自分の適性を見極めて、進むべきをここ…と希望するより先に。
「お前は航法に進(い)け。
と言うより、航法以外選ぼうと思うな」
…と、教官に真正面から肩に手を置かれて、妙に断定的に決め付けられてしまった太田である。
その勢いに思わず一歩下がりながら、何なんだよ…とは当然思った大田だが。
それも、自分の能力の良く分かっていない所為だろう。
◇
◇
◇
◇
「そうだな〜。
確かに、航法に向いてると思うぞ。お前って」
断定してくれた教官の元を辞して、それを雑談として口にしてみれば、そんな返答。
「だよな」
「うん」
しかも、複数人から。
「そうか〜?」
それに返す太田のセリフは、思いっきりな疑問形。
自身を「至極、平均的な人間」と自己判断している。
現に、何もかも平均点といったところだ。
各種シミュレーションのスコアも、筆記の成績も、まだそれほど多くもない実技も、何もかも。
但し、その事に自己嫌悪は無い。
別に…何かに突出している必要なんて無いのだ。
何しろ現在(いま)は戦時、それも既に長く続いた。
必要なのは、ただ戦う事の出来る人間。
英雄は…要らない。
何かに突出して秀でていれば、特に役に立つ存在でいられるだろう…とは思う。
自分がそうであれば良い、とも願わなくは無い。
しかし、願望は願望。
現実は、現実。
「だって…お前、飛行(フライト)シムのスコア良いじゃん」
「…はあ?」
航法に向いているかどうか…が話題で、どうして航行(クルーズ)シムでなくフライトシムの事が出てくるんだか分からなくて、とんでもなく素直に訊き返した。
「別に…良くないだろ」
何度も言うが、シミュレーションのスコアはどれをとっても平均点。
他人から良いスコアだ…と言われてしまうような結果を、残したような憶えは無い。
「いや…フライトシム全部まとめりゃ、普通だけどさ。
クリア条件が『到達』って場合に限って、だよ」
「…そうか?」
基本的な、一番多いプログラムは「どれだけの敵機を撃墜(お)とすか」だが、それ以外のプログラムの無い訳じゃない。
しかし、その条件のシミュレーションはここまでに…確か、1度しかやっていないはず。
「確かに…辿り着きはしたけど、そんなに…」
そして、そのスコアは決して良くも無かった。
「だから、違うって」
自分を良く分かっていないらしい同級に、何と説明したものか困ったようで、少し考え込んだ。
「交戦中で、無傷だけど燃料切れるんで戻って来い…って奴だっただろ?
やったの」
「ああ」
「交戦中だから、敵に追い廻されるよな?」
「…当たり前だろ」
「データ見たけどよ。
お前、その都度その都度『最短距離』取ってるんだよ」
説明する側は上手く説明出来てちょっと満足気だったが、説明される側は尚更「何なんだ」。
残燃料がわずか…という設定だ、途中で墜落したくなければとっとと戻るしかない。
距離の短ければ消費燃料も少ないのは当然、だから最短での帰投を狙って当然のはずだ。
「いや、だから…三次元的にぐるぐる逃げ廻った直後に、タイムラグ無しで機首向けられるのがすごいって言ってんだよ」
重ねて言われて、また疑問。
「え?
…って、自分がどう動いたか分かってんだから、方向なんか分かって当たり前じゃないのか?」
指先をくるくる…とその辺り彷徨(さまよ)わせてから、もう一方の手のひらにとん…と。
プログラムの上で自分がどう動くのか、を見せながら問い返した。
「…太田」
最前、教官からやられたと同じように、両肩の上に相対した人間の手のひら。
「普通の人間はあんまり、それ出来ないぞ?」
「は?」
「だからっ。
お前の空間認識能力って、飛び抜けて高いんだよっ」
◇
◇
◇
◇
自身の事なので、ごくごく普通の事だと思っていた事も。
他人の中に入ってみれば、実はものすごく特別な事だったりする事も、たまには。
「もし空間認識能力が普通だってんなら、今度は座標の計算が異常に速いって事だ」
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Last Update:20080719
Tatsuki Mima