Anniversary/Via point

NovelTop | 第三艦橋Top

    訓練学校に進学(すす)んで初めて、親元を離れた。
    その頃には、もう。 エネルギー不足も、結構…目に見えて深刻。 たった3つばかり向こうの地下都市(まち)に移動するだけに、いつの時代なんだよ…と思うような時間を掛けて。
    だから…ものすごく遠い所に来ちゃったなあ、あんまり簡単には帰れないかも…そんな感想。 その時は…まさか、この街にずっと暮らす事になるなんて思わなかった。

    地上(うえ)と地下(した)の、高低差は有ったけれども。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    随分と前から、相原の通勤時間が永くなった。
    徒歩から車に変わったのに、ほぼ倍増。 それだけ遠廻りしている…という事でもあるが、寄り道の先で結構…時間を喰うからだ。 特に、帰り道は。
「あら…お帰りなさい」
    玄関先に出迎えてくれる、にこやかな表情(かお)でのそんな言葉に。 まだ、帰り着いてないけど…と思うのは、性格悪いかなあ…とも、少しだけ。
    だって…ここは、僕の官舎(うち)では無いから。

    ここも、夫婦共働きである。
    永く続いた戦争の時代に、地球人全体としてもかなり…だが、それ以上にどうしても戦闘には女性より向いていた男性の比率が、未だに低い。
    能力が無いなら男女問わずお断りしたいところが、そうで無い限り女性を家庭にだけ置いておくような勿体無い事は出来ない。
    だから…別段、珍しい事じゃない。 それが、子供を持った母親で有っても。
「どうせ…晶子は、今日も遅いのでしょう?」
    いや…それは確かに、定時で終わる僕よりはいつでも遅いけど。 毎度の言い訳も、する暇有らばこそ。
「すぐに支度しますから、ね?」
相手はその為にわざわざ多い人数分の、かなり早い夕食を。 僕の戻るに合わせてしっかり準備してるようで、毎回は…ちょっと断り切れずに。 仕方無く。
    …そんなに、ちょっとでも永く居たいほど、孫って可愛いかな〜。
    いや…可愛くない訳じゃないけど、ちょっと喋るようになって、歩く…を通り越して走るようにもなったら。 結構煩いし、目は離せないし…で、僕なんかかなり怖いと思うんだけど。
    慣れかなあ。 僕も、そのうちには慣れるかな。

    …何で僕は、ここで晩御飯食べてるかな…とも思いつつ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    好き勝手に動いて廻りたい、抱き上げられたくなんて無い壱弥(かずや)を、本当に…荷物のように抱えてきて。 リビング(そこ)に下ろして、やっと一息。
    …吐いている場合じゃなく。
    自分や壱弥は夕食が終わっていても、これから帰ってくる晶子さんはそうじゃない訳で。
「何か…どんどん、簡単なものばっかりになってるし〜」
    元から、ものすごく手の込んだ料理(もの)なんて作れないけど、手際もそんなに良い訳じゃないから時間ばかり掛かって。 その時間が、以前(まえ)より失くなったんだから、それも当然。
    最初こそ、向こうもあまり強く言ってこなかったし、だから僕ももっと適当に言い逃れてきたけど。 そのうち今日みたいに食事に誘われて、その後も引き止められたりして。
    一度なんかは、晶子さんの方が結果的に早く帰ってたりもして。

「ただいま帰りました」
「あ、お帰り〜」
    壱弥をやっと寝させて、落ち着いたところに晶子さんの帰宅。 晶子さんの着替えてる間に、僕はその遅い食事を用意して。
    1人分しか用意されてないテーブルの上に、それを問うてくるから正直なところを答えて。
「もう…っ。 断って構わないのに…」
前半は母親に、後半は僕に向かって。 呆れたように、苦笑しながら。
    僕は…と言えば、苦笑を通り越して軽い溜息。 嫌なら断れば良い…とは正論だと思うけど、なかなかそうも出来ない自分に。
「…預かってもらってる…と思うと、言いにくくないです?」
    両方が仕事を持っているんだから、確かに何処かの誰かに預けるしかない。 でも、最初はやっぱり当たり前にそういう施設を考えていた。 何かのついでにそんな話が出て、実際の親からの提案だったから、晶子さんも何気無く了承して。
    それが、今までずっと。
    僕と晶子さんのどっちか、それとも両方が休みの日には、基本的には預けには行かないから。 だから、出勤が早かったりもする晶子さんは、その理由では殆ど行く事も無くて。
「えーと…それは、そう…ですよね」
    今、初めて気付いたのかな…と、何となく。

    …それは、そうかも。
    だって、晶子さんには最初っから「家族」なんだから、遠慮は無いよね。 今は、僕にとっても「家族」なんだけど、それでもやっぱり…ちょっとばかりは「遠い」から。

「あの…私から、言いましょうか?」
    食事が終わるまで、待って。 だから…何の事だか、僕はすっかり忘れていた。
「え?あ、えーと…」
…と言っても、一瞬間後には思い出したけど。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    どうせ…1年2年のうちには、通園させるつもりなんだから。 良く考えたら、孫を独占出来るのってそれまでなのかな…と。 つい、本気で。

    …だから今でも、やっぱり僕は。

    相変わらず朝は、勝手に面白がっている壱弥を抱えて車に放り込んで、寄った所からは遅刻を理由に慌しく逃げ出したりして。
「えーと…今日は晶子さん、早く帰って来るんですけど…」
「あら。 それなら晶子も呼びましょうよ、たまには。ね?」
    夕方には…何故か、相変わらず逃げそびれて。

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Last Update:20051007
Tatsuki Mima