陽の光の下で:03

NovelTop | 第三艦橋Top

「本当に…お疲れさまでした」
「あ…いえ…はい」
    ほんの少しだけ首を傾げるようにした、ふわ…っとした晶子さんの笑みに。 この心臓は、分かりやす過ぎるほど速くリズムを刻んで、僕は言わなきゃいけない言葉を忘れそうになる。
    ほら…『僕は、貴女が好きです』って言わなきゃ…。 いや…何も別に、今ここでそう言って。 あの2人を、面白がらせる必要は無いような気もする。
    …じゃなくてっ。
「…相原さん?」
「はいっ」
    こちらを問うてくるような声に、弾かれたような…ちょっと間抜けた僕の返事。 もしかして、僕って…さっきから「はい」としか言ってない?
    いや…だって、晶子さんって「人の顔見て話す」人だから、僕の感情的にどぎまぎするんだよねえ…。 後から、電話か何かで言った方が…気が楽かも。
「…私と、結婚して戴けますか?」
「…は?」

    …え、えーと…。 済みません…。 今…何て、言いました?
    一瞬間、しっかりと思考停止しながらも僕は。 さっきの言葉の意味を訊き直そうと…でも、何も言葉が思い付かないままに、その身長差に見下ろすようにだけして。
「あ…あら、嫌ね。私ったら…」
    薄く頬に朱を刷(は)いて、慌てたように俯く晶子さん…って、可愛いなあ…違うってっ! さっき晶子さんが言った「言葉」聞くんだろう、僕っ。
「いや…あの…晶子さん?さっき…」
「まだ、地球がこんな状態ですものね。 今すぐ、結婚して下さい…っていう訳じゃないんです」
まだ朱を刷いたまま…俯いたままで、それでもしっかりとした言葉が返ってきた。
    やっぱり「結婚」って言ってたんだ…と、慌てるのが半分。 今すぐじゃない…と聞いて、ほっとするのが半分。
    そりゃ…僕だって、好きだと思ってる人との結婚を全く願わない訳じゃないけど。 この年齢(とし)だから、子供みたいに漠然とした憧れじゃなくて、それなりに具体的に夢見ちゃったりもするけど。
    …まだ、言葉にはっきり「好きだ」って言えてないし。 晶子さんからだって、そうと言葉に聞かされた訳じゃないし。 それに…やっぱり、結婚するとしたら…僕から言いたいじゃない、ねえ? 男なんだもん、僕も。一応。
「地球が落ち着くまでは、お祖父さまもお忙しいから…私もまだ、ゆっくりは出来ませんし。 相原さんも…ヤマトの方々も、それは同じでしょう?」
「あ…はい、そうです」
    そうだった。 地表と地下の温度の下がり具合と、エネルギーの供給状況次第では、また集積プラントを造る為だけに、地球と惑星・衛星基地を往復する羽目になるんだっけ。
    太陽の視直径はあっという間に、殆ど元に戻ったのに。 一度熱せられてしまった地球って、意外と簡単には冷めないもんなんだね。 大気が有る所為だって、真田さんは言ってた。 同じように、大気が有って気圧の高い金星は…考えたくないなあ…。
「ですから…1ヵ月後くらいなら良いんじゃないかと思うんです」
「…はい?」
    思考を遮られて、思わず間抜けた返事を返した僕。 晶子さんはもう…俯いてはいなくて、僕の顔をしっかりと見上げるようにしていて。
「それまでになら、地球も落ち着くでしょうし。 少し慌しくても、充分に準備も出来ますし…」
    じゅ…準備…って、何のっ?

        ◇     ◇     ◇     ◇

「流石は『野菊の君』。 可愛く見えても、お強い」
    エネルギー供給がギリギリの線なのは変わりないけど、地表温度も地下都市の気温も順調に下がり始めた事で、再度ヤマトに乗り込まなくて済んだ、帰還から5日後。 僕は出航前同様に、司令本部での内勤に廻されていた。
「何で、南部や太田まで本部に居るんだよ〜」
「だって、パトロール艇に廻すようなエネルギーの余裕ございませんから」
「そうそう。 航行管理部なんて、開店休業状態」
    ヤマト以外の艦や艇にも波動エンジンは搭載されているけど、地球のエネルギー事情に左右されないのは、ある意味試作品(プロトタイプ)で完全に一線を劃(かく)しているヤマトだけ。
    だから、ヤマトの出航前と同じパトロール艇艇長の任には就いたけど、出るに出られないで居る南部。
    太陽系内に一隻の艦艇も航行していないから、郊外に有る宙港の管制で仕事しているはずの太田も、暇を持て余している状態。
「ま…地上(うえ)の司令本部にお引っ越しするんで、雑務だけは有りますし。 雑務…ってより、力仕事ですけどねえ」
    …とか言いながら、ヒトの横で紙コップ抱えて「お茶してる」南部。 飲食禁止なんだけどね、ここ。一応っ。 死んでも、コンソールに溢(こぼ)さないでよねっ!
「俺たちと話してる時間が有るくらいには、相原だって『お暇』してる訳だし」
…と、太田。 太田も、しっかりと雑務に駆り出されてる口だった。
「…だって、まだ移民局が残ってるんだから、仕方ないじゃない」
    移民局が閉鎖されれば、多分司令本部がそんな仕事を引き継ぐんだろうけど。 地上の気温が正常に戻るまでは、万が一…って事で移民局が存続してしまうみたいで。 だから、移民局長を兼任していた長官はまだ、向こうに重点を置いてこっちにはあまり顔を出さない…と。
    まあ…あの時のボラー連邦の艦隊は、デスラーがきっちり太陽系から追い払ってくれてたし。 防衛軍に所属してて即座に動ける艦艇がヤマトしかない、エネルギー不足からまともに機能している惑星・衛星基地も無い…じゃ、長官どころか司令本部そのものの仕事も大して有りそうに無いし…。

「…で?式の準備は進んでるんですかね?相原君?」
    …やな事思い出させないでくれないかな、どんなに暇でも一応は仕事中に…。
「そりゃ、当然だろ?招待状来てたし、昨日」
「あ、そう? …そう言や、この2日くらいそういうもののチェックしてませんでしたねえ。 俺」
「…って、招待状っ?」
太田の言葉に、暢気に返す南部と、驚くだけの僕。
「…ご当人が、知らない訳?」
    いつ、日取りや場所が決まっちゃったんだよ〜っ!?
「こういうの…尻に敷かれてる…って言うのか?」
「置いてけぼり、喰らってる…って言うんじゃないんですか?」
「雪さんもこれくらい突っ走ってれば、今頃とっくに『若奥さま』やってるのにな」
「相原に先越されて、古代さん口惜(くや)しがってたりして」
    コンソールの上に、頭を抱え込んでしまった僕にも、2人は容赦無い。
「…他人事だと思って、言いたい放題言うよね。2人とも…」
「他人事だもんな?」
案の定な、太田の返答に。
「古代さんと雪さんの話なら、君だって似たような事言ってるでしょ?」
間違ってないだけに結構痛い、南部の突っ込み。
「古代さんたちに、仕返し的にあれこれ言われないだけマシだって。 ねえ?相原さん?」
「そうそう。 俺たちだけで済んでる事に、感謝しなさいな。相原君」
    …古代さんを、こういう話でからかうのは止めよう…と、今更ながらに固く心に誓った僕だった。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima