XII 吊られた男(THE HANGED MAN)
正位置の意味:犠牲・処罰・束縛・苦痛
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月が射す。
隣に眠る人を起こしてしまわないように、静か過ぎるくらいにそっと身を起こす。
カーテンの隙間から、蒼く、冷たく、冴え冴えしく。
そして、部屋の中に色彩が薄れてしまう。
隣に眠る人の、閉ざされた瞳(め)を見る。
月の光は部屋の中だけ…ではなく、その人の頬からも肌の色を失わせていて。
髪と睫毛の翳(かげ)は…強く、その顔に落ちていて。
こんな様子の、この人の顔を…見た事が有る。
その生命の危うかった時に、呼ばわってもその瞳を開いてはくれなかった時の…もう思い出したくもない記憶。
夜は…嫌い。
…暗いから。
それがこの惑星(ほし)では、至極当然の事で有っても。
あの…自分の生まれ育った惑星では、昼も夜も、夕焼けの色に明るかったから。
殆ど変化の無い明るさに、生温(なまぬる)く一日が過ぎていったあの惑星。
はっきりとした闇に、かっちりと日の刻まれていくこの惑星。
自分にとって、夜の闇の暗さは「宇宙空間」のそれだから。
あの人を、見付けてしまった…闇だから。
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静かな、色彩の失い、明るい…闇の部屋に。
自分の呼吸と心拍ばかりが、身の内に大きく響いて聞こえて。
それ以外には…何も聞こえなくて、不安になる。
隣に眠る人の、鼓動が聞こえないから。
その呼吸が…聞き取れないから。
だから…確かめたくて。
どうしても、この人が生きているのだという事を確かめてみたくて。
ひどく…静かに、その手に触れてみる。
指先に触れる間違いの無い温かさと、規則正しい拍動に…良かった…と、軽い安堵の溜息。
また、身を伏せる。
起き上がった時と同じに、とても静かに。
隣に眠る人を…起こしてしまわないように。
そして、また…その人の手に触れて。
この手の中の、この人の温かさが…生きる糧(かて)。
生きてさえいてくれれば、それで良い…と。
あの闇の中で、ただそれだけを願った事が有るから。
生きていてくれるというその事が、ただそれだけでこんなにも…自分は幸せだから。
再びの、眠りが誘う。
伝わる温かさが、自分の不安を融(と)かしていく。
次に…目覚めた時は、きっと朝が来ているから。
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きっと、眩しいまでの陽の光に。
貴方も私も、そろそろと…目覚めて。
きっと、眠り(いま)よりも…幸せ。
一日の始まりに、誰よりも何よりも先に…貴方に逢えるから。
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Last Update:20040513
Tatsuki Mima