White day:05

NovelTop | 第三艦橋Top

    先月はその日、たまたま地上に居たので奥さまから直接手渡しで戴いて、大いに嬉しがった古代である。
    いや…手渡しだった事より、その余韻を寝室まで引き摺った事の方が…かも知れない。

    しかし、航海のパターンとして前月のその日に地上に居たなら、今月の同じ日もまた地上に居る確率が非常に高い…という事をすっかり忘れていた古代でもあった。
「何で、先月から準備始めとかないんですか? も〜っ」
    突っ込みはしっかり入れつつ、文句も盛大に言いつつも、店のリストアップにはあっさり協力してくれた相原のおかげで。 ぎりぎり何とか、旦那さまの権威失墜には至らずに済んだのだったが。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    夕食の事をそろそろ考えないと…と冷蔵庫の中を覗き込んでいた古代を、ドアチャイムが呼んだ。
    その後に弥生を呼ばわる声のしない…という事は、はるかや壱弥では無いようだ。 時間的にサーシャや相原でも無いだろうし、誰だろう…と思いながら玄関まで出た。
「あ、今日は居た」
    そこに立っていたのは、ものすごく珍しい人だった。
「…次郎君?」
「うん」
    以前は…島がその両親と一緒に居た頃には、何かしらの用件で逢いに行くたびに、否応無く次郎とも顔を合わせる事が多かったが、現在(いま)ではさっぱり。 全く逢ってないという訳でも無いが、この前はいつだったか…という程度にはご無沙汰。
「…って、何? 俺、どっか変?」
「え? いや…違う、違う」
    あんまりまじまじ見てくれる古代に、次郎がうろうろと自分の服装を見渡す。 その様子に、今度は古代の方が慌てて否定した。
    いつの間にこんなに伸びたんだ…と、自分と大して変わらなくなっていた身長に呆れていた、とは言わないまま。
    それからようやく、玄関とその前の廊下での立ち話になってしまっている事に気付いて、今更ながら古代は上がれよ…と友人の弟を中に招いた。

    戻ってこない父親を追い掛けて玄関まで走り出てきた弥生が、次郎を見付けて…何だか嬉しそう。
    まあ…弥生は、はるかと遊ぶに島の官舎(ところ)にも行くし。 テレサと居るから…と遠慮して、それ以前よりは確実に寄り付かなくなった古代に反して、次郎は弟だ。 もっとちょくちょくお邪魔していて、弥生と顔馴染みになっていても不思議では無い。
    …とは冷静に判断しつつも、娘が「余所の男」に懐いているのを目の前に見せられるのは、やっぱり面白くない父親である。
「はるかは〜?」
「居ないよ。 今日は、俺だけ」
    今更思い出したように、次郎の後ろにはるかを探す弥生と。 弥生の視線に合わせるように、片膝床に突いた次郎と。
    何で…そんな詰まらないところで似てるんだ。 遺伝子の塩基配列の妙に素直に感心しながら、とっとと飲み物の用意を済ませる古代だ。
    まあ…実際のところは遺伝子の問題では無く、自分の子供の頃の記憶と、現在の姪への接し方を何と無く…当たり前に真似ているだけでしか無かったのだが。
「あ、良いのに。 どうせ、すぐ帰るから」
    そうは言いながらも、既に供されたものまでは次郎も断らなかった。 古代の手渡してくれるカップを受け取って、素直に有難う…と。 ついでに、弥生に別のカップも橋渡し。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…で、今日はどうしたんだ?」
    次郎にまとわり付く弥生を、膝の上に引き取る事で話の先を促す。 適当にあしらっておけば良いものを、いちいちまともに相手しているのを見兼ねたから…だ。
「あ…そうだった」
    促されてようやく思い出したように次郎は、提げてきていた小さな紙袋を引き寄せた。 そして、底を探る訳でも無くあっさりと引っ張り出したのは、ラッピングされた1つの小さな箱。
「これ、俺から雪さんに」
    その可愛らしいラッピングに、中身が何だか想像の付いた古代だ。
「…14日は、昨日だぞ?」
「来たよ、昨日も。 でも、留守だったし」
    次郎に言われて、そう言やそうだった。
    久し振りに地上に居るんだから、どうせならただお返しを渡すより…と、雪の両親に子供たち預けて2人で出掛けたんだった…と思い出す。
「そんなに、簡単に忘れないで下さいよっ」
…と文句言う相原の顔が、ものすご〜く想像出来てしまった古代である。
「…で、こっちは兄さんからね」
    そう言ってまた、似たようなサイズのラッピングされた箱をもう一つ。
    それで、島が現在(いま)宇宙に居る事を知る薄情っ振りを、ご丁寧にもうっかり呟いてその弟に知らせてしまい。 兄と古代は普通に、頻繁に連絡取り合っているものだと思っていた次郎に思いっきり呆れられてしまった。

    自分の頭の上でやり取りされる可愛らしい箱に、手を伸ばしてみたものの届かず。
「弥生も欲しいのっ」
邪魔してくれる…と弥生は思ったらしい父親に向かって、軽く癇癪を起こす。
「欲しい…ったって、なあ」
    これは「先月の返礼」なんだぞ…と、まともな事を考える古代である。 先月、誰かにやった訳でも無いくせに…と、ようやく3歳になる娘相手に。
「有るよ? 弥生ちゃんの分も」
    次郎のセリフに、はあ?
「はい、これ」
    そんな古代の様子に次郎は気付いてないのか、同じ紙袋から今度は手のひらに乗りそうなほどの小さな包みを取り出した。 大きさは小さくとも、その包装は先ほどの2つの箱より余程派手に可愛らしく。
    中身は、まだ何だか知らないが。 父親が触らせてもくれない綺麗な箱より、小さいけど可愛らしくて、間違い無く自分に差し出された包みだろう。
「弥生の?」
    もう、弥生の興味は完全にそちら側。 古代の膝から、次郎に…と言うよりその持っている包みに飛び付いて。
「だって…貰ったし」
    古代が問い質(ただ)せば、次郎の返答は至極あっさりと。
    俺は貰ってないぞ…という古代の内心の叫びなど、やっぱり次郎は気付いた様子は無く。
「帰るの〜?」
「うん。 今度来る時は、はるかも連れてくるよ」
弥生相手に、そんなやり取り。
    それからまた改めて、古代に向かってここを辞する事を挨拶して。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    昨日休暇を願った分…なのか、今日の雪の帰宅はいつもよりほんの少し遅かった。
「ああ…それ?」
    次郎の来た時の事を古代から聞かされながら、その持ってきた返礼を一つ解(ほど)きながら雪は笑って答えた。
「時々やってるじゃない、弥生が」
「何を、だよ?」
「あ、可愛い。 こっちが、次郎君のね?」
    古代の問いは、箱の中身に少しだけ保留された。
「ほら…自分のおやつを飛鳥にくれたり、進さんにくれたりするでしょ?」
「え?ああ…そう言えば」
    飛鳥はまだ、口に入れたを殆どこぼすような離乳食始めたばかりで、弥生がくれてやったところで全く食べられやしないのだが。 確かにチョコレートの一片とか、クッキーの半分とか…を「あげる」とたまに持ってきた事が。
「それよ、多分」
    もう一つの箱をまた解きながら、雪がくすくす…と笑う。
「じゃあ…何か? たまたまそれがバレンタインで、チョコレートだったって?」
    何だかものすごくほ…っとしたのが、半分。 だとしたら、次郎が律儀過ぎて間抜けてるようで…と呆れるのが、もう半分。
「…って言うより、弥生がねだる事が分かってたんじゃない?」
    弥生の目の前で古代に、本当のところは雪に…だが何かを渡していれば。 子供は何故だか、大人の話に交ざりたがって、大人と同じものを欲しがるものだから。

「進さんもそれくらいの気が遣えないと、モテないわよ?」
    またくすくす…と笑う奥さまに、俺が今更女性陣に好評博してどうするんだ…と思った古代である。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima