離れて暮らす時間の長さが、後ろめたさにすり替わっていく。
たった…1年。
だが、たったそれだけの間にようやく歩くようになるでは無く、わずかに見下ろすまでになってしまっていて。
それが、それぞれに流れる時間の密度の差。
◇
◇
◇
◇
「ああ…もう、鬱陶しいっ」
ねだるにまとわり付いてくるサーシャを腕から引き剥がして、そのまま手のひらで押し払う。
「え〜?ケチ〜っ」
追い払われた方は、素直に不満を口に出して膨(むく)れてみせる。
…可愛いと思っていない訳じゃない。
それ以上に、嫌っている訳でもない。
「…煩(うるさ)いな〜、お前は〜」
ただ…どうして良いのか分からないだけ。
正直、どうにも…近い距離が照れくさく、それをそうと素直に言ってしまえないだけ。
たった…1年。
我が子の成長を見て暮らすはずだった時間は、自分…たちが親としての意識を育てていくはずだった時間でもあって。
その「失かった時間」が、俺を「父親」に塗り潰してしまえなかったから。
だから、多分。
「俺は、今日は休みなんだよ。
お前の、きゃんきゃん甲高い声なんざ聞きたかねえ」
「あ、ひっどーいっ!」
だから…多分、俺たちはいつまでも父娘らしくはなり切れないまま。
だから、きっと俺は何処までも…もしかしたら最後まで、父親にはなり切れないままで。
子供らしくない体格に、俺は。
サーシャを娘としてより先に、女性としても見てしまうから。
まるで、初恋。
それも、片思いのよう。
女性を女性と意識したから、その心の内が読めなくてそわそわとして落ち着かず。
どう対して良いのかも分からなくて、困った挙句に…逆に突き放して。
「その図体で拗ねても、可愛らしくないぞ?」
どうしようもないほど好かれたいと願いながら、嫌われてしまっても仕方無いような事しか言えないし、出来ない。
自分の間抜けさに自嘲しながら、それでも…まだ同じ事を繰り返す。
懐かしいほど昔の事で、もう…忘れてしまった事。
あの頃…俺は、どうしていた?
それも、もう思い出せないほどに。
「もう良いっ。
お父さま、嫌いっ!」
恐らくは、売り言葉に買い言葉。
本当の腹立たしさ以上の、語調の強さ。
思いっきり顔をしかめて、舌を突き出して、そんな宣言。
そんな娘に俺は、何でも無さそうな顔をしながら、適当な言葉を返して。
◇
◇
◇
◇
本当は、自分を呪ってしまえそうなほど後悔もしているくせに。
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Last Update:20051007
Tatsuki Mima