他の誰よりもテレサを選んだ、それまでの何もかも…を捨てるようにも自宅(いえ)を出て。
その時には、それしか選ぶ事が出来なかった…から。
だけど、後悔は無い。
何も悩まなかった、そう言えばまたそれも嘘になるけれども。
現在(いま)の毎日が、そんな…これまでの全ての結果なら。
「別に…写真だけなら、今からだって撮れるさ」
わずかに溜息も混ざり込んだ言葉を、ソファの背に頭を預けるようにして天井に吐く。
「…多分、それほど時間も掛かる事じゃない。
はるかに黙って撮れば、最初っから有ったと誤魔化すのも簡単だろう」
「それなら…」
続いた島の言葉に、テレサがもう一つ詰めて寄る。
こちらから視線を外している人に、その視線をこちらに戻してくれ…と願うように、その腕を強く捕まえて。
そうして、ようやく振り向いてくれた人はこう言った。
「それでも君は『君』のまま、はるかは『はるか』のまま…だろう?」
…テレサは「テレザートの人間」のまま、はるかは「純粋な地球人では無い」まま。
◇
◇
◇
◇
指の力が、抜けていく。
「あの…はい、そうですね…」
何度も何度も、口惜しいほど繰り返して思い知らされた、地球(ここ)に生まれ育っていない自分。
これで一体、その…幾度目。
「写真の1つや2つで何もかもが済むのなら、そうする。
でも…結局、何も変わらないだろう?」
今回を、誤魔化す事の出来るだけ。
「はるかと弥生が、何処にもそんな写真はやっぱり有るんだ…と思い込むだけだ」
出逢ったところから、全て。
彼女の事情に、挙式(しき)も無かった。
ただ「一緒に居た」だけ、籍の有るでも無い中途半端な立場にも…否応無くずっと。
そんな今までの何もかもが、現在(いま)を組み立てていて。
「それでも、はるかは『はるか』のままだから」
はるかが4月に、弥生がその次の年の3月に。
ほぼ1年有ったはずの差は、もう殆ど無い。
単純に、はるかの発育の遅いだけなのか。
それとも…その母親に似て、成長の速度が遅いのか。
だが恐らくは、その後者。
この先…もっともっと、その差は大きくなっていくんだろう。
…黙っていても、そのうちはるか自身で気付く。
自分がどうやら…他とは違うらしい事に、決して「平均的では無い」という事に。
そうして、その理由が何処に…誰に有るのか…という事にも、そのうち。
…はるかは、逃げられない。
なのに、どうして。
2人で…同じその事から、何処まで逃げようと図る?
「だから…良いんだ、現在(いま)のままで」
在るものは今ここに在るまま、無いものも今のまま。
何を隠そうとも思わない、何を無理矢理に継ぎ足そうとも思わない。
自分は、こうやって生き永らえて。
航海に出逢った女性(ひと)は、隣に居てくれて。
強く望んでは居なかった娘も、身近にはしゃぎ廻ってくれて。
それ以上の、何を望む必要が在る?
「君が、地球人で生まれ変わってくるのは…来世(つぎ)まで待つよ」
隣でようやく笑ってくれた人に、テレサもやっと釣られたように微笑ってみせて。
◇
◇
◇
◇
…そんな事なんて、いつに叶うのか分かった事では無いのに。
いいや、いつまでも叶わないかも知れないというのに。
どうして今に、こうやって笑っていられるのだろう?
「その時に…島さんが『地球人で無かった』ら、どうするんです?」
くすくす…と、だが何処かしら寂しげにも微笑って問うてみれば。
「その時は『同じ事』を繰り返すだけだろう?」
やっぱり…笑いながら、そう答えてくれて。
また指先が触れていく。
それから、ほら…唇にまたもう一度。
幾呼吸の間をそのままで、離れていくのは触れていくよりもどれだけゆっくりと。
「どうせ…また、俺は航海を仕事に選ぶから」
「…それなら私は、また待っているだけですか?」
笑ってくれるに、微笑うで返す。
「擦れ違わない程度にこっちに来てくれれば、それだけ出逢うのが早くなるけど?」
将来よりもどれだけ遠い未来(さき)の話に、現実感など無さ過ぎて。
無責任に笑ってしまえるのはきっと、その所為なんだろう。
「やっぱり、地球(ここ)で待っている事にします。
擦れ違いたくは無いですから」
地球(ここ)で…それなら、現在(いま)と一緒だ。
何も変わらない。
きっと、笑って待っていられる。
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Last Update:20061018
Tatsuki Mima