12 吊られた男(THE HANGED MAN)

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XII 吊られた男(THE HANGED MAN)
正位置の意味:犠牲・処罰・束縛・苦痛

        ◇     ◇     ◇     ◇

    月が射す。
    隣に眠る人を起こしてしまわないように、静か過ぎるくらいにそっと身を起こす。
    カーテンの隙間から、蒼く、冷たく、冴え冴えしく。 そして、部屋の中に色彩が薄れてしまう。

    隣に眠る人の、閉ざされた瞳(め)を見る。
    月の光は部屋の中だけ…ではなく、その人の頬からも肌の色を失わせていて。 髪と睫毛の翳(かげ)は…強く、その顔に落ちていて。
    こんな様子の、この人の顔を…見た事が有る。 その生命の危うかった時に、呼ばわってもその瞳を開いてはくれなかった時の…もう思い出したくもない記憶。

    夜は…嫌い。 …暗いから。
    それがこの惑星(ほし)では、至極当然の事で有っても。 あの…自分の生まれ育った惑星では、昼も夜も、夕焼けの色に明るかったから。
    殆ど変化の無い明るさに、生温(なまぬる)く一日が過ぎていったあの惑星。 はっきりとした闇に、かっちりと日の刻まれていくこの惑星。
    自分にとって、夜の闇の暗さは「宇宙空間」のそれだから。 あの人を、見付けてしまった…闇だから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    静かな、色彩の失い、明るい…闇の部屋に。 自分の呼吸と心拍ばかりが、身の内に大きく響いて聞こえて。 それ以外には…何も聞こえなくて、不安になる。
    隣に眠る人の、鼓動が聞こえないから。 その呼吸が…聞き取れないから。
    だから…確かめたくて。 どうしても、この人が生きているのだという事を確かめてみたくて。 ひどく…静かに、その手に触れてみる。

    指先に触れる間違いの無い温かさと、規則正しい拍動に…良かった…と、軽い安堵の溜息。

    また、身を伏せる。 起き上がった時と同じに、とても静かに。 隣に眠る人を…起こしてしまわないように。 そして、また…その人の手に触れて。
    この手の中の、この人の温かさが…生きる糧(かて)。
    生きてさえいてくれれば、それで良い…と。 あの闇の中で、ただそれだけを願った事が有るから。 生きていてくれるというその事が、ただそれだけでこんなにも…自分は幸せだから。

    再びの、眠りが誘う。 伝わる温かさが、自分の不安を融(と)かしていく。
    次に…目覚めた時は、きっと朝が来ているから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    きっと、眩しいまでの陽の光に。 貴方も私も、そろそろと…目覚めて。
    きっと、眠り(いま)よりも…幸せ。 一日の始まりに、誰よりも何よりも先に…貴方に逢えるから。

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Last Update:20040513
Tatsuki Mima