おまけのおまけ

NovelTop | 第三艦橋Top

    ドアチャイムに呼ばれてみれば、見慣れた3人が立っていて。 思わず…せっかく開いた玄関ドアを、もう一度閉ざそうかと思った。
「やだなあ、島さん。 そんな、思いっきり『嫌そうな顔』しないで下さいよ」
嫌そう…では無くて、はっきり「嫌」なのだが。
    そんな事を気遣ってくれるような、3人でもなかった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「俺は、ともかく。 相原も太田も、島さんの休みに合わせて、わざわざシフトずらしたんだから…追い返したりしませんよね?」
    島としては正直、追い返してやりたいくらいだが。 そんな事くらい読めてしまっているから、ちゃっかり先回りして釘を刺しておく南部だ。
「人の休みを、何処で調べたんだ?」
    そんなセリフが、島にはせいぜいの皮肉だったが。
「簡単でしたよ? 徳川が居るじゃないですか、コントロールセンターには」
それには、太田があっさりと答えて。
「まあ…徳川が居なくたって、大した手間じゃないですけどね。 島さんのシフト調べるくらいの事は」
    さら…っと言い捨ててくれる南部と、その横でうんうん…と頷いている相原に。
「…何を、やるつもりだったんだ?」
つい、問い返してみれば。
「ちょっとばかり、尋常じゃない手段…ですかねえ?」
    けらけらとして、南部が答えた。

    いつまでも、玄関から戻って来ない島をどう思ったのか。 後を追うようにして出て来たテレサを、良いから…と。 追い立てるように、奥に帰していて…視線に気付いて。
「…何だよ?」
「いや…何て言うか、珍しいかな…と」
    珍しく、3人の中で最初に口を開いたのは太田で。
「今まで、用が有って航海長の所に来ても、見なかったですから。 こういう場面って」
こういう…とは、つまり「島が、女性と居る」風景。
「…古代さん所でも見ないよね、雪さんがいつも居る訳じゃないし」
    一度、結婚式が延期になってしまった、今もまだ単なる婚約者同士でしかない2人が。 毎日毎日、24時間、一緒に居るようでは…それもそれで、別の問題が有る。
「上官の持ち込んできた見合いを断り切れなくて、やっと結婚しちゃうタイプだと思ってましたよ。 島さんって」
「…何が、言いたい? 南部?」
「今、俺の言ったまんまですが?」
    いつでも、どんな場合でも。 とどめの一言が簡単に言えてしまう南部も、大したものかも知れない。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    結局、何をしに来たんだ?
    3人の急襲を受けて途惑い半分、迷惑は…それ以上。 そんな島が、とどのつまり訊きたいのはそんな事。
「何…って、引っ越し祝いですが。 島さんの」
「要らんっ」
    南部も即答なら、島の方も即答。
「ほら、やっぱり」
すっぱり断られた南部を、相原が横から突っ付いて。
「だから、島さんは古代参謀と同じ理由じゃ駄目だって、言ったじゃない」
    …ちょっと、待て。
「お前たち…お兄さんの所にまで、押し掛けたのか?」
「行きましたよ?当然じゃないですか」
「押し掛けちゃいませんけどねえ、別に」
    あっさりと、意外そうにさえ答える相原に。 けらけらと、言い訳を笑う南部と。
「だから最初から、第2案にしとけば良かったんだよ」
何でも無かったような顔をしてさら…っと、話題を元に戻す太田と。
    こんな場合の、普通以上の周到さとチームワークの良さに呆れて、むしろ感心さえしてしまう。
「ああ…そうね、このまんまじゃ話進まないし」
基本的に仕切っているのが南部だ…という事は、全く変わりないのだが。
「じゃあ、改めて。 テレサさんの、退院祝いって事で」
    …もう、好きにやってくれ。

「だけど…どうして、今なんだ?」
    諦めて、取り敢えず「客」として扱う事として。
    ただ…そのまま表に出しておいて、この3人に自分がからかわれてしまうのも嫌なら。 何を言い出すか読めないこの3人が、ちょっとした隙に、テレサに何を色々吹き込むやら知れないのも、もっと嬉しくなかったから。
    重ねて「構わないから」…とテレサを、リビングの、さらに奥にと追いやっておいて。
「1ヶ月も経てば、多少は落ち付いてると思ったんで。 2人とも」
    供されたコーヒーに遠慮無く口を付けながら、南部がまたしれ…っとして言ってのけて。
「俺らが気付いた時にすぐ来ても、迷惑だったでしょ?」
    この連中が気付いた…逆に言えば「バレた」のは、まだ1週間が経っていない時。 確かに…完全に片付いてさえなく、それは迷惑だったに違いないが。
「…今だって、充分迷惑だが?」
「やだなあ、島さん。 そう、照れなくても」
「…人の話、ちゃんと聞いてるのか?南部?」
    呆れた島の、素直な問いには。
「南部が、会話を無視して話進めるのなんて、今更だよねえ?」
「…だよな」
答えているつもりなど無いだろうまま、残りの2人が掛け合いで返した。

「じゃ、まあ…真面目な話しますけど。 何が良いです?引っ越し…じゃなくて、退院祝い」
    祝い…と言いながら、3人共に何を持つ訳でもなく空手なのは、勿論最初から見て分かる事で。
「来る前に、訊かないか?普通…」
「いや…だって、島さんにだけ訊いても仕方無いでしょ? ここには『2人』居るんだから」
    この部屋に暮らし始めてから一月経っていれば、必要なものは粗方(あらかた)揃っているはずだし。 さして、必要の無いものを贈っても喜ばれる訳ではないし。
    それが、南部の説明。
「ああ…でも、取り敢えず。 夕方辺りに、花は届くはずですんで。 ちゃんと渡して下さいよ?テレサさんに」
    俺も、男に花贈る趣味は無いですから…とも、付け加えて。
「あんまり高価(たか)いものはナシですよ? 俺らだって、そうそう良い給料貰っちゃいませんから」
そういう点での釘も、しっかりと刺しておいて。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「やっぱり、古代さんにも声掛けといた方が良くなかったかな?」
    急に言われたって、即座に思い付くはずが無いだろう…と、もっともな島の言葉に。 辞して降りてきた駐車場で、太田が思い出したように。
「そりゃ、古代参謀の時は拙いから、黙ってたけどさあ…」
    実際と名目はともかく、祝う…と言うのを古代も止めやしないだろうが。 「兄の所に、押し掛けられる」のは、流石に有難くない。 九分九厘まで、何が何でも止めようとしたに違いないから。
「航海長の引っ越し祝いにしても、テレサさんの退院祝い…にしても。 一枚噛む可能性は有っても、止める事は無いはずだろ? 古代さんも」
「そりゃ…古代さんは、ね? でも、雪さんがどう出るか分からないでしょ」
    いや…十中八九、邪魔しないであげなさいよ…とか言うだろうと、3人とも思ったが。
「今の…南部が頼んだ奴?」
「多分ね」
    敷地内から出ないうちに、花屋の車と擦れ違った。
「予定より、早くない?」
「遅いよりは、早い方が良いでしょ」

    前触れ無く、いきなり。 騒々しく現れた割には、意外にあっさりと短時間で帰ってしまって。
「何だったんだ…結局…」
そう呟いた言葉が、そのまま島の本心。
    3人が帰ったと見て、リビングに出て来たテレサも、後を片付けるのを手伝って。 それと殆ど同時に、言われていた通りに花が届けられて。
「私に…ですか?」
    大きく、華やかに…ではなく。 小ぢんまりとして可愛らしく、極力色とりどりに。
『植物が見えなかったらしいですから、こういう方がお気に召すかと思ったので』
テレサに渡せ…と言っておきながら、花に付けられていたカードは何故か、島宛てで。
    会話に困らなくとも、文字までが読める訳では無いので…恐らくは。
「ええ…綺麗ですね」
その意味を伝えられて、そう言って。 愛しそうに、小さな花束を抱えるその顔は、とても嬉しそうだったから。

「…で。 ホントの所は、何狙ってる訳?」
    振り返っても、さっき後にした官舎が他に紛れて見えないような所まで来てから、相原が。
「何…って、何が?」
    運転中に付き、後部座席を振り返りもしないで、ルームミラー越しにさえ見ないで、南部がそれに答えて。
「だって…南部らしくないじゃない。 こんな、回りくどい方法取るなんて」
    見てくれないなら、見てもらうまで。 別に…そういう訳でも無いだろうが、助手席との隙間から運転手を邪魔しない程度にまで、身を乗り出して。
「普段なら…もっと、図々しいでしょ? 花束くらい有無を言わさず、直接押し付けてるよね? テレサさんに」
「君ねえ…俺を、一体どういう奴だと思ってるんですか?」
結構ものすごい事を、さら…っと言ってのける相原に。 南部は、それでも苦笑しながら。
「…でも、俺もそう思うぞ?」
    同じく、後部座席から。 こちらはしっかりと背を預けっ放しの太田が、やはり肯定して。
「お前が大人しい時って、何か…裏が有るんだよな」
続いた言葉に、そのままの格好で相原も頷く。
    …あんな調子を、図々しくない、大人しい…と言い切れる2人もものすごいかも知れないが。 そう言い切られてしまう、南部の「普段」も大したものだろう。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「裏が有るのは、俺じゃなくて…島さんの方でしょ」
    ルームミラーが使えない…を理由に、相原を言葉で座らせておいて。
「だって、あれ…実質『結婚』じゃないですか。 そうでしょ?」
南部は、そう言葉を続けた。
    勿論、それに止むを得ない理由が有る事は、先刻ご承知。 2人が好き好んで、そんな状態を選んだ訳じゃない事なんて、重々承知。
「はい、そこで問題です。 こういう事情と状況で、島さんが『結婚のご祝儀』受け取ってくれる人でしょうかね?」
「受け取らない、よな」
「絶対、無理」
    ふざけた南部の質問に、太田も相原も即答する。
    …悪いが、伊達に長時間顔を突き合わせてきた訳じゃない。 本当の、心底の部分ではどうだか、ともかく。 ある程度正確な、感情や思考の動きさえ容易(たやす)く想像出来るまでには、知り過ぎているから。
「悪いけどね。 最初に、古代参謀の所に行っちゃったのなんて、島さんに対する言い訳ですから」
    しれ…っとして、当人が聞いたら何と言うやら…な事を言い放つ南部に。
「古代参謀の方が、ダシな訳? それって、ひどくない?」
「…聞かなかった事に、しておこう…」
残る2人は、それぞれの感想を率直に述べた。

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Last Update:20040806
Tatsuki Mima