今回もいつもに違わず、もれなく「島さんち」の…今回は「留守宅」を巻き込むサーシャである。
…要するに。
話の途中で島や…実父の邪魔が入らないのを良い事に、有る事無い事、針小棒大にテレサに吹き込んでみた…という事だが。
「…そうなんですか?」
怖がる…でも面白がる…でも、もう少しはっきりとしたリアクションの欲しかったのに。
話を聞かされた方のテレサはそんな風に、何だかとってもあっさりとした様子で返してきた。
「え〜?
面白くな〜い〜」
島の居ない退屈さに、訪ねてくるサーシャと話す事は嫌いじゃない。
むしろ、テレサとしてみれば歓迎だ。
だから、いつものようにその相手をしていた。
「あの…面白い話だったんですか?」
きょとん…とした様子で、首を傾げてもみながらそう返してくるテレサに。
サーシャも、これは…流石にちょっと変かな、と気付いて。
「え〜と…テレサさん?
もしかして…『幽霊』って言葉の意味、分かってない?」
…と、そう問えば。
「はい」
…と、これまたあっさり。
やっと意味の分かる言葉が来た…とばかり、初めて聞いた単語ですから…とむしろ微笑っても見せながら。
自分がしっかりと分かるだけに、その意味の分からない人が居るとは思わなかった。
何だか…それを、詳細に説明する気力はどうにも起きなかった。
「…島さんが還ってきたら、意味訊いて」
…という事で。
今居ない人に、その作業を丸投げしたサーシャだった。
◇
◇
◇
◇
テレサは、ある部分ではとんでもなく素直で単純でもある。
なので、サーシャに「島に訊け」と言われてそのまま、その通り。
「…え?」
訊かれた島が、途惑ったのは当然だ。
そう言えば、こういう事が2人の間で話題となった事は無い。
だから、テレサが言葉の意味を知らなかったのも、仕方無いのだが。
無邪気そうに問うてくるから、已む無く言葉の説明に掛かった島だ。
言葉としては説明の特に難しい訳では無いから、その点に付いては島も困らなかったのだが。
…しかし、島がこれまでこの事を話題にしなかったのに、全く意味の無かった訳じゃない。
島自身にこういった事の興味が無い…のも、その一つには違いなかったが。
幽霊が存在する…と認めてしまうなら、その一つ以前(まえ)の段階。
人間(ひと)が、何らかの想いを強く残したまま…本意無く死んでしまったという事も、認めざるを得ないから。
それは…好むも好まざるも、その生命を奪う側に廻った事のある身には…痛い事でもあるから。
ほら、やっぱり。
「…え、あの…」
その面(おもて)に薄く困惑を見せて、いっそ泣き出してもしまいそう。
テレサに…と言うより、テレザートに同じ意味の言葉が無かったとは思わない。
ここまでを一緒に居て、その思考的、精神的な部分に強い違和感を感じた事は無いから。
それならば、この簡単な説明からでも十二分に理解の出来たはずだ。
恐らくは、だから…こそのテレサのこの表情。
何故なら彼女も…いや、きっとその人数だけなら島以上に、どれだけを…殺してしまっているから。
生命を失った側が、彼女を恨めしく思う気持ちを残していたかどうかは知らない。
だが、それと彼女の方でどう感じるか…は、また別の話。
いや…その表情で、もう知れてしまうけれども。
「…君を、地球(ここ)まで追ってきた訳じゃないから」
◇
◇
◇
◇
抱き付いてくる…では無く、しがみ付いてくるその指先の強さに。
だから、言葉に宥めて…腕の中にも抱いてしまいながら。
もう…余計な事を教えないでくれないかな、とつくづく思う島である。
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Last Update:20060830
Tatsuki Mima