今年も、島を思いっきり引き摺って。
サーシャが山程の買い物をして戻ったのを見て、守はまたそういう時期か…と、軽く溜息。
「何で…そう、毎年この時期に見事に、サーシャに捕まるんだ?」
「俺に、じゃなくて。
俺の航行予定を教えてしまう、雪と相原に言って下さい」
「材料」の方は、サーシャが早速キッチンに持ち込んで、既にカチャカチャ…という軽い金属音が聞こえてきたりしている。
リビングの方に取り残されているのは、守と島と「包装材」の山…で。
「…今年も、季節外れの『お歳暮』レベルか?」
例によって、多少の色やデザインのバラつきは有るが、大きさには殆ど差の無い包装材の群れに。
守は、またしても軽く呆れた溜息を吐きながら、そう呟けば。
「『特別』が有ったら有ったで、文句を言う癖に…」
島も、別の意味で溜息を吐きながら。
守には絶対聞こえないほどの声で、頬杖を付いた手で口元を半分隠しながら…呟いた。
2月のチョコレートなんて、1度配り歩いただけで最早「恒例」である。
翌年には既に「今年も…」なんて、数の予定に組み込まれてしまっていたりして。
もう…見事に「平等」な大きさと内容で、広範囲に配って廻るから。
サーシャの場合、恋愛感情が付いて来ない…とはっきり分かり過ぎている分だけ、貰う側もものすごく気楽に受け取れたりして。
「まあ…不味(まず)くは無いからな、見た目もそれなり…だし」
出来上がる代物がひどく不味ければ、守としても違う意味で「止めとけ」…と、もっとはっきりきっぱり言えなくも無いのだが。
「マニュアルをきちんと読むから、でしょう?
真田さんの養女(むすめ)ですから」
返ってきた島の言葉に、微妙に引っ掛かる部分も無くはなかったが。
思い付きだの、適当なんてものが入り込めねば、料理のレパートリーは一向に拡(ひろ)がらないが。
レシピ通りに、きっちり量ってやっている限りは、少なくとも失敗はしない。
「…で?
今年もまた、バラ撒くのを手伝わされるって訳か?」
「お兄さんが…じゃなくて、相原が…でしょう?
俺は当日、ギリギリ艦の中…ですから」
「…じゃあ、今年の航行管理部(そっち)関係は、南部か…太田か、だな」
「まあ…多分」
色んな意味で、溜息を吐くしか無い父親と「ご近所のお兄さん」だった。
◇
◇
◇
◇
「ホントに、好きな人なんて居ない訳?」
実年齢で言えば、結構な年齢差が有る事になるが、少なくとも見た目は似たり寄ったりだ。
「…念の為、言っとくけど。
『LIKE』じゃなくて、よ?」
いつでもそうだが、この時期は特に、そういう方面に話題が走るのは「お年頃のお嬢さん方」の集団としては、仕方が無い。
「居ない」
先手を打たれて「皆、好き」とは答えられなくて、あっさり…そう即答するサーシャに。
その場に居た全員が、それぞれに思い思いの方向に、思いっきりな溜息を吐いて。
「あのねえ…」
別に、隠すような事では無い。
…と言うより、軍内に所属(い)ては隠しようが無い。
「父親」が誰か…という「背景」を考えれば、仲良くしておくのは得だ…という打算も働かなくは無い。
だが、それ以前に似たり寄ったりな「女の子」同士だ。
よっぽど嫌われてしまうような性格でもない限り、普通に「友人」も出来るし、していられる。
「…まあ、中身が『お子様』だもんね。
サーシャは…」
「何よ〜」
既に、あちこちでしっかり言われてしまっている事を、またここで改めて言われてしまって、サーシャがぷう…っと膨(むく)れた。
「好きな人なら、たくさん居るもん」
…だから、好きな人が「たくさん」と言ってしまう時点で、話題になっている「好き」のレベルが違うのだと、今言われているのだが…。
「…ねえっ?
何か、ひどいと思わないっ?」
「…だからねぇ。
何で、僕の所に来て、愚痴るんだよ〜」
目は画面に向けたまま、手も止めないままで相原が、そう…ちょっとばかり困った顔をして。
「だって…雪さん、捕まんなかったんだもんっ」
サーシャが、きっぱり言い放った。
確かに…司令本部内、サーシャの居る総務(へや)からだと秘書室が一番、距離的には近い。
「そりゃ、そうだろうね…」
しかし、日中の秘書室に、長官秘書たる雪がのんびり在室してる方が珍しいに決まっている。
サーシャは昼休みの残りを、相原のコンソールまで愚痴に来た訳だが。
相原の方は処理が立て込んでいて、昼休みなんてもう少し先になりそうな…そんな状態。
はっきり言えば、ちょっと…かなり迷惑。
「もう…廊下で、古代さんか南部を見付けてよ〜」
古代は後3日くらいで出航(で)るはずだから、その準備に。
南部は2日くらい前に帰還(かえ)って来たばかりで、その詳細報告に。
どちらも、航行管理部付近をうろうろしてる可能性の高い事を知っているからこその、相原の「お願い」も。
「探したわよ、とっくに」
何故か、逆にサーシャに威張られてしまって、やれやれ…な溜息。
「言われてる事が、決して間違ってないんだから、仕方無いじゃない」
昼休みを先延ばしする事に諦めて、一旦手を止めて、相原は初めて後ろを振り返った。
どうせサーシャの昼休みの残りは、後10分も無いはずで。
その分が遅れるだけの事だ…と、あっさり考えを切り替えて。
「…相原さんだって、好きな人居ないじゃない…」
突っ込まれて、しっかり突っ込み返す辺り、父親に似たいい性格だ。
「…僕の話じゃ無いでしょ」
確かに。
現在「お付き合い」してる相手も居ないし、特に気になってる女性も居ないから、一瞬返答の遅れた相原だったが。
「それに、サーシャの意味での『好きな人』なら、男女問わず山程居るから。
僕だって」
サーシャ程度に突っ込み返されて、諾々黙り込むような可愛らしい性格は、相原にも無い。
そういう風に大人しくまとまってると、重ねて突っ込まれるような人間関係の中に、伊達に「現在も」居る訳では無いのだから。
おかげさまで、サーシャの午後は面白くなかった。
面白くないと思いつつ、仕事はそれなりにこなす辺りは…誰に似たのか、流石だったが。
そっちの意味の「好きな人」だって、そのうち出来るもん。
多分…と、微妙に気弱に、内心でぶつぶつと。
一度は…相手は「実際の叔父さま」だったが、惚れてみた事だってあるサーシャだ。
「…エディプス・コンプレックスじゃないんですかね?
それって」
早々「帰路」に、南部からしっかり突っ込まれてたりもしているが。
恋愛感情が、全く育ってない訳でも、欠落している訳でもないはずだ。
…良いじゃない、「皆、好き」でも。
「皆、嫌い」より、絶対マシよね。
そんな事を、またぶつぶつ…と。
不機嫌に言い訳ているようではやっぱり、未だ「成長の途上」のようである。
◇
◇
◇
◇
…だから、何度も言うが。
この時期のお嬢さん方は、話題がそちら方面に偏りがちである。
「男の人と一緒に居る所は、良く見掛けるんだけどねえ…。
ホントに、特別に…とか、ものすごく…とか、居ない訳?
好きな人?」
別に、世界は封建的な風潮ではない。
今までの戦いの記憶がはっきりと在る時代…という事は、男女の人口構成比率にかなりの差のある時代…という事でもあって。
むしろ、女性の立場や地位、発言権は高いくらいのものだ。
「居ない…って、言ってるじゃない」
性差に伴う、就業者の男女比率のはっきり差の有る職業は、勿論在る。
戦闘士官辺りは、体力・体格・持久力的にどうしても、男性比率が高くて当たり前だ。
しかし、それは差別でも何でも無い。
「…それって、勿体無くない?」
「…何が?」
恋愛だって、男女で何の差別も偏見も無い。
いつの日だって、好きになったから、そうだと伝える…そんな事に、何の遠慮も要らない。
…それでも、やっぱり。
「だって、サーシャ。
父親が『あれ』で、叔父さんが『あれ』よ?」
「『あれ』って、ねえ…。
他に、言い方無いの〜?」
何か…もっともらしいきっかけが在れば、気楽なのも本当の事。
だから、どうしても何か在る…特別な日にはしゃいでしまうのが、実際。
「有っても無くても、一緒よ。
それに付いてくるような男(ひと)だもん、どうしてもレベル高いわよ。絶対っ」
まあ…確かに、低いとは言えないだろう。
世間一般の評価がどうか…はともかく、軍関係者に人付き合いが偏ってしまっているサーシャだ。
その方向から見るならば、間違い無く。
「…そうかなあ…?」
「そうよ、勿体無いでしょ」
身近で見ていれば、誰にもそれなりの弱点も欠点も短所も見えて。
結局は…誰も普通の人間で、完璧ではなく。
サーシャが今、首を捻(ひね)っているのはその辺りの事の所為。
「この際…選んじゃえば?1人」
「…は?」
「…何で、昼間居なかったんだよ〜」
出口で、ばったり。
顔を見た途端の相原の言葉に、何をいきなり…と南部。
「航行管理部に居ましたよ、俺。
帰還(もど)ったばかりですもん、当然でしょ?」
「サーシャが探してる所に居なきゃ、意味無かったのっ」
こっちの用件も、今まで掛かってやっと解放されて。
その建物内に居るはずの友人の終業を待っててやって、この言われようだ。
「お嬢さんや、君のご都合なんて知りませんよ。
打ち合わせた訳じゃ無いんですから」
「そりゃ、まあ…そうだけど…」
お説、ごもっとも。
自分でも八つ当たり的だとは分かっているから、相原も気弱に、語尾は曖昧に。
他人の出入りを邪魔しないように、2人とも自然に少し脇の方に避けて。
「…で?
お嬢さんが、何やったんですよ?」
お互い、仕事を終わらせた後だ。
話しながらでもあるから、どうしても歩調はゆっくりで。
「うーん…やったって言うか、やられちゃったから愚痴に?」
「は?」
結局は、それが災いしたらしい。
「あ〜っ、南部さんっ!
何で、昼間居なかったのよぉっ!」
2人ともが全く油断していた所に、後方(うしろ)から。
思いっきり、サーシャの体当たり。
いや…サーシャにしてみれば、見付けてしまったから。
単に勢い良く走ってきて、その間に割り込むように、2人の腕を捕まえるつもりだった…だけなのだが。
「…サーシャっ!
止まれないなら、走って来ないでよっ!!」
結果としては、司令本部の玄関先で、有軍籍者が3人もまとめて転がる…というみっともない様で。
もう少し先では数段下がっているから、その手前だった事は幸いだったとも言えなくは無かったが。
「…ったく、久々に押し倒されちゃいましたねえ。
お嬢さんに」
実を言えば、サーシャを見知っている人間で、こういう体当たりを過去喰らっていない人間は、殆ど居なかったりする。
「誰も、押し倒してないわよっ!」
「…場所考えて、言葉選んでくれない?
2人とも…」
「だから、するな…と言ってるだろう。
俺も、古代も」
「…でも、体当たりする気で、ぶつかってる訳じゃないもん…」
当然、イカルスに居た頃から近くに居た真田や山崎辺りが、最初からの「被害者」だ。
とっくの昔に、まずは義父から、遅れて実父から「禁止令」くらい出ている。
「自分のサイズ考えて下さいよ、お嬢さん。
実年齢と中身が『お子様』なのは、承知してますけど」
「あ〜っ!
また、言った〜っ!!」
昼休みにも言われて…勿論、それ以前からも言われっ放しだが…その同じ言葉を繰り返されて、いい加減サーシャもキレた。
もっとも、サーシャの平手や蹴りに、簡単に当たってくれるような南部ではないが。
「…ここで暴れるな、澪…」
何で、こんな娘に育ったかな…と義父が溜息を吐いた。
◇
◇
◇
◇
仕事の邪魔をされるのは、有難くないのは真田も同じだったが。
放っておけば、休憩もろくに取らないような人間だと、自分でもある程度自覚しているから。
娘や友人、年若な元の同僚が押し掛けて来ても、そこそこには時間も割いて付き合う事にしている。
「…お嬢さんが、恋愛?
誰と?」
「何で…そう、真剣に訊き返してくるのかしら〜?
南部さん〜?」
あちらでは、一触即発。
「止めないんですか?真田さん?」
「ついさっき、暴れるな…と注意したからな。
幾ら何でも、まだ忘れてないだろう」
こちら側では、何だか暢気な会話が交わされていた。
「まあ…でも、実際。
サーシャだって、そのうち好きな男性(ひと)も出来るだろうし、結婚もしますよね?」
「だろうな」
会話に付き合っていても出来る仕事なら、片付けていく…のは相原も真田も、それ以外でも同じ。
真田が端末に向かっていようと、書類を見ていようと、遠慮もしないが気にもしない相原だった。
「…結構、あっさり言っちゃいますね?
真田さん」
「まあ…最終的には、親子じゃ無いからな。
血の繋がった」
だからと言って、現在の養女(むすめ)が可愛くない訳じゃない。
普通に…もしかしたら普通以上に、家族としての愛情も有る。
「そういうのは、古代に任せとけば良いんだ」
ただ、遠慮…なんだろう。
今の関係が、娘の預かり知らぬ処で、友人の心底願った事からでは無い事を承知しているから。
「ああ…参謀は、ねえ」
思わず、相原が苦笑した。
詳しい経緯(いきさつ)は知らない、理由の全部を知ってる訳でも無い。
それでも、そうせざるを得なかった理由の幾つかは、ヤマトという艦に乗務していて直接見てきて分かっているから。
少なくとも、外部(そと)から見ているだけの人間よりは、正確に。
「ものすごーく、色々言いそうですよね」
だから相原も、その事には何も言わない。
「言うだけで、済めば良いがな」
だから真田の方も、かなり…思ったままの事を口にする事が出来るのだ。
「え〜?
参謀が暴れたら…迷惑そうじゃないですか?」
「迷惑そう…じゃない。
あいつが暴れたら迷惑以外の、何者でも無いだろう?」
「だって…お嬢さんと恋愛出来るほど、度胸の有る奴なんて…居るんですか?」
ものすごく真面目な顔をして言い返されると、ついサーシャの方も考えてしまう。
「…度胸って、何よ〜?
私が、お化けか何かみたいな言い方しないでよ」
だからと言って、南部に対する口調が変わる訳でも無いのだが。
「いや…お嬢さん自身は良いんですけどね、黙ってれば普通に見た目も可愛いし」
「…それって、褒めてないでしょ?」
その言葉に、南部はあっさり「褒めてないですよ、勿論」と答えて。
感情のまま放たれたサーシャの右手も、またあっさりといなして。
「自分が『誰の娘』なのか、自覚して無いでしょ?」
微笑いながらの言葉に、思い当たらなくは無いサーシャだ。
「お父さまの娘よ。
勿論、お義父さまの養女(むすめ)でもあるけど」
定時に仕事を終えて、その時に言われた事と重なるから、幾ら何でも憶えている。
周囲に恵まれている…と言うか、強権者だの、高能力者に囲まれてる自覚も、元から無くは無い。
「…そっちじゃないですってば」
やっぱり…といった体(てい)で、南部が溜息も混ぜて苦笑した。
「お嬢さんと、見た目で吊り合うような年齢(とし)なら、イスカンダルを忘れられるような奴…居ませんよ?」
かつて、地球を救った恩人とも言える惑星。
現在(いま)は無いが、それでも過去の記憶は変わらない。
「今はそうだと知らなくても。
本気でお付き合いするなら、そのうち家族の事だって知れるでしょ?」
「まあ…それは、そうかも」
間に、恋愛感情なんて無くても。
ちょっと親しくなった程度でも、相手の親兄弟の事くらい聞いたり知ってたりする。
今現在、目の前に居る南部の事だって、サーシャには知れている事で。
「地球人にとって、イスカンダルって名前は重いですよ。
多分、ね?」
◇
◇
◇
◇
「…あら。噂だけなら、山程有るわよ?」
偶然に、雪の捕まった昼の休み。
食事の合間に、それまでの話を聞いて笑っていた雪が、やっぱり微笑いながら。
「噂?」
「ほら…知ってる人には、良く腕を組んだりしがみ付いたりしてるでしょ?」
食事の最後を片付けてしまいながら、問うてきたサーシャ…当人に、そう言った。
「…しますよね、確かに」
相槌を打ったのは、何故か相原の方だったが。
「確かに…じゃないわよ、相原君。
そういう相手とは、一通り噂にはなってるのよ?
勿論、相原君も」
「…は?」
くすくす…と笑っている雪に、サーシャと相原が異口同音に、間抜けた返答を。
「僕が?」
「相原さんと〜?」
…そして、両方が「相原」を指差したりして。
「女の子って、そういう話好きだもの。
仕方無いわね」
「ちょ…っと、待って下さいよっ。
何で、僕なんですか〜っ?」
「それ、私のセリフでしょっ」
途端に騒々しくなった2人に、雪はいよいよ笑い止められない。
「だから、相原君だけじゃないわよ。
一通り…って言ったでしょ?」
「え〜?
もしかして、南部さんとか、太田さんとか…」
「…島さん辺りも、そうなんですか?」
意識的に古代を省く辺りは、流石の相原だ。
「勿論」
2人からの重なるような問いも、あっさりと一言で片付けて。
「佐渡先生やアナライザーまで、万遍無く有るわよ?」
最後にそう付け足して、雪はまた微笑った。
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Tatsuki Mima