写真:04

NovelTop | 第三艦橋Top

    子供の記憶力は確かでも、その興味の方向と対象はころころと実に簡単に変わっていく。 なので、けろっと忘れておいて、いきなり思い出したりもする。
「島さーん、お帰り〜っ」
    ばたばたと走ってきた勢いそのまま飛び付いてきて、遊ぼう…とねだってくる様子では取り敢えず「写真の事」は忘れているようだ。
    はるかに少しだけ遅れて出てきたテレサからも、ようやく「お帰りなさい」の言葉。
「あの…島さん」
    それから恐る恐る…といった体で切り出してきた言葉に、はるかにはあまり良く聞こえない程度に写真の事なら聞いた…と返した島だったが。
「いえ、その事じゃなくて…」

    言葉と同時にドアを指差したテレサから、書斎の一件をようやく聞かされた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    仮眠も書類を仕上げる事も見事に邪魔してくれただけの事はあって、久し振りに島を相手にはしゃいで疲れたはるかは、その分だけ早々に眠ってくれて。
    正直、寝ていてくれると…ほっとする。
    寝ていて動き廻ってくれないという事は、見失うような事も無いし怪我をする事を心配しなくとも良い。 多分…航海に、逢わない時間の方が永いから余計にそう思うんだろう。
    寝顔は見飽きるような事無いのだが、いつまでこうやって見ていても仕方が無い。 リビングまで戻ってきて、ようやく一つ息を吐く。
「ええ…そうですね。 最近は追い掛けるのも大変です、足が速くなったので」
    その辺りをテレサに問うてみれば、そう言ってくすくす…と微笑う。
「目を離せば、あの…書斎(へや)のような事もしてくれますし」
    自分はいつもいつも官舎(いえ)を空けるが、テレサの方は毎日24時間ずっと…だ。 それだけに、ずっと気を張ってもいるはずなのに。

「あ…本を並べ替えないと…」
「良いよ」
    思い出したように、隣から立ち上がろうとしたテレサを、言葉に押し止(とど)めて。 実際、はるかの相手をしている間に見てきたが、既に充分片付いていた。
「元から、そこまで気にして並べてないから」
    いや…自分の使い勝手だけで置いていた以前よりも、サーシャが真田の書籍を整理し慣れている分だけよっぽど系統立てて並んでいるかも知れない。
「…良いんですか?でも…」
「良いよ」
    言葉に大人しく従ってまたそ…っと座り直しながら、まだもう一度訊いてくるから。 こちらも笑ってみせながら同じ言葉をまた繰り返して、重ねて止(とど)める。

    だって…今日、ようやくここまで帰還(かえ)ってきたばかりだ。 少しでも近く、永く…傍に居て欲しいと思っても良いだろう?
    …最初に触れておきながら、最後までその頬から離れられない指先が、未練だ。

「あの…」
    離れていくのを待っていたように、ようやく。 途惑いをその面(おもて)にそのまま、ひどく近い位置(ところ)から見上げてしまいながら。
「…写真の事?」
「ええ…」
もう、途惑うを越えてはっきりと眉根を寄せて…泣き出しそうにも。
    地球人じゃない。 それだけで自分が「普通でない」と自覚するに、充分。 あの惑星(ほし)にもその平均から離れていたのに、地球(ここ)でなら…それ以上。
    全ての負い目は、それが発端。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    それは…島の方でも分かっている事だったが。
「そのまま言えば良いよ、無い…と」
    全て承知していた、何処までも未来(さき)を考えていた…と言えば、嘘になる。 それでも、何も知らずに、何も考えた事の無いまま現在(いま)を選んでは居ないから。

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Last Update:20061018
Tatsuki Mima