幽霊の事情:03 / Wおとーさまの場合

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「ああ…何か、そんな話も有ったよな」
「…って、有ったのか?」
    相変わらず、こういう話題の伝え甲斐の無い…派手なリアクションの無い「父親2人」である。
「見たとか見ないとか、ここ数日な」
「なるほど」
    守の方は、どんな詰まらない事でも「面白そうだ」と思えば自分から首も突っ込むが、興味が湧かなければ右から左に全くの素通り。 真田の方は、興味を持てばとことん突き詰めようとするのだが、その興味を持つに至るまでにものすごく偏りがある。
    つまり、どちらも大して興味の無い事…の場合、如何にも「どうでも良い」会話で終わってしまう。
「しかし…居るって話なら、随分前から有っただろう?」
「それって15、6年前だろうが? 幾ら何でも、そろそろ世代交代してるんじゃないのか?」

    幽霊にも、世代交代って有るもんなの? …と、サーシャが思ったのは当然の事である。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「いや…俺は『見た事の無いもの』は、根本的に信じないんでな」
「…え?嘘ぉ」
    娘として良く分かっているつもりだった実父の、結構…意外なセリフだ。 もっと許容範囲が広い…と言うか、もっとアバウトだと思っていたから。
「何が、嘘なんだよ?」
    サーシャの心底から意外そうな口利きに、ちょっとばかり不機嫌そうにも見える表情(かお)で守が返した。
「あ…ごめん。 今、ものすごく納得しちゃった」
    だが、それも裏返せば。 それまでの常識や知識がどうあろうとも、目に見える実例が在りさえすれば納得してしまうという事。
「…何が?」
    自分は、地球ではない惑星に生まれている、地球人では在り得ない速さで育っている。 そのどちらも、母親が地球人では無い所為だ。
    現在(いま)は無い惑星(ほし)の事だし、記憶の中にも無い。 だから、そこでの事がどうだったのかは良く知らないが、少なくとも…自分に関する事だけでも「地球人の常識」からは大いに外れていたはず、いや…間違い無く外れている。
    私…その「目に見える実例」なんだわ、と納得したのだ。

「でも、幽霊って見える人は見ちゃうじゃない」
    自分が見た事無いのだから、今ひとつ説得力には欠けるような気もしたが。 一応…見えると言ってしまう人も居るようなので、そう問うてみた。
「誰がどう…じゃなくて、俺が見た事無いからな」
    見た事無いもの、イコール存在しない事…では無いだろう。
    それならばサーシャの場合、生まれた惑星(ほし)を見た記憶が無い。 それだけの事で、その惑星は「最初っから存在しなかった」事になってしまう。
「いや…居ないだろ、幽霊なんざ」
    その辺りをまた問うてみれば、あっさりとそんな返答。

    …そうだ、存在(い)るはずなんて無い。
    不意に死に見舞われて、一体誰が全く…何の未練も無いまま消え去ってしまう? 俺だって、今ここで…となったら、どれだけの未練が有り過ぎる。 家族に、友人に、仕事に。
    だって…そうだろう?
    既に成人もして、自宅(いえ)から離れてもいた俺は、ともかく。 まだ子供だった進を少しでも可愛いと思っていたなら…親父でもお袋でも、その目の前に1度や2度くらい姿を見せても良かったはずなのだから。
    あの惑星(ほし)に1人生き残ったと気付いた時にも、誰も恨み事の一つ言いに来るじゃ無かった。 そこから地球(ここ)に戻ってきてさえ、誰も。
    司令本部にだって、目の前に死んでしまうを見もしたのに。

    だから…そんなもの、存在(い)ない。 それで、良い。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    分からないものだな…と、つくづく。
    サーシャとて、守がこういう超常的な事、心霊的な事を信じ切っているなどとは思っていなかったが。 もう少し、こう…無責任に面白がってみせて、ここまで完全に否定するとは思っていなかった。
「…お義父さまは? やっぱ、全否定?」
「いや…そんな話も在る以上、完全に否定出来るものでも無いんじゃないのか?」
「はい?」
    守の答えたも意外なら、真田の返答だって相当に意外。 だって…科学と工学なんて、現実主義(リアリズム)の最たるもののはずだから。
    誰かの夢だの空想が、いつか学問上に仮説になって。 それでも、最終的に行き着くところは揺るぎない「現実」、もしくは「真実」。 例外と特異は在っても、曖昧さの許されない精密の上に。
「え…もしかして、お義父さまってこういう事信じちゃうタイプなのっ?」
「別に、信じてる訳じゃないが…」
    娘の、引き気味に思いっきりな問いに。 何でそんな反応なんだ、それほど驚かなきゃならんような事か…と、微妙に困惑してしまいながらの真田の回答。

「…お前が俺たちをどういう解釈してたのか、良〜く分かったが」
    血の繋がった娘でも、所詮は他人。 こんな事で、本当に何を考えているのか知れるような事だって有るんだな…と。
「真田(こいつ)が、詳細で精密で理路整然としてるのは『思考の一部』だけだぞ?」
    斜め後ろに友人を置いて、その方向を指しながら。
    仕事以外で、引っ張り出したものは片付けないし。 身嗜みを越えた範囲では、身なりを構わないし。 栄養学は理解しているかも知れないが、その実践…バランス良く食事を摂るという事はしないし。
    付き合いの永さに思い知っている事を、あれやこれやと片っ端から立て並べていく守に。 その途中で真田は、それまでを一まとめにして…言葉ではなく腕力に「いい加減にしろ」…と。

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Last Update:20060830
Tatsuki Mima