「結婚」という事の実際をろくに分かっていないだろう…とは、確実だが。
「大きくなったら、パパのお嫁さんになる」
…などと娘に言われてしまって、はっきり嬉しがってしまう古代である。
まあ…父親は総じて「娘に甘い」ものだから、娘の方も「父親が好き」で普通の事だが。
「あら、駄目よ」
母親の方としてみれば、その程度次第では「娘を産んだ事」を後悔してしまいそうなほどに…妬けもして。
「だって、もうママがお嫁さんになってるんだから。
パパの」
そんなセリフと同時に、まるで弥生に対抗するかのように雪に「わざとらしく、盛大に」抱き付かれたりして。
これはもう「両手に花」、思いっきり…顔が笑う古代だ。
「え〜っ、ママずる〜いっ!」
じたばたと、そのまだ小さい身体全部で不満を顕(あら)わにする娘の様子に。
「勝ったわ」
…と、内心勝ち誇ってみる雪だった。
◇
◇
◇
◇
…って、ある意味「惚気」だな。
その相手が雪なのか、弥生なのか…は横に置いといて。
訪ねてきた友人の話に笑って、適当に相槌も打ってその相手をしながらも。
かなり冷静に、そういう解釈を付けてみる島である。
「…で。
お前ん所は?」
妙に嬉々として訊いてくる辺り、島の判断もあまり間違っていなかったようだ。
その分かりやすさに苦笑しながら、島は。
「当人が居るから、訊いてみれば良いだろう?」
と、古代の連れてきた弥生と今日は大人しく遊んでいるはるかを、自分の肩越しに指差して。
こういう事を、遠慮するような古代じゃない。
遊ぶ事に集中しているはるかの肩を、ちょいちょい…と突付いて振り向かせて。
大きくなったら、誰のお嫁さんになりたいか…とストレートに。
「弥生はねえ。
パパのお嫁さんになるの」
何故だか、問われたはるかより先に弥生の方が自己主張。
たった今、聞いたばかりの話のままの回答に…つい、笑ってしまう島だ。
「笑ってんじゃねえっ、島っ!」
「…悪い、悪い」
ここで本題にあんまり関係の無い、父親同士の子供の喧嘩じみたやり取りが入り込んだのは、勿論…言うまでも無い事だ。
「次郎さん」
改めて、古代がはるかに問い直してみれば、そんな返答で。
我が叔父を「さん付け」で呼ぶ辺りは、明らかに母親の影響に違いない。
「…は?」
いや…はるかにとってみれば、それほど遠くに住んでいる訳でも無い次郎は、相当に身近な存在には違いないだろうが、同居している訳でも無い。
まさか…とも思ったし、それ以前に。
同じように父親の…島の名前を出されて、慌てるなり照れるなり…してみせる友人を見てみたかった古代には、大いに期待外れでもあって。
島が、またくすくす…と笑う。
「弥生が『振り撒いてくれるような話題』なら、はるかだって疾(と)うに振り撒いてくれてるさ」
そう。
はるかも…誰から、何処から聞いてきたのか全く同様の事を言った。
但し、こちらのご家庭の場合。
奥さまが慌てるよりも、困るよりも、妬くよりも先に。
「駄目。
『お嫁さん』なら、テレサがもう居るから」
ご主人様の方が、真顔で「はるかとは、結婚出来ません」宣言してしまったのだったが。
「ここ最近は、次郎と壱弥とアナライザーの間を行ったり来たりしてるんだよ」
「…って、何でアナライザーなんだよ…」
友人の娘の美的感覚を、この際思いっきり疑った古代だ。
◇
◇
◇
◇
何で、そんな話になったんだか。
「え〜?
そうねえ…」
問われて、頭を傾(かし)げてみせながら。
「やっぱり、公務員?
生活だけは、安定してそうだし」
「…それ、小学生の意見じゃないと思うわよ?」
あまり考え込む様子も無く、きっぱりと言い切った絵梨に「結婚相手の条件」問うた自分が間違ってたんだろうか…と、額を押さえてみるサーシャである。
それをもし口にしていたなら、間違ってたに決まってるでしょ…とか。
これまたきっぱり言われてしまいそうで、黙ってはいたが。
「だって『父親不在』の時期が在ったから、切実にそう思うのよ」
「…言っとくけどね。
それより『母親不在』の方が、よっぽどきついわよ」
いつの間にか、過去の不幸自慢になっている2人である。
だが、まあ…軍人も一応は「公務員」だとは言える。
自分も父親も叔父も…とにかく周り中に軍人とその関係者しか居ないサーシャには、公務員…と言えばまずそれしか思い付かない。
だから、その辺の事をちょっと言ってみた。
「まあ…軍人も、工作技官や通信技官なら良いけど」
絵梨の返答に、真田と相原を即座に思い浮かべたのも、サーシャなら当然だろう。
第一、絵梨の方でもその2人が頭に有ったのだし。
「パパみたいに、戦闘士官で航海勤務…なんて早死にしそうで、嫌。
理想にはなり得ないわね」
…と、これまた淀み無くきっぱり。
「…って、それ。
南部さんに言ったら、泣くわよ?」
◇
◇
◇
◇
どうやら、こういう話題は通園だとか通学だとか。
他人様との集団生活をしている中で、自然発生的に出てくるらしい。
…という事で、ここに。
サーシャを「お嫁さんにする」と言い切った男の子が1人、居たりして。
「見た目、ものすごい年齢差の夫婦になりますねえ」
いや…それも確かに、突っ込むべき点の一つだが。
「…南部、突っ込む所が違うと思う」
「ああ…4歳児に呼び捨てにされる、サーシャの方が問題アリですよね」
「それも違うってばっ」
端から見ていると、漫才をやっているようにしか見えないのは、何故だろう?
「分かってますよ。
この上、参謀職と『姻戚関係』になろうとは。
壱弥君、将来安泰ですねえ」
「分かってたら、余計に言わないでよっ!」
…やっぱり、漫才である。
現在の奥さま、晶子に対して不必要な気は遣っていない…はず、なのだが。
未だにその祖父が、司令長官だという事には一向に慣れていない相原である。
職場で仕事上だろうが、自宅で個人的…だろうが、同じ。
単に「上司」だと思い込むには、あちらがあまりにも上位過ぎて。
この上、参謀職と…などとは冗談でも考えたくない。
…と言うか、サーシャには守だけじゃなくて、真田まで付いてくるのだ。
どちらも、良く知ってるだけに…きっぱりご遠慮願いたい。
「ま。
放っとけば、そのうち悟りますよ。」
よっぽど度胸と根性と愛情が無いと、サーシャを相手に選べない…という事に。
守と真田だけじゃない、その後ろにスターシャや古代、雪まで付いてくる事に気が付けば。
けらけら…と笑う南部と、それに相対して不機嫌そうな父親と。
眺めていて、何か…言っちゃいけない事を言ったのかな、と思い始めた壱弥だ。
「えーと…やっぱり、止める」
壱弥の言葉に、相原が本気で胸を撫で下ろした事は、置いといて。
「じゃあ、どなたを奥さまに戴くつもりです?」
あくまでも他人事なので、思いっきり遊ぶ方向に突っ走ってる南部だ。
…但し、この瞬間まで。
「えーと、ねえ。
絵梨ちゃんにする」
「壱弥…それも、真っ剣に止めて欲しいんだけど〜」
絵梨…という事はやっぱり、その後ろにしっかり「南部」が付いて来る訳だ。
それもいい加減ご遠慮したいが、それ以前に。
最早腐れ縁、この…性格も分かり切っているような友人と今更、親戚になんてなりたくも無い相原だ。
同じ「遊んだ事のある女の子」なら、もっと…他にも居るだろうに。
「そう言や、絵梨さんもお嫁に行っちゃうんですよねえ。
そのうち」
「泣くな〜っ!」
ほら…絶っ対、大いに芝居掛かってわざとらしく「泣いてる様子」してみせると思ってたんだよ。
も〜っ。
そんな言動が思いっきり想像付いて、そんな感想が抱ける程度までには。
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Last Update:20070729
Tatsuki Mima