おまけ:その1
南部に4日遅れて、島も航海に出てしまったから。
相変わらず、離陸からただの一度も着陸まで持ち込めないサーシャに。
飽きは…しているが懲りずに教えているのは、相原と太田の「地上勤務」組で。
「…も〜。
いい加減、墜落しないで戻って来てよ〜」
泣きそうな声で、弱り切った表情(かお)で、溜息交じりに呟くのは相原。
「泣かないでよ。
男でしょ、相原さん」
墜落しまくり、教えてもらう側のサーシャの方が「偉そう」なのは、何故だろう?
「だって…参謀とか、古代さん誤魔化すの、大変なんだからね?」
ぶつぶつ…と、相原の呟く言い訳。
相原は、司令本部で通信技官をやっていて。
サーシャの方は、同じく司令本部内で一般事務を。
部屋は違っていても、建物は同じ。
つまり…サーシャからしてみれば、誰より一番簡単に連絡が取れるのが相原…という事で。
殆ど毎日のように、それほど直接連絡なんて有るはずの無い相原に何かと逢って、話し掛けて。
ここ数日は確実に毎日、定時で早々、相原を引き摺るようにして司令本部を出ていれば、いい加減…気付かれる。
「雪さんも居るし、真田さんは科学局(となり)だし…」
「…晶子さん、参謀の秘書だもんな」
わざわざ濁して、言わないで済ませた事を、太田が駄目押しする。
「…はっきり、言わないでよ」
不機嫌な一瞥をくれておいてから、相原は永い溜息を吐いた。
◇
◇
◇
◇
他人(ひと)にものを教えねばならない時に、途中であまり口を挟まないのが南部。
途中では絶対に、何も言わないでいるのが島。
どちらも、結果が出てから一言二言であっさりと済ませて、問わねば自分の口にした言葉の説明もろくにしない。
対して、この2人。
教えている…という意識の所為か、問題の出たその時に言葉は選んで…はっきりとは言わないまでも、その都度口を挟むタイプ。
その分だけ教えてもらう方は、自分がどの位置で失敗したのか…は分かりやすい。
その意味で、この2人の方が「初心者向き」の教師…である。
「…もしかしなくても、相原さんってあんまり上手くない?」
自身が素人でも下手でも、他人の操縦技術の上手下手くらいは見ていて分かる。
ましてや、シミュレーターだ。
最後に、レコードという名で数値(スコア)がはっきりと示されるのだから、分かりやすい事この上無い。
「悪かったねっ」
…だからと言って。
幾ら…相原当人が、自身の操縦を上手くないと承知していようと。
現在教えてやってる側のサーシャに、そうもはっきり言われたくは無い。
「離陸(で)て着陸(もど)って来るだけ、相原の方がマシだと思うけどな」
太田がぼそ…っと、本当の事を。
「悪かったわね。
これでも、少しは遠くまで飛べるようになったんだから…」
それに対して、ぶつぶつと反論をしてみるサーシャだが。
墜落以外の結果はまだ出せていないから、ひどく小さな声で、気弱に。
「…でも。
ちょっと頑張れば、相原さんは追い抜けるって事よね」
何事も挫けず、前向きなのは良い事だ。
「…航海長と南部だけでも、10日くらい付き合ってるんだよな?」
「僕たちだけでも、もう1週間くらい付き合ってるよねえ…」
だから、その日が一体…いつ来るんだろうな、とは思いながらも。
サーシャに向かってはかろうじて、黙っていた2人だった。
ふ…と、思い出した。
「…あれ?
私、南部さんのシムって見た事無いわね?」
出航が直前だった日。
南部を相手に喧嘩を吹っ掛けていたようなやり取りも、何故だか…島に振られてしまって、結局はまだ1度も。
「南部の?
見てなくて…良かったんじゃないかなあ」
「下手なの?」
ちょっと考えながら呟く相原に、即座にはっきり問い返すサーシャ。
「…逆だってば」
それには、相原が呆れた口調で答えを返して。
「上手いよ、南部は。
ものすごく」
実機訓練はそれほどでも無いけど、少なくともシミュレーションだと。
そんな断りを付け足しながら、太田が。
「…そうなの?」
「古代さんとか…加藤みたいに専科の奴でも、何回かはスコアで負けてるくらいだから」
今、太田が口にした「加藤」は、サーシャの良く知ってる方では無いが。
どちらにしても、すごい事には変わりが無い。
…とは言ってもサーシャが実際に、その目で見た訳ではないから今ひとつ信じ切れては居ないのだが。
「操艦の方でも、島さんに勝った事有るよね?」
「スタートが違うもんな、シムに関しては」
「…何、それ?」
疑問に感じた事を、素直に口に出してみただけなのだったが。
聞かされた、相原と太田はむしろ…意外そうにサーシャを見て。
「…って、全っ然気付いて無かったの?」
相原は、本気で呆れて。
「半月以上ここに通ってて、本当に?」
太田はそれ以上に、もっと呆れていたようで。
◇
◇
◇
◇
「これ…」
そこに鎮座しているシミュレーターを、ぽん…とひとつ、軽く叩いて存在を示しながら。
「小型『戦闘』機のシムでしょ?
小型『航空』機じゃなくて」
相原の言う事には、何を当たり前の事を…と思いつつも、間違っている訳では無いからサーシャも素直に頷いて。
「…って事は、普通は軍関係施設にしか無いはずでしょ?
訓練学校とか」
それも、ひどく当たり前の事。
最早、頷くまでも無い。
だから…逆に、何が言いたいのか…良く掴めない。
「それ以外に、シムが有る場所って…ものすごく限られてるだろ?」
それを追い掛けてきた太田の言葉に、やっと気付いた事が有った。
「…ここって、軍の施設じゃない訳?」
「あのねえ…軍に関係した所だったら、一発で参謀にバレてるってば。
参謀じゃなかったら、真田さんに」
…それもそうね。
いや…納得している場合では無く。
「もしかして…ここって、南部さんの関係?」
「もしかしなくても、そうだってば」
恐る恐る…という体(てい)で、訊ねてみた言葉には。
至極あっさりと、言葉が戻って来た。
▲ |
<前頁
Last Update:20050119
Tatsuki Mima