ?」
    しれ…っとした顔で、上着の内ポケットから畳んだ紙片を取り出して。
「それから、これが…その領収」
渡された領収書に記載された金額は、妥当なラインで。
「分割で良いから、ちゃんと返すように。 こんなもん君にくれてやるほど、俺も良い給料は貰ってませんから。 利息は『ご祝儀』って事で、まけといてあげます」
    くすくすと笑う南部に、もう…僕も苦笑するしかなくて。
「祝いだ…って言っといて、ちゃんとお金取るんだ?」
「モノをくれてやるとは、言ってませんよ」
確かに、そうは言ってなかったけどね。
「…早いとこ、行ってくれば? 雪さんに聞いた話だと、昼から式場で打ち合わせらしいですから、間に合わなかったら夜になりますよ?」
「どうせなら、もっと早くくれれば良かったのに」
「そこはそれ、当然『嫌がらせ』ですよ。相原君」
    …どうせ、そうだろうね。 そんな事だと思ったんだよ。
    だって…今更、僕の代わりに「エンゲージリング」用意してくれるんだから。
    そして…今になって、それを渡して来いなんて言われるような間抜けた奴も…多分、僕くらいだから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    晶子さんの家に着いたら、ホントに出掛ける直前…って所で。
「あ…じゃあ、送ります」
…って、この期に及んで先延ばししてどうするんだよ。僕…。
    まあ…玄関先や、ご両親の目の前で渡したいようなものでも無いんだけど。 そうかと言って、ほんの少し前までの太陽の異常の所為で、地上の草木は壊滅的だから。 住宅地の庭先も、隙間のささやかな公園も、赤茶けた無機質な眺めしか見せてくれない。
    この時間の無い中、場所を選んでいられないのも、実際。 でも…少しくらいは場所を選んでみたい…のも、実際。
    え…と…、どうしよう…?
「間に合わなかったら夜になりますよ?」
言われた言葉を思い出して、そうだよね…と、他人事のように考えたりしてる僕。
    でも…運転中は、手が離せないからねえ…と、精一杯の自分への言い訳。
「今日は…相原さんもお忙しくて、逢えないと思ってましたわ」
…済みません、忙しくなんて無いんです。 何も…無かったら、多分…一日寝てたと思います。
    隣で無邪気に喜んでくれる晶子さんに…ちょっとだけ、罪悪感を。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima