Wedding:02

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    ギリギリ梅雨の明けた、6月の好天を仰いで。
「古代さんの結婚式なのに…延期にならなかったねえ」
とんでもない…が、正直な感想を述べる相原。
「それ、新郎新婦に言うんじゃありませんよ。 今度は雪さんだけじゃなくて、ダブルで殴られますから」
    相原の口に、一応の釘は刺しておいたが。 内心は、同じような事を思わないでもない南部。
「実際…延期になったのは、1回だけ…なんだけどなあ」
2度3度と、延期になったような気がするのは何故だろう…と、呟いた太田。

    とまれかくあれ、本日は古代進、森雪両名の結婚式当日である。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    古代の、過去一番身近だった「夫婦」は、当たり前だが両親である。 …が、好むと好まざるに関わらず、それは「過去」である。 今…ここには無い。
    それならば今は…となると、兄と友人…になるのだろうが。 この2人…選んでしまった相手が地球人ではなくて、式を挙げていないと言う共通点がある。 はっきり言って、見本にも参考にもならない。
    いや…逆に、こんな2人を間近で見てるから。 結婚という実際と、結婚式というセレモニーが、今ひとつきちんと結び付いてなかったりするのだが。
「俺の所為にするなよ」
    形式が必要無い環境下だった、守はそう言い。
「人を、自分の言い訳に使うな」
形式よりも実質を取らざるを得なかった、島はそう言う。
    そして、この2人共通の意見として。
「形式も放ったままなら、実質にも踏み切らないお前の方が、変だ」
…とも。

    本当の事を言うと、籍だけ入れて、式なんてしなくても良かった。 実を言えば、別に今のままでも良かった…雪さえ傍に居てくれるのならば。
    …それもこれも、自分だけなら…だが。
    自惚れでも、何でも無く。
「古代君の、思うようにして良いわよ?」
訊けば、笑ってそう答えるんじゃないか…と思った。 例え、ドレスを着たくても、式をしたいと思っていても。
「私も、それでいいかな…って思ってたのよ」
…なんて言って、微笑むんじゃないか…と。
    だから、雪には「雪がどうしたいのか」としか訊かなかった。 だって…自分は、このまま何も無くても良いと思っている。 自分では必要無いと思っている式を、わざわざするのは…ただ雪の為だけに。
    どんな事情があっても、どんな理由を言っても。 こんな状態をここまで続けてきたのは、ただ偏(ひとえ)に自分のわがままの上。
「古代君の、思うようにして良いわよ? 私は、古代君について行くから」
そんな言葉と笑顔に、甘え続けてきたその結果。
    その陰で、笑い切れない想いがあるなんて…本当に、ついこの間まで全く気付けないでいて。
    そんな事の何もかも全ての償いが、この日で少しでも雪に返せるのなら。 自分の苦手や好き嫌いなんて想いは、何処にも無くて良いんじゃないか…と。

    だから、今日は…全ては、雪1人の為だけに。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    きっと…前から考えていたのではなく、何故だか…いきなり。 そのまま宇宙に行ってしまったから、後から訊き返す相手もいないのに、独りで考え直す時間だけは有って。
    訊き返す事が出来なかったから、冗談だったんじゃないか…と。 下手をすると…自分に都合の良い「夢」だったんじゃないか…と。
    だって…誰も、古代君がそんな事を考えていたとは知らなかったから。 少しくらいは、話を聞いていたんじゃないかと思った、守さんも真田さんも全然知らなくて。 島君…は、古代君と一緒に空の上だったからその時には訊けなかったし。
    結局、古代君が戻って来て。 当たり前のように細かい話をし始めてやっと、ああ…本当だったんだな…って。 その時になってやっと、夢じゃなかったんだな…って。

    「婚約者」という立場は、ある意味「恋人」よりも不安定な位置に居るんだな…と。 そんな事を思っていた、この頃。
    「夫婦」ほどには確かでない、しかし…間違いの無い「約束」。 「恋人」ほどには自由ではない、その「束縛」。 長い中途半端に、次第に狂ってくる足元のバランス。 「結婚」という安定な場を目の前にして、そこから動けない。 もう…後退出来る「昔」は無いのに。
    支えてくれる人が居るから、今までこの場所にも立っていられたけれども。 時間が自分の気持ちを波立たせて、そんな足下を削っていく。
    古代君は…宇宙に出るから。 心はここに残してくれても、支えてくれる手は…時々…遠くに離れて。
    早く、戻って来てね。 いつまでも待ってる…けど、いつまでもは待っていられないから。 1人では…いつまでも、立っていられないから。 この…不安定な足下に。

    ずっと…支えてくれていた声の呼ぶままに。 今まで、ずっと…支えてくれていた人の言うままに。
    目を閉じて、他人に引いてもらうルージュ。 わずかに香る、ささやかなブーケ。 そっと引き下ろされる、軽やかなヴェール。
    これが…その不安定な足下からの決別。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…お前も、神妙な顔くらい出来るんだな」
    それって…兄さんの言うセリフじゃないだろ…。
「何処で、失敗するか…と思って、見てたんですけどねえ」
するかっ!
「あ、僕も思ってた」
…お前ら、なぁ…。 俺を、何だと思ってるんだ?
「やだなぁ、古代さん。 当日の新郎新婦なんて、列席者のおもちゃですってば」
    …違うだろ、それ…絶対…。

    とまれかくあれ、本日は古代進、森雪両名の結婚式当日である。

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Last Update:20040506
Tatsuki Mima