White day:03

NovelTop | 第三艦橋Top

    何処からそんな知識を…と言っても、十中八九はサーシャからだとは思ったが。
「良く…分からないんですけど、こういう日だと言われましたから」
それなら、もう少し説明出来そうな気もして。
    …説明の省きっ振りは、もしかしたら守から聞いたんだろうか…とも、内心。

    とにもかくにも、そういう訳で。
    チョコレートが特別な意味を持つ日に、初めてテレサから手渡されてしまった島である。

「あ。それ、私。 私が教えたの」
    はい、はい、はい…ととっても元気良く。 サーシャが手を挙げたので、本気で思いっきりほ…っと胸を撫で下ろしたした島だ。
    バレンタインという「イベント」に関して、サーシャが微妙に間違った感覚を持っている事は先刻…と言うより、つい先日の件で承知だが。 少なくとも、要らぬ事は教えてないだろう…という点で。
「でも、後でお父さまが何か耳打ちしてたわよ?」
    …要らぬ事を教えた人も、しっかり居たようだ。
「…お兄さん?」
「大した事教えてないから、気にするな」
「気にしますっ!」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「やっぱ、貰ったもんは返さなきゃ…だろ」
    …誰だ、古代に知らせた奴は。
「ま、せいぜい頑張れな。島」
「お前にだけは言われたくないっ!」
    同じように「最初に貰った時」に何を返そう…と悩んで、挙句の果てに相談しに来たくせに、3年経ったら忘れるのか。 明らかに、無責任に面白がっている目の前の相手が、この際腹立たしい。
    何故なら、俺は。 少なくとも、他人に相談しようという気は無い。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…何、それ?」
    島はまた航海に出て、留守である。 だから、司令本部との往復のどちらかで遠回りにやってきているサーシャが、話を聞かされてそんな返答。
「…え、あの…変だったんですか?」
サーシャの言葉を聞いて、逆にテレサは首を傾(かし)げて問い返す。
    問い返されてまた、サーシャはうーん…と唸(うな)ってみた。
    サーシャにとって、クリスマスが「プレゼントを貰う日」ならば、バレンタインというのは「好きな男の人に、チョコレートを配る日」…である。
    好きな…と言っても単なる好悪であって、恋愛感情の有無では無い。 クリスマスにしても、自分が「プレゼントを用意」して贈るんだ…という意識が抜けている辺りが違う。
    当人はあまり気付いていないが、認識に微妙な間違いがある。 だが…それでも、買ったその場で渡すものだ…と教えた憶えはサーシャには無い。
「だって…官舎(へや)に無かったから、買ったんですけど…」

    何の事は無い。
    テレサという人間(ひと)は、他人からものを贈られた経験が殆ど無い所為で、単に「手渡す」という事と「贈る」という事の意味の差が分からないだけだった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    誰かに相談する気は無い…というだけで、実は。 いつぞやの古代以上に、何をどうしたものか悩みまくっていたりする島だった。
    これが…雪なら、さほど悩まない。
    色ならこの色、花なら何、服ならこういうデザイン…と、これまでの時間の中で好みも何となく分かっている。 思い付いたものを探して贈っておけば、多分…何の問題も無い。
「何か…欲しいものはある?」
    出航前に、他の話題に紛れ込ませて一応訊くには訊いてみたのだが。
「欲しいもの…ですか?」
そう言ってテレサは首を傾(かし)げて、とても真剣に考え込んでしまった。 もう少し簡単に答えが返ってくるんじゃないか…とも思っていたから、意外なほど。
「いや…そんなに、真面目に考えなくて良いから…」
    だから、また他の話に紛れて誤魔化して。 だから…結局、何が欲しいのやらさっぱりで。

    正直、テレサが何を喜ぶのか良く分からない。 逆を言えば、何でも嬉しがってくれそうな気はする。
    指差して、雲が形を変えていく事まで不思議そうに問うてきた事のあるテレサだ。 地球(ここ)に在るものは、殆ど何もかもが見知らぬもの。
    まだ、わずかな時間。 目にしていないもの、手に取った事の無いもの…は、まだどれだけ在るのか。 そのうちの1つを探して渡せば、ものすごく喜んでくれるのだろう。
    だから…考え込んで居る訳だ。 何を見せていなかっただろうか…と、今までを繰り返して思い出して。

    …但し。
「…何か考え込んでますよ、島」
「航路外れなきゃ、構わん」
同じ艦橋の中で、そういう事を言われてしまっていたりして。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「島さん、お帰りなさい」
    玄関にドアの開く音を聞き付けていたようで、テレサがそこまで。 ただいま…と返しながら、いつものように荷物を預かろうと出してきた手の上に、いつもとは違うものを一つ二つ。
「…何ですか?」
「花の種。 今から蒔けば、夏には咲くから」
    テレサも今までに花は幾つか見ている、綺麗だ…と言って喜びもした。 だが…育てた事は無い、どう育っていくのか…も知らない。 だから。
「この花が咲くんですか?」
    袋の表には、当たり前のように見事に咲き誇った姿が写真で。 それを見ながら、何だか…すごく嬉しそうにそう訊ねてくる。

    そんな表情(かお)をしてくれる事が、嬉しくて。
「そう、この花だよ」
こうやって、指差し答えている自分自身も…嬉しくて。

「…でも『蒔く』って、どうする事なんですか?」
    そこから教えなきゃならなかったか…と、今更の溜息。

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Last Update:20060202
Tatsuki Mima