Ordinary:04

NovelTop | 第三艦橋Top

    逆算すれば、サーシャの生まれたのは恐らく、2人の出逢った頃。 いや…それからの1年を考えたなら、もっとずっと後…サーシャを初めて見たその少し前だったかも知れない。
    どちらにしても、彼女がもし「純粋な地球人」として生まれていたなら、まだ…ようやく小学生。 その年齢は、未だたった1桁でしかない。
    続いた言葉に、彼女の表情は和(やわ)らぐ。 だが、逆に訝(いぶか)しさと困惑をはっきりと。
「帰ろう?」
    病院の前に立ち尽くしたまま、するような話でも無いだろう。 その意味で、キーホルダーを掲げて見せながらそう促した。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    車に乗る事が現在のお気に入りらしいはるかは、乗ってしまえば窓の外を張り付くように眺め始めて、こちらの言う事にろくに返事もしなくなる。
「あの…」
「…君は、何年生きてきた?」
    それを見てから口を切ったテレサを遮るようにして、島が運転席から問うた。
「え…?」
    あの頃、島は20歳だった。 見掛けでは、彼女は同じか少し年下か…といった風に思えた。 だが、その後に聞かされた話の中でもう少し…自分より永い時間を生きているんじゃないかと感じた。
    それを当のテレサに確認する事の無いまま、しかし確信したのはサーシャに「2度目」に出逢った時。 腕の中に収まってしまうほどの幼さを、1年ばかりで置き去りにしてきた事を知った時。
「君は、俺よりどれだけ永く生きてきた?」
    自分の知っている「成長度合い」とは、あくまでも「地球人のもの」でしか無いのだ…と。 どれだけ地球人の常識から外れていようと、それがその人…その惑星(ほし)に生まれた人には当然の事なのだ…と。

    こう…面と向かって問われてしまえば、何と答えれば良いのだろう。
    時間の数え方が違う、1年の数え方が違う。 それだから、年齢の数え方も違う。 それに…いつからか、日も年齢(とし)も数えるのを止めてしまっていた。
    …自分より他に、誰も居なくなった時から。
    分からない…というのが、正直なところ。 島がそうだと気付いたように、テレサの方でも地球での「日の流れ方」を知ってからそうじゃないかと気付いた。
    島より永く生きている…地球人らしく言ってしまえば「年上である」事は、どうとも思わない。 だが…地球(ここ)に暮らしているうちに、島の方が気にしてしまいそうな気がして…訊かれないを良い事にして黙ったままに、今まで。
「これから未来(さき)、君は…俺よりどれだけ永く生きていく?」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    車のエンジンが、低く響いてくるだけ。 はるかは、流れる景色に見入っていて口も利かない。
    どう答えて良いのか分からなくて黙ったままのテレサと、返答を待って黙ってしまった島と。 何て…本当に、静かな車内。
「…ごめんなさい」
    考えて考えて…考えた挙句に、やっとそう言った。
    謝しているのは、誰に対して?
    島に対して、今まで何も言わずにきた事に? それとも…はるかに、地球人ではない遺伝子を分け与えてしまった事に?
    1人、他人と違い過ぎている事の最悪の結果が「独り」にされてしまう事だ…と、身をもって知り過ぎるほど知っていたくせに。
    島の、軽い…静かな溜息。 この際、耳にでは無く胸に痛いほど突き刺さる。

「…そうじゃ無くて」
    どうして、ごめんなさいという言葉になってしまうのか、分からない。 だけど、それを言わせたのは…きっと自分の言葉の所為だ。
    その意味の、自分に対する溜息。
「俺は…それで良かった、と思っているんだけど」
    バックミラーの中、ふ…と顔を上げるテレサを見た。

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Last Update:20060527
Tatsuki Mima