座学のクラスは同じだから当然に顔も名前もご存知だったが、今まで必要以上は殆ど話した事は無かった。
しかし授業も一通り終わって、夕食時。
ひどく混雑している食堂に空いている席を探したら、たまたま向かい合わせになって。
「1人ですか?
古代さん、どうしたんです?」
見知っているのに全く黙り込んでいるのもどうか…と思って、取り敢えず。
「…いつでも、一緒に居る訳じゃない」
いつでも大体、一緒に居るのを見掛けるような気がするけど…と思った南部だが。
どちらかと言えば古代の方が張り付いている感も有るし、当の島が否定しているのでそれは口にはしないでおいた。
◇
◇
◇
◇
周囲はがやがやと騒がしいが、相対した2人の隙間は逆に呆れるほどの無言。
元から殆ど話した事が無いのだから、それが特に居心地の悪い訳でもない。
黙々として2人とも、ただ皿を空にしていく作業をこなしていく。
席に着いたのがほぼ同時なら、それぞれの食事の終わるのもそれほどの差は無かった。
「え…?
砲術だけど」
何をどう思い出したか、島が進路の事をふ…と話題にした。
今の時期、この手の話題の出てくる事は不思議ではない…と言うより、むしろ当たり前。
現に、寮の部屋でもそんな話をしたばかり。
だから南部も、そう深く考えたりしないであっさりと答えた。
「決めてるんだな、皆」
空いた食器の返却に紛れて、島がぼそ…っと。
「まだ、決めてないんですか?」
しかし、この騒々しさにもすぐ隣の呟きをうっかり聞き逃すような南部では無い。
しっかりと聞き付けて、それを問い返した。
「…と言うより、決められないんだけどな」
そう言って、島は仕方無さそうに…薄く苦笑(わら)う。
どういう意味なんだか、どう答えたもんだか。
それを…ちょっと考えていて黙り込んでしまった南部と、2人してまたしばらくの無言。
帰る方向…寮に向かうには1つしか路(みち)が無いから、自然並ぶように。
「教官には、何て?」
まだ決定となる事は告知されていなくとも、この時期だ。
誰も1度や2度は何かのついでに教官から、その適性を告げられているはず。
「飛行科か、航法」
「じゃあ…航法じゃないですかねえ」
島の言葉を受けて、南部がぽつり…と言った。
「どうして、だ?」
「航法の方が死なないから。
確率的に」
問い返したのと、それに答えるのと。
自然、顔を見合わせて。
「…生存確率で、砲術を選んだのか?」
「『生きて還る』と約束しちゃったもんで、無駄に確率下げられないんですよねえ。
俺」
あんまり言いたくもない事を、不承不承口にしたような素っ気無さ。
髪を直す素振りで、腕に問うてきた島の視線を遮るもする。
「参考にする」
「どー致しまして」
「…そう言えば、古代も砲術なんだよな」
廊下を随分と歩いて、寮の入口も目の前まで来てから。
さっきから何度目の無言を今更取り返すか…のように、島が呟いた。
「え〜?」
「嫌そうだな」
南部の心底有難く無さそうな、そしてものすごく素直な表情にそれと教えた島がはっきり苦笑する。
「だって…あの人、いつでも不機嫌じゃないですか。
組むと、八つ当たりすごいし」
最初こそ、言い訳するように。
だが、後半はきっぱりと。
別に…古代は不機嫌なんじゃなくて、他人と話すに無駄に身構えているだけなんだが。
八つ当たり…に見えるのも、他人にものを頼む時のそれらしい言い方が良く分かってないだけだし。
そうは思った島だったが、友人の為に何か弁明してやるより先に、南部とは廊下の左右に分かれてしまって。
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Last Update:20080719
Tatsuki Mima