陽の光の下で:04

NovelTop | 第三艦橋Top

    暦はとっくに秋なのに、まだ真夏のような暑さ。 それでも、地上でも暮らす事が出来るようになった。 そんな…帰還から13日目。
    …って、結婚式まで2週間強しかないじゃないか〜っ!
「何だ…もう、肚(はら)くくったかと思ってたけどな」
「…他人事だと思ってるでしょう?」
「まあ…正直、面白い…とは思ってるよ」
笑い事じゃないんですってば、島さんっ。
    太陽エネルギーは、やっぱりまだ不足気味。 それでも、冷却に廻していた分だけ余裕が出来た…って事で、艦艇の航行が再開されたばかり。
「水星基地って、気温下がったんですね。 太陽に一番近いのに」
「今、夜半球に在るから…だろ? 地球や金星と違って、大気の輻射が無いし」
    もっとも、外周艦隊とかパトロール艇の航行は後回しで。 エネルギー集積ステーションを再開出来るだけの資材を、各惑星・衛星から水星基地まで運ぶ為の輸送船団と、その護衛艦に絞ってる状態。 それも護衛艦の数を、ものすごく少なく抑えているんだけど。
    …今、何処からか攻められたら、あっさり降伏するしかないんだろうなあ…地球って。
「島さんは、いつ出航(で)るんです?」
    その輸送船の艦長になってしまった島さんは、司令本部の航行管理部に書類提出に来ていて。 今は、僕とご飯食べてる最中。
「ヤマトで副長やらされた途端に、他で艦長だよ」
…なんて事を、苦笑しながらもぶつぶつ言っていた。
    まあ…分かるけど。 自分で操艦してる方が、楽しいんだよね。 島さんは。
「3日後…だな。 お前の式には戻って来られそうだから、安心しろ」
「あのですねぇ…『僕の結婚』ですけど、『僕の結婚式』じゃないんですってば」
    …だって、僕、何にもしてないんだもん。
「晶子さんに押されっ放しで、僕なんか『はい、はい』って言ってるだけで…」
    いや…相手が晶子さんだけなら、まだ何とか言えるかも…だけど。 もう完全に「式と披露宴の準備」でしか逢ってないから、必ず…と言って良いくらい誰かが一緒だし。
    その誰かが、何だかすっかりその気の晶子さんのご両親だとか、果ては…長官だったりしたら…僕に何を言えって?

「別に良いじゃないか、相原。 結婚したくない訳じゃないんだろう?」
「それは…そうですけど…」
    もっともな所を島さんに突かれて、ちょっと言い惑う僕。
「出逢って1年経ってるんだし、その間ほぼ毎日『逢ってた』だろう? 彼女にしてみれば、もう1年間も付き合っているんだから、そろそろ…ってつもりじゃないのか?」
「…定期通信の時に、話もしてませんけどね」
    …そうなんだよね、時間の長さだけならホントに「1年」なんだけど。 普通に2人だけで、それらしい話したのって…一度戻って来た時の工作船の展望室…だけなんだよね。 出航前のあの時って皆が居たし、何か…ひどく緊張しててどんな話したのか、あんまり憶えてないし。
    晶子さんとの事に関してのこの1年間って、僕にとっては在ったような無かったような…そんな感じ。 もう少し、のんびりゆっくり…お付き合いしたいなあ…っていうのが、正直な気持ち。
「話なら、その後からでもゆっくり出来るさ」
「それも…その通りなんですけどね」
「一緒に居られる…って、贅沢な事だと思うぞ?相原?」
    島さんがそう言うまで、忘れていた事が有るのを…僕は思い出した。
「…僕、わがまま言ってます?」
「わがまま…だろう? 時間の長さにこだわっているんだから」
僕が、何を思い出してそう言ったのか分かったみたいで、笑いながら島さんはそう答えた。
「時間を望む…望めるってのは、贅沢だと思うよ。相原」
    …ずるいよな、島さんって。
    ものすごく真面目な事も、笑いながら言えるんだから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …分かってるんだけど、さあ…。
「…相原さん?」
「え…あ、はいっ」
「…変ですわ、今日の相原さん。 お仕事で、何か…?」
「あ、いや…何も無いです。 ちょっと…考え事をしてただけで…」
    心配そうな目をしてじっと見られて僕は、慌てて両手と首を振って否定する。 だって、ホントに。 「仕事」では何も無かったんだから、嘘は吐いてないよね?
    「仕事場」では…有ったけど。
「考え事、ですか?」
    またちょっと首を傾けて、じい…っと。 そんな晶子さんの様子を見ていたら、僕は自分が嘘を吐いているような気がしてきた。
「いえ…あの…ちょっと。 僕は贅沢だ…って、わがままだ…って言われたものですから」
    何か言いかけた晶子さんを制するように、僕は急いで先を続けた。
「別に、悪い意味で言われたんじゃないんです」
…うん、あれって多分…島さんの本音だと思うから。
「だって、言われて本当に僕も…自分でそうだなあ…って思ったから」
こんな風に…今の僕と晶子さんのように、今は居ない女性(ひと)と、向かい合ってずっと話していたかった…って。
「…ヤマトで一緒だった方?」
    ふんわりとした笑みに、優しい視線。
「そうなんですよね?」
本当は、全部知っているのよ…と続くんじゃないかと思える言葉。
「ええ…そうです…」
    や…だな…僕、幸せだったんじゃないか…。

    幸せなんて、誰と較べるものじゃないと思うけど。 較べてみたら…僕はすごく、とても…恵まれてた事に今更ながら気が付いて。
    出逢っても、名前も分からないで二度と逢えなくても当然でしかなかったのに、もう一度逢えて話せて。
    離れた距離に話す事が無くても、画面越しに毎日その姿に見(まみ)える事が出来て。 元気でいる様子に、ほっと安堵して。
    どちらも無事に…生きていて、死なないままで、こうやってまた実際に逢えているのに。
「相原さん?」
    幸せなんて、本当に誰とも較べられるものじゃないと思うけど。
「…晶子さん」
「はい…何でしょう?」
    だからって、今…僕が口惜しく思ってもどうにもならないのに。
「幸せ…ですか?晶子さんは」
多分…僕は、泣きそうな顔をしていたんじゃないかな…と思う。
「ええ…勿論ですわ」
そう答えた晶子さんは笑っていたけど、少しだけ途惑っていたようだったから。
    自分が幸せだと自覚して、それが口惜しいって事も有るんだな…って。
「それなら…良いです」
幸せで居て欲しい人が、そうだと答えてくれる事が口惜しいって事も有るんだな…って。
    それを確認出来ない状態に置かれた人や、もう…絶対に確認出来ない人と、我が身を引き較べて。 それにも気付けないで、安穏としていた自分が…何より口惜しくて。

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Last Update:20121201
Tatsuki Mima