XIII 死神(DEATH)
正位置の意味:死・破壊・災難・病気・疎遠・清算・終わりと始まり
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…後悔。
ただ…後悔だけ。
気付けば良かった、もっと…早く。
今は、ただそれだけ。
地球に不自然に近付く、アクエリアスの回避が目的だった、今回。
既に19回目まで、そのワープを許してしまって…猶予は無かった。
それなのにアクエリアスは、目の前で最後のワープをさせられようとしていたから。
それは、事実。
それまでの時間の計測に、俺の手が離せなかった。
そんな事は…今更、言い訳。
どれだけ早く気付いたとしても、もうその時から間に合わなかったのかも知れない。
それは…今になっての、単なる逃げ道。
だって…その「死」は、もう…どうにも疑いようが無いから。
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これが「最後」だと思っていた、恐らくは誰もが。
このワープを許してしまえば、たった1日。
これさえ抑えてしまえば、まだ300年の猶予が残されるから。
必死だった、誰も。
今の地球に残された艦なんて、ヤマトの他には数艦しか無いから。
それだけでは、人類全てを避難させられようもないから。
先の航海で見せられた、ひどい嵐。
寄せ狂う濁流に、飲み込まれていく街。
その中を逃げ惑っては、失われていく生命。
そんな光景なんて、また繰り返して見たくなど無かったから。
…だから。
「どうかしたの?島君?」
雪さんのそんな言葉の聞こえてくるまで、俺は何も見ていなかった。
思い返せば、航海長が第一艦橋に戻って来た時でさえも。
その言葉に振り返っても、俺の席からは席の背に隠れて何も見えなかった。
だから…それまでに俺が、何かしらを航海長に話し掛けていても…気付けなかったのかも知れない。
…だけど。
何も出来ない、俺は航海長じゃ無いから。
止められない、止めさせたくて仕方が無いのに。
見ているしか出来ない、古代さんなら…きっと…殴ってでも止められるのに。
分かってる。
これは戦いだから、敵も味方も誰も死なないままでは終わらないなんて事。
伊達に…そんな事を身近に繰り返してきた訳じゃないから、嫌と言うほど。
航海長の「居場所」はその席だから。
居るのが当たり前だと思ってる、俺も…航海長もきっと。
居たいと願う気持ちも分かる、そのままで。
それなのに、今は居て欲しくない。
見たくない。
「発進まで」
それが…その心中なら。
「これ以上、出力アップしませんっ!」
この艦は、そんな思いを今…裏切っているから。
動かない艦、動かせない…艦。
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…遅いですよ、古代さん。
今更、そこまで泣けるくらいなら。
どうして…もっと早く、戻って来られなかったんですか?
航海長を止められるのなんて、古代さんだけだったのかも知れないのに…っ。
口惜しくて。
ただ…口惜しくて。
身近を過ぎて、目の前で死んでいく人を見る事が、とても。
黙って、死なせてしまった自分が、とても。
恨むべきが、何なのか分からない。
敵なのか、自分なのか。
古代さんなのか…それとも、この艦なのか。
ただ、一つだけ分かっているのは。
今ここに在る事が、もう…二度とは覆(くつがえ)らないという事。
航海長は、もう…居ないと。
それだけは、口惜しいくらいに真実の事。
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地上に雨が降る、アクエリアスの引きちぎられた海が。
沈んでいく、あの艦が。
アクエリアスの、凍り始めた海に。
また…1人の生命を呑み込みながら。
また…見送るしか出来ない俺を、嘲笑(あざわら)いながら。
思い出の場所までもが、深く…深く沈んで凍り付いていく。
行き場を失くしたこの想いまでもを、一緒に抱え込んで凍り付かせながら。
ここで失われる為に、あの場所で。
あの艦が、1人の生命を欲してまで生き延びたかった…とは思いたくは無かった…けれども。
ここで失われる為にも、この場所で。
1人の生命を要した…あの艦だから。
口惜しいけれども…今は、八つ当たりも承知の上で。
恨むべきは…運命や神様…といった類の代物なのかも知れないけれども。
…さようなら。
ただ…今は、さようなら…。
※「完結編」終盤〜ラスト
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Last Update:20040628
Tatsuki Mima