陽の光の下で:02

NovelTop | 第三艦橋Top

    ヤマトは無事に地球に帰還(もど)ってきて、機関を停止して。 乗員がそろそろ下艦し始めた時に、思い出したように南部が言った。
「…あ。これで、太田の方は無くなりましたねえ」
    ちょっと大きな声で、しかも隣だったから、一番驚いたのは僕。
「な、何…?」
「俺が、どうしたって?」
名前を出された太田も、島さんと何か話していたのを止めて訊いてきた。
「だって、もう還って来たんだから『泳いで還る』のは、ナシでしょ?」
    座席から身を乗り出すようにした南部の顔は、間違い無く太田の方を向いてるのに…指差されてるのは、しっかりと僕の方で。
「ああ…相原が、か。 まあ…仕方ないよな。 あれだけ毎日『逢って』れば、泳ぐ暇なんか無かったもんな」
「だ…からっ!しないって言ったじゃないかっ!」
苦笑しながら返す太田の言葉を、僕は思いっきり否定して。
    どうしてこの2人…こんな事ばっかり、良く憶えてるかな。 もう…。
「後は相原君が、うっかりプロポーズしちゃったら、俺の勝ち…って事で」
「しないし、してないっ!」
「…当たり前だろ?」
    またもう一度思い切り否定したら、意外にあっさりと2人に異口同音にそれを肯定されて。
「あの時の君に、好きだの何だの言ってる余裕、絶対無いですよ」
「そうそう。 直接『逢ってきた』って事の方に、びっくりしたし」
「真田さんと一緒だったから、長官に手順説明してる間『放っとかれた』んでしょ?」
…外れている訳じゃなかったから、黙ってた。
「でも、挨拶とか太陽制御の話…みたいな色気の無い会話だったんだろうなあ」
「…そうでも無いんじゃないですか? あの後『お花が咲く』ようになりましたし、定期交信」
    黙ってると、何処まで言われるのか分からないし。 かと言って、突付いても薮蛇になりそうだし…もうっ。
「相原。現在まで、どれだけ下艦出来たか確認してくれ」
「そろそろ、航海データの話に戻らないか?太田?」
副長2人が苦笑しながら殆ど同時にそう言って、僕と太田も殆ど同時に返事をした。
    真田さんや島さんの言葉で動いている僕たちを、またわざわざ無駄話に引き戻すほど、南部だって不真面目な奴じゃないから。 笑いながらでも途中で止まってた自分の仕事に戻って、この話はお終い。
    …その時は。

    分かってたし、覚悟もしてたけど…やっぱり、地下都市はちょっと暑かった。
    エアロックでさえ、ドアを2つ潜れば済むのに。 暑過ぎて作業員の姿の見えないドックから、迷いそうなほどの距離を忘れそうなほどの数のドアと隔壁を潜り抜けて、やっと今ここに居る。
「宇宙服、着たままの方が涼しいかも」
「1日保(も)ちませんよ、バッテリーだけじゃ」
「…じゃあ、ヤマトの中」
「補助エンジン止めたから、駄目。 補助電源だけじゃ、空調賄えないって」
    素直で軽い愚痴交じりの意見にも、南部と太田のそれぞれの突っ込みが入る。 太田は流石に航海班だけに、機関を止めた状態が良く分かってた。
「これでも、気温は5度くらい下がったらしいのよ。 大変だったのね、地球も…」
    雪さんが言ってるのは、あれから何日も衛星軌道を周回した結果の話。
「やっぱり、太陽エネルギーの回復が出来てなかったのが、響いてたって事ですかね?」
    航海の最初の頃に、太陽エネルギー省主導で行われた太陽制御の失敗の時に、システムが殆どやられてしまって回復し切れなかった…とは、聞いていた。
    だから…きちんと長官に進言した上で、真田さんが太陽エネルギー集積プラントを工場内で造っては、地上に設置。 資材が尽きたら、火星基地…水星基地や金星基地は、太陽に近い分だけ立ち寄れる状態じゃなかった…から巻き上げるようにしてまで、造り続けていたのだ。
「まあ…ヤマトと火星基地の資材、使い果たしたくらいで5度下げられるんだから、そうなんでしょうけど」
    雪さんの言葉に、南部は1人で誰ともなく問い掛けて、自分で勝手に答えまで口にして。
    勿論、水星より内側の軌道を巡っていたエネルギー集積ステーションまで、今は回復させようが無いから、以前と較べれば全く足りない状態でしかないのだけど。 それでも、曲がりなりにも供給が再開した…って事で、消費するだけの時よりマシ…って事なんだろう。
「真田さん、どう判断するんだろ? 足りないって事になったら、今度は…木星衛星基地の資材、喰い潰すって事かな?」
「土星の衛星基地の保有量の方が、多いんじゃないかなあ…?」
    その上でまだ、供給が追いつかないようならば、再度同じ事を繰り返そう…というのも、予定のうち。 今は取り敢えずの様子見、この後の事はこれからだ。

    僕たちは、僕たちの肩書きに掛かってくるだけの作業は済ませてから、ヤマトを下艦(お)りてきた。
    だから、本当はさっさと散ってしまっても、何の問題も無いんだけど。 艦長…前回までは勿論、艦長代理…の古代さんが降りてくるまで、班長クラスの僕たちは皆、何となく待ってる…のが普通だった。 負傷でもしていない限りは。
    この部屋に長官の入って来た事に気付いて、僕たちは慌てて敬礼する。
「古代は…まだのようだな」
それに対して軽く頷いた後に、手で構うな…と示しておいて、長官はそう言った。 長官がここまで来た…って事は勿論、その秘書をしている晶子さんも一緒について来た…って事で。
「…何だよ」
    背中を突っついて来る2人に何を言っても、元からそんな事で止めるような太田でも南部でもない…なんて事は、僕も充分分かってる。 だけど、つい…そんな言葉が口を突いて出てしまう。
「今日中には言えない…に、2千点」
「ここ1週間内には打ち明けられない…に、3千点」
    …どうして2人とも、否定の方向にしか賭けないんだよ。もう…。 僕だってね、言う時は…ちゃんと言うんだよ。 うん…多分ね。
    …って思ってるそばから、自分で後ろ向きになっててどうする。
    ドアの開く音と共に、紛れ込んだ熱気が室温を少し上げた。 最後になった古代さんたち3人が降りて来て、今ここに入って来たのだ。
「長官!」
まだ宇宙服の古代さんが気付いてそう言うより早く、長官の方から歩を進めていた。
「…っわ」
…と見ると同時くらいに、僕は思いっきり突き飛ばされていた。
    秘書として当然のように、長官の後を追い掛けようとしていた晶子さんの目の前に。 もう少しで危なくぶつかる直前で、僕はやっとの事で止まった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「な…っ」
    何するんだよ…と言いたくて振り返ったら、にやにやとして片手をひらつかせている2人が見えた。
「今、こっちを見ててどうする」
と、言わんばかりに。
    すぐ下で聞こえた、晶子さんの苦笑する声に。 ふ…と、あまりに間近過ぎるその距離に改めて気付いて、僕はものすごく慌てて一歩下がった。
「…お帰りなさい、相原さん」
    …もう少し、気の利いた事が言えないかなあ…と、自分でも思いながら。
「…はい。ただいま…戻りました」
僕は、ようやくそれだけを言った。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima