Valentine day:03

NovelTop | 第三艦橋Top

    何だか…街が、赤とピンクのツートンカラー。 飛び交(か)っているのは、同じ2色のハート模様。 はしゃいでいるのは、女性ばかり。
    本年も、そんな季節である。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    実は、毎年…あまり面白くない雪である。
    はっきりと打ち明けた訳でも無い、最初の航海の最中は物も無ければ気持ちの余裕も無くて仕方無かったとしても。 帰還してからの少しばかりを「恋人」として、それから後を「婚約者」として、はっきりとした「立場」を手に入れてはいたけれども。
「…どうして受け取るのよ」
    怒っている…というよりは、不機嫌。 膨(むく)れて拗ねた表情(かお)をして、身長差以上の上目遣いで睨み上げて。 その真正面に居るのは勿論、古代以外の誰でも無い。
「いや…えーと…」
    視線を逸らさないだけ、上出来だ。 だが、しっかりと心当たりは有るし、それに関しては悪い…とも思っているから、思いっきり腰は引けてたりもするのだが。
「分かってるわよ、私だって…」
    そう、分かってはいる。 古代が、絶対的に悪いという訳では無い事は。
    当人はそれと望んでいなくても、時代と状況と結果が古代を「有名人」に押し上げた。 今すぐに軍から離れたとしても、まだしばらくは他人の記憶から忘れてもらえないままだろう。
    加えて、これも…やっぱり時代の所為だが。 男女比率の狂っている現在だ、ただでさえ「女性側の競争率」は高い。 それが「他より優れている」と思われている男性なら、尚更。
    切実な本能だ。 遺伝子が、優秀であろう遺伝子を求めて探して選んで、いつか思い込んだ恋愛感情を育てていく。
    そこまで切実な話で無くても、いわゆるミーハーもとても多くて。

    …要するに。 こういう「女性側から」の機会は逃さず、相手に恋人が居ようが婚約者が居ようが…果ては奥さまが居ようがお構い無く、積極的にアプローチを掛けてくる人は居て。

    だから、毎年恒例のこういう状況に妬いて拗ねてる雪が居て。 そんな雪を目の前に冷や汗しきり、うろうろと言葉を探している古代が居た。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…って、無理言いますねえ。雪さんも」
    弁明もそこそこに…と言うよりは、上手く出来ないまま。 結局は逃げ出してきた古代を慰めるかのようなセリフを吐いたのは、南部。
「そういう事態にスマートに、女性にお引取り願えるようなら古代さんじゃないでしょうに」
「…おいっ」
    だが…それに続いた、誉めているのか貶しているのか分からない言葉に、喰って掛かってみる。 しかし、古代が吠え掛かってくるくらいの事、当たり前過ぎてどうとも思わない南部である。
「1年掛かった段階で、諦めも付きそうなもんですけど」
    何が「1年」かと言えば、勿論。 最初の航海、その往復の期間の事だ。
「見てるだけのこっちが呆れたんですもん。 当の雪さんなら、せいぜい溜息吐いてたはずなんですけどねえ」
「う…るさいっ、南部っっ!」

    航海から戻ってくるたび、乗員である古代たちが地上に居る間に艦艇の整備補修は当然行ってはいる。
    だが、年に1度くらいは大規模な換装整備が組み込まれていて。 当然、その間を休暇をくれてただ遊ばせてくれるような防衛軍では無い。 いずれ何かしらの地上勤務を、好むも好まざるも宛がわれて。
    今回、それまでよりマシなのは。 宇宙に出られない事は一緒だが、誰に教える必要も無く、文字を書く必要も殆ど無く、朝から晩まで小型機で飛び廻っていられる事。
    惜しむらくはそれが、テストパイロットとして「南部」に出向しているも同然で。 その所為で否応無く、こうやって南部に突っ込まれる事が頻繁になってしまっている…という一点で。
「ま、仕方無いですよ」
    要は、古代が目立つから悪いのだ。 例え、当人にその気が無くとも。
「俺は迷惑してるんだよっ」
    自分に直接向けられるものは、無視出来なくともまだ我慢も出来るが。 雪に対して…その弁明に追われる事の方が、古代にとっては余程迷惑な話で。
「一つ、目立たなくなる方法は有りますよ」
「…って、何だよ?」
「雪さん家に、婿に行く」
    …それは、確かに。 無駄に知られ過ぎた「古代」という珍しい姓を捨てれば、かなり目立ちにくくなる事は請け合いでは有るが。 比較的ありふれているはずの姓でも、それが「南部」なら実感として分かってそうと言ってるのだろうが。
「あのな〜?」
「俺も、ね〜。 誰か、婿に貰ってくれませんかねえ?」
「…絶対、無理だろ。それ…」
    思い掛けなくしみじみと言ってしまう南部に、実体験から真剣に同情しつつも古代はそう呟いた。

    散々飛び廻って、その日の最後の着陸(ランディング)。 つまりは、後はもう帰宅するのみ。
「あ〜、も〜。どうしようかな〜」
「…そんな事考えながら、乗機(の)ってたんですか?」
    時刻は遅くも無いが冬の陽は疾(と)うに沈んで、その名残が低く地平線際に濃紫の色。 引き上げてきた滑走路の端で、そんな会話。
「実戦なら撃墜(お)とされてますよ?」
「実戦じゃないから良いんだよ、別に」
    …訓練時に似たような事を言って、古代に叱り飛ばされた事のある学生なり新人なり…に聞かせてやりたいセリフである。 それを言って苦笑する南部に、答える余裕は古代には今ひとつ無かった。
    いつまで続くのか…信じ切れない現在(いま)の平和も、平和である事に変わりは無い。 地球の外に敵の存在しない今現在、古代にとって一番怖い…のは「雪のご機嫌」以外の何でも無く。
「素直に、謝っちゃえばどうなんです?」
「俺が、何やったって言うんだ〜っ!?」
    誰も居ない方向に向かって、無実を吠えている古代だが。
「何もしなかったからでしょ?」
そう、何もしない…断る事が出来なくて、義理だか本気だかを受け取らされてしまったのも古代である。
「自業自得って言うんですよ、そういうのは」
「あ〜っ、煩いっ!!」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    古代は換装整備に伴う地上勤務だが、南部の方は単純に休暇中。 実家の方で、古代がうろうろしていると聞いていたから、面白がってそれにちょっかいを出しに行っていただけ。
    日が来れば、次の出航の準備にも掛かる。
「…へえ」
その為に司令本部まで出向いてきた南部からそんな話を聞かされても、相原の反応としてはそんなもの。 何故なら、あの2人の話としてはさほど珍しい事では無いから。
「でも。 雪さん、そんなに機嫌悪くなかったと思うけど」
「謝ったんでしょ? 古代さんだから」
    好き勝手、言われたい放題の古代である。

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Last Update:20060112
Tatsuki Mima