Intermission:02

NovelTop | 第三艦橋Top

    南部の言った事は推論だが、実際を言い当てている。 今更黙っていても、もう…2人ともそれを無言の肯定としか取らないだろう。
    一つ…溜息。 気持ちを切り替える為に、記憶をまとめる為に。
「…最初は、テレサだ」
そうして、諦めた最初の一言。

    言葉に少しずつ、過去が繰り返される。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…相原君。 古代さんの帰還(かえ)ってくるのって、いつでしたっけ?」
    話が終わって、南部が真っ先に口にしたのはそんな言葉。
「え? え〜と…」
「進なら4日後だ。 予定は、な」
    訊かれたので素直に思い出そうとした相原に、思い出すまでも無かったので代わりに答えた守だ。
「あ〜…4日後なら俺、駄目かも」
「何なんだ」
    困ったような顔してみせる南部に、守が改めて問う。
    守と兄弟である以上、全くの無関係だとも言えない。 しかし、テレサの災難から始まったこの話の何処にも、古代が直接関わっていない事も確かだった。
「話しとくんですよ、古代さんに」
    極めて、あっさり。
「…っと、待てっ!」
    椅子のろくに無い真田の研究室(へや)に、守が大人しく立ったままいてくれるはずが無い。 ここに来てすぐ、端末を突付く為に机と椅子を借りていた相原をとっとと追い払っていた。
    その椅子を派手に蹴立てて…つい、腰を浮かせた。
「何の為に、今まであいつに言わないできたと思ってるんだ?」
    座っていた時には、前に立っている南部を見上げる形になるが。 立ち上がってしまえば、逆に南部をも見下ろすようになる。
    上から見下ろされる事に、人間(ひと)は位の上下を錯覚して萎縮する。 自分の身長とその事を良く分かっているから、こういった場合には例外無く席を立って…見下ろすようにする訳だ。
    もう…今では、殆ど条件反射のように。
「何と無く…なら分かりますよ。 無駄にじたばたしてくれるから、でしょ?」
    ただ、南部にはあまり効かない。 今だって、平然と。
「…ヒトの弟捕まえて、言いたい放題だな。お前」
「そうは言いますけど、その理由で『艦長』してたんじゃないんですか? イスカンダルからの帰路に」

    まあ…確かに、その途中からは意識的に進を外した。 事態がここまで来たら、騒いでくれるだけで邪魔だ…と判断して。
「『艦長』なんざ、やった憶えは無いっ」
    取り敢えず、反論を一つ。
「…って、きっちり仕切ってましたよね?」
「そんな記憶も在るな」
しかし、それは目の前の南部に…では無く、傍観者していた相原と真田に否定されてしまったが。

「俺や相原君が言わなくったって、今度の事はそのうち古代さんにバレますよ」
    何しろ、時と場所が司令本部の入口、日勤の終業時だ。
    あの事態を、直接見聞きした者がどれだけ居るか…は知れないが。 とんでもない突っ込み方をしていた車の存在と、そこに立っていた南部。 それから、息せき切って駆け出してきた守の姿を憶えている者は、きっと多い。
    第一…サーシャが本当に落ち着いたら、自分でバラしそうだ。
「…有りそう」
    ぼそ…っと相原が呟いたが、それに突っ込む者はこの場に誰も居なかった。
「まあ…まず古代さんも、当のお嬢さんに訊くでしょ。 で、お嬢さんが俺と相原君の名前出す訳です」
    この2人の名前を出されたなら、古代は十中八九相原の方に詰め寄る事を選ぶ。
    相原なら地上勤務だから、必ず捕まえられる…という事が一つ。 古代にしてみれば、南部よりはもう少し素直な相原の方が扱いやすい…という事が、もう一つ。
「相原君が、古代さんに腕力で勝てる…と思います?」
「無理だな」
    南部の問いに、守が迷う事無くすっぱりと答える。 全く的中(あた)っているので、何か…口惜しいが反論は止めておく相原だ。
「それでも『お前には関係無い』で、突っ撥ねるつもりですか?」
    たった今、相原も南部も今までの出来事と理由を聞かされた。 だから、古代がどちらに来ても間違い無くそれを知るだろう。
    非常手段も辞さないまでの学術的興味、知的好奇心は既に「狂気」と言って良いもの。 一般的な…古代の持っている倫理観からは、とても外れたところに在る思考。
    きっと理解出来ない、理解したくも無いだろう。
「3人とも、古代さんにとっては『身内』ですからね。 参謀が突っ撥ねれば、勝手に突っ走りますよ。 あの人」
「…押さえとく事が出来そうに無いんなら、いっそ手綱握っとけ…って事か?」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…ところで。 サーシャには、どうするんです?」
    古代への対応の決まったところで、今更思い出したかのように相原が。
「理由は…知らないんですよね?」
改めて言われて、その父親2人が思わず…ちょっと考え込んだ。

    事務職だと、その直前まで至極普通の学歴できた者も多い。 一応は軍に属する訳だから射撃訓練くらいは義務だが、それまでは銃を見た事も触った事も無い…という者も多い。 それが女性ならば、尚更だ。
    反してサーシャは銃の扱いは勿論、基礎的な護身術、爆発物の取り扱いも一通りは。
    もう諦めたようで、シムの成績(スコア)も結局ろくでも無いまま終わったが。 戦闘機の操縦・構造・整備も、島やら南部やらが真面目に座学叩き込んだだけあって、理論だけならほぼ完璧。
    最低限『自分の身を護れる』ように…とは、父親2人の思惑有っての事。 それ以外の事は、まあ…当人の資質と性格と興味の結果だったが。
「そろそろ、教えといた方が良いか。 もう…幼児(ガキ)でも無いんだし…」
    仕方無さそうに…内心かなり嫌そうにも見えたが、実父が呟いた。
    事情の分かっているといないでは、いざという時の対応が変わってくる。 心構えの出来ているか、いないか…の差だ。
    そうと知っていれば、サーシャだって1人であの「嫌な感じ」を抱えてはいなかっただろう。 途中から相談された相原と南部だって、もう少しきっちりした対応のしようがあったはずだ。
「その方が良いと思いますよ」
    この辺り、南部が「古代に話しておく」と言った理由でも有る。
「事情を知らない被警護者(ターゲット)は時々、警護者(ガード)の邪魔もしてくれますから」
    例えば今回、サーシャが定時前に帰宅(かえ)ろうとした事…だとか。
「…何か、すっごく実感こもってない? 南部?」
「色々有ったんですよ、俺も。 放っといて下さいな」

    そうと決まったなら、こういう事は実父に任せよう…と思った義父だったのだが。
「逃げるな、真田っ」
守に思いっきり肩掴まれて、引き止められた真田である。
「泣かれたら、どーして良いか分からんだろーがっ」
    幼児期、成長期に全く付き合っていない実父の、これが大きな弱点だった。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima