紅葉:03

NovelTop | 第三艦橋Top

    まるで、散り際の花のように。 はらはらと、紅葉が舞い落ちる。
「これ、持っててっ」
    そう言って、さっきから何度もやってくるのは子供たち。
    まだ落ちたばかり、踏まれていないような綺麗なのを拾っては、持ち切れなくなったのをこちらまでせっせと運んでくる。 こんなに集めてどうするつもりなんだ…とは、大人たちの思う事。 子供たちは、そんな後先なんか考えちゃいない。
「…平和だな」
「全く、だよな」

    街中の公園の隅に、奥さま方を待ちくたびれている旦那さまたちである。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    あっちを拾い、またこっちを拾い…する姉たちを追い掛けようとしてみるが、如何せん、ようやく危なげ無く歩くようになった飛鳥だ。 追い着くか…と思ったら逃げられる、の繰り返しで。
「おい、飛鳥」
いい加減、ご機嫌斜め。 泣き出さないうちに、古代が呼ぶ。
    呼ばれて飛鳥は、そこに父親たちの居た事をようやく思い出したように寄ってきた。 勢い余って、最後は腕の中にダイビング…だ。
    ついでに、そのショックで自分が不機嫌だった事も忘れたらしい。
    ご機嫌良ろしく抱かれている飛鳥を、何度目か…の手渡しに来た弥生が気付いて「ずるい」と騒ぎ出した。 おかげで、2人とも抱き抱える事になった古代である。
「2人は、重い〜っ」
「諦めろ」
    その2人の、今ここに存在している原因はお前なんだから…と島に言われて、む。 しかし、それも実際なので文句も言えない。
    遅れ馳せながら、遠くで振り返ったはるかもようやく気付く。 走り寄ってきては少し前の弥生と変わらない事を言いながら、こっちもその父親に張り付いた。

「…ったく、いつまで何やってんだよ。雪は〜」
「雪の買い物の長いのは、今に始まった事じゃ無いだろう?」
    そう、買い物。
    今までの経験上、古代は最初っからうんざり退屈していたが、途中で飽きたのはお子様たちだ。 子供たちが騒ぎ出したのをこれ幸い、外で待ってる…と出てきた訳だ。
    テレサを雪に預けて、島までここに居るのは。 古代が「己の子供は、自分で面倒見ろ」と言った所為も有るが、島自身「雪の買い物の長さ」に懲りていた所為も…きっとあるだろう。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「あ。 これ、可愛い〜」
    婚約時代…独身の頃には、雪のショッピングの殆どは己の使うものだった。 服でもアクセサリーでも、雑貨でも、何でも。
    まあ…ごくたまに、古代の為の何かを選んだりもしていたが。
    今も勿論、自分の為のあれこれを選ぶのは楽しい。 買う気はさらさら無く、眺めるだけでも。 しかし、今はそれ以上に子供たちのあれこれを選ぶのが、とても。
    …という事で。 可愛い…と雪がその両手にぶら下げているのは、小さな女の子の為のワンピース。
「ねえ、どっちの色が良いかしら?」
「…さあ」
    雪に問われて、途惑いながらテレサが答える。 育ってきた世界の環境と色調の差なのか、色彩感覚が微妙に違っているらしい事を自身気付いていたから…である。
    自分の為のものなら単純に、色の好き嫌いで適当に答えてしまっても構わないのだが、今訊かれたのは我が子の為のものでさえ無い。 迂闊な事は言えないし、どう答えて良いのか分からない…のだ。

    同じデザインの色違いを並べて、眺めて。 そんな雪の隣に従っているテレサの手には、幾つかの紙袋。
    但し、その中に自分のものも無ければ、家族の為のものもまだ無い。 あれもこれも…の雪の、そろそろ手にしたままでは次を選びにくくなった買い物を手に提(さ)げているだけだった。
「…あの、そろそろ戻った方が…」
    テレサには、腕時計を身に付けるような習慣は無いし。 客が冷静になってしまうのを避ける為に、こういった店には分かりやすく時計を掲げておく事があまり無い。
    だから、古代や島と別れてからどれだけ経ったのか、正確には分からない。 しかし、あれから随分な時間が過ぎたような気がして。
「え…やだ、大丈夫よ」
    しかし、雪はけらけら…と笑う。
    古代と島と、2人で居るのだ。 友人ながらそれほど頻繁にも逢わないのだから、話す事の尽きる事も無いだろうし、それに飽きる事も無いだろう。
    子供たちの事を言っているなら、それもやっぱり2人が一緒に居るのだ。 何を、どう心配しろ…と? その程度には、旦那さまの父親っ振りに不満の無い雪である。
「でも…」
「ねえ? 両方買ったら、弥生とはるかちゃんで着てくれるかしら?」
「え、あの…どうでしょう?」
    弱気に話し掛けてくるテレサの言葉なんて、ろくに聞いてない雪だった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    一頻(ひとしき)り抱き付いて、甘えて、構ってもらえて。 それで満足したらしい子供たちは、またその辺りで遊び始めた。
    さっきまで、落ち葉をせっせと拾っていた事なんてすっかり忘れてしまったようで、今度は鬼ごっこだ。 しかし、弥生もはるかも多少加減はしているようだが、走り廻る遊びでは明らかに足の遅い飛鳥に不利。
    そろそろ、眉間にシワ。
「放っとけよ。 2人とも本気で走ってないだろう?」
    うろうろと古代の立ち上がり掛けるのに、苦笑してみせる島だ。

「古代」
    呼ばれて振り返った目の前に、何かの影。
「い…きなり投げるなよっ」
「それをきっちり受け取れるような奴に、文句を言われたくない」
    ちょっと…と何処かに行っていたと思ったら、缶を幾つか抱えて戻ってきていた島だ。 さっき、いきなり投げ付けられたのはそのうちの1つだったという訳だ。
「はるか。 弥生、飛鳥もおいで」
    子供たちを呼ぶ島の声を聞きながら、手に持った缶をつい眺めてしまっている古代である。
「…や〜な気がするのは、気の所為か?」
「気の所為じゃないと思うぞ」
ばらばら…と寄ってきた子供たちに缶を一つ一つ開けて手渡しながら、問う古代を振り返らないで島が。
「振ったな〜っ!?島〜っ!」
    振り廻した炭酸の缶を知らずに開ければどうなるか…は、言うまでも無い。
「飲めねえだろうがっ」
「お前はどうでも良いから、飛鳥を見てろよ。 引っ繰り返るぞ、後ろに」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「お待たせ〜」
    掛かった時間のどうにも長かった割には大した事の無い数の荷物を下げて雪が、テレサを後に従えて戻ってきた。
    いや…待ちくたびれていた側には大した数だったし、今はまだご存知無いながらびっくりするような合計金額でもあったのだが。
「遅いよ、雪〜」
「ごめんなさい。 でも、見て。 ほら」
    子供たちだけでは無く、島とのやり取りにも疲れた古代の文句に。 雪はまず一言謝っておいてから、しかし「戦利品」の説明を次々と、そして滔々(とうとう)と。

「疲れてない?」
「…ええ、あの…少し」
    島の問いに微笑(わら)いながら…だが、控えめにテレサが答えたのは、そこに雪が居たからだ。 あまりはっきりと言ってしまえば、雪に長々と付き合わされて疲れました…と言っている事になる。
    完全に否定しなかったのは、確かに疲れてもいたから。 はるかの居る事で以前より出歩く事も多くなったとは言え、人の多さにはまだまだ慣れていないテレサだ。 こうやって雪の買い物に付き合わされれば、どうしても人込みに連れて行かれる事になって。
「ね〜、これ何〜?」
    テレサが一つだけ提げていた紙袋に、はるかが興味津々で覗き込もうとしていた。
「あ…服です、見てみます?」
    覗き込むには少し高かった袋の口をテレサが下げてくれた事で、はるか自身が中身を引っ張り出す事も出来るようになって。
「あ、はるかのだ〜」
広げてみて自分のだと気付いて、素直に嬉しそうなはるかである。
「弥生さんとお揃いなんですよ」
    島もはるかも知らない事だが、雪がどちらを買ったものか考え込んでいたアレだ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「じゃあ次、何処に行く?」
    やっと帰れるか…と思った古代に、雪の明るい一言。
「…って、おいっ」
まだ何か買うのか…と思った古代は大いに慌てたがそうでは無く、何処かで食事をして帰ろうという事だったようで、ちょっとほ…っとした。
    …と同時に、どっちにしてもまだ「帰れない」事に思い当たって、ちょっとうんざり。
「だって、久し振りじゃない。 出掛けるの」
    ただでさえ、航海にあまり居ない旦那さまで、父親だ。 たまに居ると子供たちもはしゃいでまとわり付くが、奥さまだって…出来るだけ長く、楽しく一緒に居たい。
    古代だって、それが分かっていないじゃない。
「あ〜、もう。 分かったよっ」
    だから、降参。

「…って、待て。 こら、島っ」
    別に逃げ出した訳でも、離れていこうともしていない島の腕を捕まえる。
「お前も付き合えっ」
「…は?」
    でも…それに友人一家を巻き込む事で、ほんの少しの抵抗も。

<< 02 | Nothing

| <前頁
Last Update:20070901
Tatsuki Mima