夏は嫌い。
私には、暑過ぎるから。
今日も暑くなりそうな見事な青空とその雲の無さに、恨めしそうに窓の外を見上げる。
そうしたところで陽は隠れてくれそうにも無いし、気温の上がるのを止められもしないのだが。
知らず、小さく溜息を吐いて、窓辺を離れる。
ガラス越しの直射日光に温められて、のぼせてきたのか…少し気分が悪くなってきたから。
軽い吐き気を、息を呑むように無理矢理に押さえ込みながら。
空調の風の直接当たる場所(ところ)で、一呼吸、二呼吸。
いつまでも暑さの引かないこの頃に、身体がついていけなくなっているんだろう。
暑さだけじゃない、寒くなっても同じ事。
この惑星(ほし)に暮らすようになってから毎年、毎季節の事。
体調が良くない時には、色んな事をどうしても思ってしまう。
普段なら絶対に考えないような、とても…詰まらない事を。
私は…このまま、ここに居ても良いんだろうか?
いつまでも慣れないのなら、何処へなりと帰ってしまえば良い。
傍に居たい…という気持ちを、現在(いま)暮らすこの地球(ほし)にそう否定されたような気がして。
空洞惑星という、巨大な石造りの温室に生まれ落ちて、そこに育って。
四季の移ろうこの地球(ほし)に、既に数年…それでもまだこの身体は、上下する気温に慣れてしまえないままで。
…恐らくは、ここに生きて暮らしていく限りは…ずっと。
わずかな気温の変化に、この身体は過剰に反応して終わるんだろう。
過ごしやすかった季節は、あっと言う間に終わってしまう。
移ろう暦と気温に追われるように、私の身体は…疲れて、また正直に体調を崩していく。
その度に思い知らされる、地球(ここ)では私は…未だ異邦人でしかないのだと。
そして…「テレザート星人(わたし)」は、たった「1人」なのだと。
だから…夏なんて、大嫌い。
◇
◇
◇
◇
1人で居ると部屋がとても広い、そうして…とても静かだった。
時計が規則正しく秒を刻んでいく、自分の鼓動までもが聞こえてくるような気がする。
その2つのずれたリズムが重なって、不協和音を奏(かな)でていく。
苛々として、神経を削っていってしまいそうな曲を。
傍に居て欲しい、それはいつも思っている事。
逢いたい…今すぐに逢いたい、わがままな焦燥に駆られた現在(いま)一番に思う事。
窓の外に空が在る、太陽が輝いている。
だから…ここは地下都市じゃない、分かっているけど。
昨日よりも今日、今日よりも明日、上昇(あが)り続ける気温に1年前の記憶が引き摺り出されていく。
今までに無く長い航海になると、最初から聴かされていた。
それと承知で、いつもと同じように…微笑って送り出した…つもりだった。
…いつかとは違う、必ず…また逢えるから。
任務という名の数週間の「独り」も、地上(ここ)に待っているだけで必ず還って来てくれたから。
けれども…永かった、とても。
直接の会話なんて叶うはずも無く、人伝てに聞こえてくるその方向と距離はひどく遠くて。
気温の上昇を避けて、地下に潜ってしまえば眺められなくなってしまった夜空に、想う事さえ封じ込められてしまったような気がして。
生まれ育った惑星(ほし)の上空(そら)は、同じように塞がれていて。
だから…懐かしく感じてさえ良いはずなのに、私は。
暑さに、私は空調を離れられない。
消費するだけ、生産のされないエネルギー残量を憂慮せねばならなくなった時、この地球(ほし)で生まれ育ったならば何とか耐えられるだろう空調設定も…私には、全くそのレベルではなくて。
仕方無く…病院で暮らす事を余儀無くされた、その後半。
…病院は、嫌い。
あの時も…私は病室から出る事さえ出来なくて、貴方は地上(ここ)に居なかった。
『標本たる貴女は、ただ私の為に生きて、死んでくれればそれで良い』
──違います…私は「人間」なんです、地球(ここ)に生まれて育った者では無いけれども。
『標本たる貴女は、ただ私の為に生きて、死んでくれればそれで良い』
──いいえ…現在(いま)の私が生きるのも…死んでしまう事さえも、たった1人の為だけなんです。
居ないはずの影が、こちらに手を伸ばす。
聞こえないはずの声が、私の存在を否定する。
…だから嫌い、病院なんて…大嫌い。
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Last Update:20051007
Tatsuki Mima