愛してる:01

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    逢えば、嬉しい。 貴方も、そんな表情と態度を見せてくれるから、きっと同じ気持ち。
    言葉や仕種の片隅に見える、何気無い優しさに、愛されているんだな…という実感を。 そんな貴方の気持ちを疑う訳でも、何でも無いけれども。

    たまに…ほんの少しくらい、はっきりした言葉が欲しい…と思うのは、私のわがまま?

        ◇     ◇     ◇     ◇

「言うだけで良いんなら、幾らでも言ったげますけどねえ。俺」
    …別に、南部君に言われたい訳じゃないのよ?私…。
「今更、雪さんに言ったりしませんよ、俺だって。 古代さん、敵に廻しても仕方ないでしょ」

    イスカンダルから戻って来て、ようやく2ヶ月。
    地上の残留放射能量はとっくに、人類の生存が適うレベルにまで落ちていたし。 地上都市建設だって、もう…かなり進んでいた。
    軍籍の有るうちでも私たちは、その放射能除去装置を運んできたヤマトの…という事があって、簡単に地上にも出られたけれども。 普通には、なかなか許可なんて下りなくて。 建設にも関わり無い「一般人」なんて、まず絶対無理…まだ、そんな頃。
    地下から、地上へ。 少しずつ移動していた司令本部の業務も、いよいよ最後の引っ越しで。
    司令部…ではなく、科学局所属の私も。 司令部の管轄下なのは間違いなくても、本部勤めでもなく、偶然「地上に居たから」南部君も。 しっかり駆り出されての、慌しさ。
「やっぱり力仕事は、男の人が居ると早いわねえ」
「そりゃ、どーも」
    誰かの言葉に簡単でも、必ず何か一言は返していく南部君も。 それだからと言って、手が止まったりする訳でも無く、動き続けていて。
    きっと…誰も、あちこちでも、あまり変わらないのだろう。 予定よりも、よほど早く移転作業を終わらせてしまえそうだった。
    だから、少しばかり余裕を持ってゆっくりと、昼の休憩を。

    見知らぬ、司令本部勤務の女性職員と居るよりは。 1年間もの時間を同じ艦に居た分だけ、南部君と居る方がよっぽど楽だったから。
    …で、そんな話を。
「女性って、大体そういう事言いますよねえ」
だって…ヤマトに乗ってた人なら、皆知ってるんだもの。 私と…古代君の事なんて、全部。 今更…何を、隠せって言うのよ?
「同じ男としては、無理言わないで欲しい…って思いますけどね。 男女で『頭』の構造、違うんで」
    何を話す時でも、何処か…何か茶化したような口調で、けらけらと笑いながら。
    ヤマトの第一艦橋での、本当に「真面目な様子」を最初に見たから。 ものすごく、ふざけているのだと始めのうちは思いもしたけれども。
    単に、仕事に関しては真面目さの質が違うだけ。 プライベートなら、これでも至って真面目…なんだと、もう知っているから。
「頭の構造?」
「ものの考え方って事です。 思考が違うんですよ、男と女性はね」
    中身は空っぽのデスクに、腰掛けて。 床から離れた脚をそのまま器用に組んで、その膝に頬杖を突いて。 何だか…窮屈そうな気もするんだけど、楽なのかしら?
「男は、ね。 直列的に物事を考えちゃうんですけど。 女性は、並列的にものを見ちゃいますよね」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    南部君、曰(いわ)く。

    男は「上下」関係を、先に見るんですよ。 仕事だと、上官と部下…とか。 家族だと、親と子供…とかですね。 友人だとか、同僚だとか「ほぼ同列」だと思ってるものは、比較的後回しなんです。
    対して、女性の方は「仲間意識」が強いんです。 仕事上の関係より、友人。 友人より、家族や恋人を取るんです。 身近なものほど、大事…なんでしょうね。きっと。

    …心当たり、有るでしょう?

    つまり、ですね?
    女性は、女性は自分と好きな人を「対等」に思ってるから。 自分が相手に「好き」だと言うなら、相手にも自分を「好き」だと言って欲しいんです。
    「愛してる」と言えば、相手にもそう。 「世界で一番」だと言えば、相手からもそう言って欲しいんですよ。
    …でしょ?
    でも、男の方は「同等な関係」は割合「どうでも良い」ので、それを強要されると困るんですよ。 ああ…勿論、好きな女性に「好きだ」と言われて嬉しいし、悪い気はしませんけどね。
    例えば、子供に「好き?」って訊かれりゃ、あっさり答えられるんですよ。 自分より「下位」に居る相手に言われたんだから、それって「上下関係の確認」でしょ?
    逆に「尊敬する人は?」とか訊かれても、それもあっさり答えられるんです。 同じように「上下」で、ものを見てる視点からの問いですもんね。

    雪さん、そう訊かれて即座に答えられます?

    女性に言われるまま、訊かれるまま「好きだ」とか「愛してる」って言えちゃう男って、女性を自分と「同等」には見てないって事ですよ?
    自分より「上位」に見てくれてるんなら良いですけどね、フェミニストなだけだから。 女性を「下位」に見てるような男に惚れちゃったら…嫌でしょ?
    まあ…人の好みってそれぞれですから? そんな男が、本気で好きなら止めやしませんけどね。

    もし、そんな事を言って。
    返答に詰まってるような男なら、少なくとも女性を対等に、真剣に惚れてくれてるって事です。

        ◇     ◇     ◇     ◇

『言うだけで良いんなら、幾らでも言ったげますけどねえ。俺』

「そんな事が『安心』なら、幾らでも言いますよ」
    さっきまでの話なんて、すっかり忘れたように。 やっぱり、けらけら…と笑いながら。
「まあ…モノが『気持ち』なんで、嘘までは吐(つ)けませんけどね。 惚れてなかったら…それも、はっきり言っちゃいそうですが。俺」
    好きでないなら、そう。 愛して…いないなら、それもその通りに。
    そうね…はっきり言いそうだわ、この人なら。
「…古代さんには、それ…訊いちゃっいました? 雪さん?」
    いきなり真顔で。 でも、口調は相変わらず…ちょっとふざけた感じのままで訊いてくるから。
「…内緒、ですっ」
ぷい…っと、余所を向いて。 極力、何でも無い事のように。
    実を言えば、訊こう…とまでは思っても見たけれども。 あの1年間の艦内を思い返せば、なかなか答えてくれないような気もしたから。
「…言いませんよ、きっと。 古代さんは」
    南部君は、そうあっさりと言ってくれて。
「何なら、賭けても良いですよ?」

「だって、ねえ? 古代さんって『馬鹿』だから、期待を裏切ってくれないんですよねえ」
    …そんな事を、私の目の前でにこにことして断定しないで欲しいわ。 そう言われちゃう古代君を選んだ私は、もっと…馬鹿みたいじゃない。
    そう思っていたから、どうやら。 はっきりと、そんな事が顔に出てしまっていたらしくて。
「『馬鹿正直』って事です。 そんな悪い意味で言ってませんよ、俺」
心底おかしそうに、くすくすとして笑って。
「知らないでしょ?雪さん?」
    …何を、なのよ?
「まあ…知らないはずですよね、絶対に。 古代さんが言う訳無いんだから、ねえ?」
だから、何を…って訊いてるじゃない。
    それには全然答えてはくれないで、時間が来たから…と、これまでの会話を全く忘れたように作業の続きを。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    だって…知らないでしょ?雪さん?
    古代さんって、雪さんを「上位」に見てたんですよ。最初。
    やっと…追い着いたと思ってるんですよ? あの航海が終わって、やっと。 そんな事…確認されたら、可哀想じゃないですか。古代さんが。
    ようやく「釣り合うようになった」と思ってるんだから、放っといてやって下さいよ。 当分は、ね?

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Last Update:20040722
Tatsuki Mima