Intermission:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    サーシャは落ち着いたところを見計らって、真田が官舎まで送っていった。
    少しばかり珍しい人の来訪に、上がれ…とスターシャが勧めたが。 まだ仕事が残っているから…を言い訳に、それは辞してきた。

    守には運転しにくい車を南部に返して…という事は、南部に運転手させて…という事だが。 面倒を避けて事故処理車をかわして、取り敢えず司令本部まで戻ってきた。
    出しなに、帰れ…と言い渡したのだから当然だが。 守が途中で放り出していった机の上を、その当人が後から混乱しない程度にしっかりと片付けて、秘書は既に帰宅していた。
    おかげさまで、戻ってきても参謀職にはやるべき仕事は何も無かった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「あ、お帰りなさーい」
    先に気付いて、そう声を返してきたのは相原だった。 部屋の主はその声にやっと、遅れて気付いた。
「…って、何でお前が居るんだ?」
    守のその問いも、当然。
    つい…さっきまで、南部の携帯の向こう、自宅から端末を操作していたはずの相原が。 科学局、真田の研究室(ラボ)でまた、端末を突付いているのだから。
「そっちが片付いたらしい…と報告に来たんだよ、相原は」
    それに答えたのは、真田の方。 そう言えば…どちらとも携帯を持っていながら、科学局の方には全く連絡を入れていなかった2人である。
「…単独自損事故で、現場処理されたみたいだよ」
    しっかり自宅から持ち込んできたらしい端末を、ひとつ叩いて。呟くように、こちらは相原。
「こら。 軍関係施設から警察に紛れ込むなよ、お前は…」
    軍と警察…というのは、その権力と範囲が重なっている部分が有って、その為に表立ってでは無くとも反目、対立し合っている部分がある。
    何処から…なんて証拠を残してくるような間抜けでは無いだろう、とは思いながら。 万が一、それがバレたら面倒の種を無駄に作る事になる。 その辺を守が、わざわざ口にした訳だ。
    苦笑しながら、そんな馬鹿しませんよ…と守に答えておいて。
「黙ってる辺り、2人の威(おど)しが効いたんでしょうね」
「失礼な。 威したのはこいつだろうが」
「…銃口向けたのは、どちら様でしたっけ?」
    責任を、言葉で押し付け合っている「実行部隊」の2人だったが。 その辺りの事は既に大体相原から聞いている真田は、どっちもだろうが…と、内心そう思っていた。

「…で、島は?」
    サーシャがここに見えない理由は、とっくに訊いてみた守だ。
「僕の来た時からもう、居ませんでしたよ?」
「帰った」
今度の問いには、2人がほぼ同時に答える。
    島は、はっきり言えば巻き込まれただけだ。 帰ってしまう事自体は、南部にも何ら不思議では無い。
「…お嬢さんを送り届けるより、先に?」
    だが、後では落ち着いたかも知れないが、あの状態のサーシャを送る事もしないで帰った…のは、全く解せない。
    そうすれば結局、真田に後を全て押し付けて帰る事になる。 玄関先で南部に押し付けられて、執務室で守にもまた押し付けられて…それを放ったらかして、だ。 それは島の性格的に、ちょっと…考えにくい。
    少しばかり考えている体(てい)を見せてから、守が真田を指先に呼び付ける。
「…ヤバそうか?」
「分からん。…が、多分な」
問うのと答えるのと、どちらともに…囁くほどにこそこそと。
「南部」
「何ですよ?」
    こちらの友人同士も一方が手招いて、何だか…こそこそと打ち合わせ。 一往復のやり取りであっさり終わった、守と真田の2人をそこに放ったらかしたままで、しばらく。

「それは…訊いた方が早い、と思いますよ?」
    その最後に、南部が。 肩越しに、2人を指して。
「…何を、訊いたが早いって?」
    何だか知らないが、どうやらこっちにお鉢が廻ってきたらしい…と悟った守が問えば。
「島さんの、とっとと帰った理由…です」
その返答もまたあっさりと。
「…島だって、用の1つや2つ有るだろうよ」
「そりゃ、有るでしょうね」
    詰まらなさそうに守が吐き出せば、それを肯定するような言葉が戻ってきた。
「でも…俺も、ちょっと忘れ掛けてましたけど」
    馬鹿よりはよっぽどマシだろうが、変に頭の良い奴、勘の働く奴も同じくらい迷惑だ。 全く、誤魔化しが効かなくて。
「『異星人』だ…って、共通項が有るんですよね。 お嬢さんの方は『半分』だけ、ですが」
「…何が言いたい?」
「お嬢さんににはこれが『最初』でも、本当の最初が何処かに有ったでしょう? 残る2人の、どちらかに」
    現在(いま)、守は正直そう思っていた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    現在、身近に在(い)る「異星人」は3人だ。 そのうちの1人、サーシャだけはさっき南部の言った通り「半分」だが、しかし…間違い無く。
    異星人…地球人で無いという事は、この地球上では極めて稀少である…という事。 稀少であるという事は、否応無く他者の耳目を集めてしまう…という事。
    単なる興味という程度から、違うものに対しての嫌悪感。 果ては…もっと、悪意の混ざった感情まで。
    …自分たちだって、決して例外じゃない。 戦争の時代にどれだけの「異星人」を敵として、憎んで…恨みもして、そうして殺(あや)めた。

    まだ調べられていないが、医学者か生物学者か。 考えてみれば、それも至極当然の事。
    いや…むしろ、本当に何も無かった最初から想定出来てなければならなかった。 前線に捕虜を手に入れて、佐渡が…医師がその生体データを調べていたのを見ていたのなら、もっと早く。
    子供の頃に、動物園に違う大陸に生きるものを眺めて、水族館に光の届かない深さを眺めて、机の引き出しに何かを蒐集(あつ)めて。 そんな経験と思い出に、人間(じぶん)たちの好奇心というものの巨大さを自覚してなければならなかった。
「俺と参謀は、その理屈を直接聞かされましたけどね」
    携帯の向こうに居た相原だって直接には聞こえていない、周囲の音を無制限に拾うようには作られていないから…だ。
    誰かが、何かを喚(わめ)いていた。 ただ、それだけ。
    持っていただけあって、ほぼ正確に聞こえてきた南部の言葉と。 近くに居ただけ、時々…だがもう少しははっきり聞こえてきた守の言葉と。 その両方で、おおよその見当は付いたが。
「真田さんにもお嬢さんにも…島さんにも、何の報告もしないまま科学局(ここ)に戻ってきたんですよ?」
    だから、相原がここに来てから真田に伝えた。 自分の聞いた範囲に推測を交えたものを。
    それまでに真田に分かっていた事は、サーシャの連れ去られそうになったという事だけ。 その理由も思惑も、色々と思い付く事はどれだけ有っただろうが、本当のところは全く分からないまま。
「俺も相原君も、正直『2人のどちらかの事情に巻き込まれた』んだと思ってましたよ。 お嬢さんは、多分…今もでしょうけど」
    だって…そう考える方が、自然だ。
「その理由だと、島さんが『テレサさんの所』に戻る必然が無いんです」
    その将来は知らない。 だが、現在(いま)の島は一介の輸送艦艦長だ。 決して小さな肩書きじゃないが、色々な思惑に巻き込まれようというほどの大したものでも無い。
「参謀や真田さんの立場を自分に振り替えて…じゃ無いなら、お嬢さんの立場をテレサさんに振り替えて…しか無いでしょう?」

「…分かってんなら、訊くんじゃねえよ」
「分かってなかったから、訊いたんですが」
    言った通り、南部はそれと承知していて言葉にした訳じゃない。
    そうでは無いが、守のいよいよ面白く無さそうな表情にそんなセリフで、間違った推論では無かったんだな…と確信した南部だ。
「なので、とっとと説明して下さいな」
「お前…目上の者を敬うとか、遜(へりくだ)るって単語、知ってるか?」

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima