13 死神(DEATH)

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XIII 死神(DEATH)
正位置の意味:死・破壊・災難・病気・疎遠・清算・終わりと始まり

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …後悔。 ただ…後悔だけ。
    気付けば良かった、もっと…早く。 今は、ただそれだけ。

    地球に不自然に近付く、アクエリアスの回避が目的だった、今回。 既に19回目まで、そのワープを許してしまって…猶予は無かった。
    それなのにアクエリアスは、目の前で最後のワープをさせられようとしていたから。 それは、事実。
    それまでの時間の計測に、俺の手が離せなかった。 そんな事は…今更、言い訳。
    どれだけ早く気付いたとしても、もうその時から間に合わなかったのかも知れない。 それは…今になっての、単なる逃げ道。

    だって…その「死」は、もう…どうにも疑いようが無いから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    これが「最後」だと思っていた、恐らくは誰もが。 このワープを許してしまえば、たった1日。 これさえ抑えてしまえば、まだ300年の猶予が残されるから。
    必死だった、誰も。 今の地球に残された艦なんて、ヤマトの他には数艦しか無いから。 それだけでは、人類全てを避難させられようもないから。
    先の航海で見せられた、ひどい嵐。 寄せ狂う濁流に、飲み込まれていく街。 その中を逃げ惑っては、失われていく生命。
    そんな光景なんて、また繰り返して見たくなど無かったから。
    …だから。

「どうかしたの?島君?」
    雪さんのそんな言葉の聞こえてくるまで、俺は何も見ていなかった。 思い返せば、航海長が第一艦橋に戻って来た時でさえも。
    その言葉に振り返っても、俺の席からは席の背に隠れて何も見えなかった。 だから…それまでに俺が、何かしらを航海長に話し掛けていても…気付けなかったのかも知れない。
    …だけど。

    何も出来ない、俺は航海長じゃ無いから。
    止められない、止めさせたくて仕方が無いのに。 見ているしか出来ない、古代さんなら…きっと…殴ってでも止められるのに。

    分かってる。 これは戦いだから、敵も味方も誰も死なないままでは終わらないなんて事。
    伊達に…そんな事を身近に繰り返してきた訳じゃないから、嫌と言うほど。
    航海長の「居場所」はその席だから。 居るのが当たり前だと思ってる、俺も…航海長もきっと。 居たいと願う気持ちも分かる、そのままで。
    それなのに、今は居て欲しくない。 見たくない。
「発進まで」
    それが…その心中なら。
「これ以上、出力アップしませんっ!」
この艦は、そんな思いを今…裏切っているから。
    動かない艦、動かせない…艦。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …遅いですよ、古代さん。
    今更、そこまで泣けるくらいなら。 どうして…もっと早く、戻って来られなかったんですか?
    航海長を止められるのなんて、古代さんだけだったのかも知れないのに…っ。

    口惜しくて。 ただ…口惜しくて。

    身近を過ぎて、目の前で死んでいく人を見る事が、とても。

    黙って、死なせてしまった自分が、とても。

    恨むべきが、何なのか分からない。 敵なのか、自分なのか。 古代さんなのか…それとも、この艦なのか。

    ただ、一つだけ分かっているのは。
    今ここに在る事が、もう…二度とは覆(くつがえ)らないという事。 航海長は、もう…居ないと。 それだけは、口惜しいくらいに真実の事。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    地上に雨が降る、アクエリアスの引きちぎられた海が。
    沈んでいく、あの艦が。 アクエリアスの、凍り始めた海に。
    また…1人の生命を呑み込みながら。 また…見送るしか出来ない俺を、嘲笑(あざわら)いながら。

    思い出の場所までもが、深く…深く沈んで凍り付いていく。 行き場を失くしたこの想いまでもを、一緒に抱え込んで凍り付かせながら。
    ここで失われる為に、あの場所で。 あの艦が、1人の生命を欲してまで生き延びたかった…とは思いたくは無かった…けれども。
    ここで失われる為にも、この場所で。 1人の生命を要した…あの艦だから。

    口惜しいけれども…今は、八つ当たりも承知の上で。 恨むべきは…運命や神様…といった類の代物なのかも知れないけれども。

    …さようなら。
    ただ…今は、さようなら…。
※「完結編」終盤〜ラスト

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Last Update:20040628
Tatsuki Mima