霧の中の蛍光:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    夏は嫌い。 私には、暑過ぎるから。

    今日も暑くなりそうな見事な青空とその雲の無さに、恨めしそうに窓の外を見上げる。 そうしたところで陽は隠れてくれそうにも無いし、気温の上がるのを止められもしないのだが。
    知らず、小さく溜息を吐いて、窓辺を離れる。 ガラス越しの直射日光に温められて、のぼせてきたのか…少し気分が悪くなってきたから。
    軽い吐き気を、息を呑むように無理矢理に押さえ込みながら。 空調の風の直接当たる場所(ところ)で、一呼吸、二呼吸。
    いつまでも暑さの引かないこの頃に、身体がついていけなくなっているんだろう。 暑さだけじゃない、寒くなっても同じ事。 この惑星(ほし)に暮らすようになってから毎年、毎季節の事。

    体調が良くない時には、色んな事をどうしても思ってしまう。 普段なら絶対に考えないような、とても…詰まらない事を。
    私は…このまま、ここに居ても良いんだろうか?
    いつまでも慣れないのなら、何処へなりと帰ってしまえば良い。 傍に居たい…という気持ちを、現在(いま)暮らすこの地球(ほし)にそう否定されたような気がして。

    空洞惑星という、巨大な石造りの温室に生まれ落ちて、そこに育って。 四季の移ろうこの地球(ほし)に、既に数年…それでもまだこの身体は、上下する気温に慣れてしまえないままで。
    …恐らくは、ここに生きて暮らしていく限りは…ずっと。 わずかな気温の変化に、この身体は過剰に反応して終わるんだろう。
    過ごしやすかった季節は、あっと言う間に終わってしまう。 移ろう暦と気温に追われるように、私の身体は…疲れて、また正直に体調を崩していく。
    その度に思い知らされる、地球(ここ)では私は…未だ異邦人でしかないのだと。 そして…「テレザート星人(わたし)」は、たった「1人」なのだと。

    だから…夏なんて、大嫌い。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    1人で居ると部屋がとても広い、そうして…とても静かだった。
    時計が規則正しく秒を刻んでいく、自分の鼓動までもが聞こえてくるような気がする。 その2つのずれたリズムが重なって、不協和音を奏(かな)でていく。 苛々として、神経を削っていってしまいそうな曲を。
    傍に居て欲しい、それはいつも思っている事。
    逢いたい…今すぐに逢いたい、わがままな焦燥に駆られた現在(いま)一番に思う事。

    窓の外に空が在る、太陽が輝いている。 だから…ここは地下都市じゃない、分かっているけど。 昨日よりも今日、今日よりも明日、上昇(あが)り続ける気温に1年前の記憶が引き摺り出されていく。
    今までに無く長い航海になると、最初から聴かされていた。 それと承知で、いつもと同じように…微笑って送り出した…つもりだった。
    …いつかとは違う、必ず…また逢えるから。 任務という名の数週間の「独り」も、地上(ここ)に待っているだけで必ず還って来てくれたから。
    けれども…永かった、とても。
    直接の会話なんて叶うはずも無く、人伝てに聞こえてくるその方向と距離はひどく遠くて。 気温の上昇を避けて、地下に潜ってしまえば眺められなくなってしまった夜空に、想う事さえ封じ込められてしまったような気がして。
    生まれ育った惑星(ほし)の上空(そら)は、同じように塞がれていて。 だから…懐かしく感じてさえ良いはずなのに、私は。
    暑さに、私は空調を離れられない。
    消費するだけ、生産のされないエネルギー残量を憂慮せねばならなくなった時、この地球(ほし)で生まれ育ったならば何とか耐えられるだろう空調設定も…私には、全くそのレベルではなくて。
    仕方無く…病院で暮らす事を余儀無くされた、その後半。

    …病院は、嫌い。
    あの時も…私は病室から出る事さえ出来なくて、貴方は地上(ここ)に居なかった。

『標本たる貴女は、ただ私の為に生きて、死んでくれればそれで良い』
──違います…私は「人間」なんです、地球(ここ)に生まれて育った者では無いけれども。
『標本たる貴女は、ただ私の為に生きて、死んでくれればそれで良い』
──いいえ…現在(いま)の私が生きるのも…死んでしまう事さえも、たった1人の為だけなんです。

    居ないはずの影が、こちらに手を伸ばす。 聞こえないはずの声が、私の存在を否定する。
    …だから嫌い、病院なんて…大嫌い。

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Last Update:20051007
Tatsuki Mima