逆算すれば、サーシャの生まれたのは恐らく、2人の出逢った頃。
いや…それからの1年を考えたなら、もっとずっと後…サーシャを初めて見たその少し前だったかも知れない。
どちらにしても、彼女がもし「純粋な地球人」として生まれていたなら、まだ…ようやく小学生。
その年齢は、未だたった1桁でしかない。
続いた言葉に、彼女の表情は和(やわ)らぐ。
だが、逆に訝(いぶか)しさと困惑をはっきりと。
「帰ろう?」
病院の前に立ち尽くしたまま、するような話でも無いだろう。
その意味で、キーホルダーを掲げて見せながらそう促した。
◇
◇
◇
◇
車に乗る事が現在のお気に入りらしいはるかは、乗ってしまえば窓の外を張り付くように眺め始めて、こちらの言う事にろくに返事もしなくなる。
「あの…」
「…君は、何年生きてきた?」
それを見てから口を切ったテレサを遮るようにして、島が運転席から問うた。
「え…?」
あの頃、島は20歳だった。
見掛けでは、彼女は同じか少し年下か…といった風に思えた。
だが、その後に聞かされた話の中でもう少し…自分より永い時間を生きているんじゃないかと感じた。
それを当のテレサに確認する事の無いまま、しかし確信したのはサーシャに「2度目」に出逢った時。
腕の中に収まってしまうほどの幼さを、1年ばかりで置き去りにしてきた事を知った時。
「君は、俺よりどれだけ永く生きてきた?」
自分の知っている「成長度合い」とは、あくまでも「地球人のもの」でしか無いのだ…と。
どれだけ地球人の常識から外れていようと、それがその人…その惑星(ほし)に生まれた人には当然の事なのだ…と。
こう…面と向かって問われてしまえば、何と答えれば良いのだろう。
時間の数え方が違う、1年の数え方が違う。
それだから、年齢の数え方も違う。
それに…いつからか、日も年齢(とし)も数えるのを止めてしまっていた。
…自分より他に、誰も居なくなった時から。
分からない…というのが、正直なところ。
島がそうだと気付いたように、テレサの方でも地球での「日の流れ方」を知ってからそうじゃないかと気付いた。
島より永く生きている…地球人らしく言ってしまえば「年上である」事は、どうとも思わない。
だが…地球(ここ)に暮らしているうちに、島の方が気にしてしまいそうな気がして…訊かれないを良い事にして黙ったままに、今まで。
「これから未来(さき)、君は…俺よりどれだけ永く生きていく?」
◇
◇
◇
◇
車のエンジンが、低く響いてくるだけ。
はるかは、流れる景色に見入っていて口も利かない。
どう答えて良いのか分からなくて黙ったままのテレサと、返答を待って黙ってしまった島と。
何て…本当に、静かな車内。
「…ごめんなさい」
考えて考えて…考えた挙句に、やっとそう言った。
謝しているのは、誰に対して?
島に対して、今まで何も言わずにきた事に?
それとも…はるかに、地球人ではない遺伝子を分け与えてしまった事に?
1人、他人と違い過ぎている事の最悪の結果が「独り」にされてしまう事だ…と、身をもって知り過ぎるほど知っていたくせに。
島の、軽い…静かな溜息。
この際、耳にでは無く胸に痛いほど突き刺さる。
「…そうじゃ無くて」
どうして、ごめんなさいという言葉になってしまうのか、分からない。
だけど、それを言わせたのは…きっと自分の言葉の所為だ。
その意味の、自分に対する溜息。
「俺は…それで良かった、と思っているんだけど」
バックミラーの中、ふ…と顔を上げるテレサを見た。
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Last Update:20060527
Tatsuki Mima