母の日:02

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    母の日の最初と言われているのは1907年、それに倣うように父の日の最初は1910年とされている。 米国で祝日と制定されたのは、それぞれ1914年と1972年。
    「スタート」はほぼ同時なのに、カレンダーにそうと印刷されるようになったのには60年もの差が有って。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    御年、3歳2ヶ月。 生まれてこの方、4回目の母の日。 …と言っても、最初の2回は完全に記憶には無いはずだが。
「作った〜」
    たまに地上に居る時くらいしか出来ない「お迎え」に行けば、駆け寄ってくるなり見てもらう為に突き出してきたのは、元は「赤い折り紙」だったらしい…紙ゴミ?
    ギザギザで、くしゃくしゃで、よれよれ。 作った…と言うよりは、作ろうと思ったが失敗した…と言った方がよっぽど正しそうだ。
    だが、可愛い娘にそれをはっきり指摘するほど、古代も馬鹿では無い。
    正確にはそういう素直で馬鹿っ正直な指摘は、婚約時代に「雪に対して」散々やらかして…引っ叩かれもした、泣かれもしたので、流石に賢くもなっただけだ。
「…何だ?」
    だが、分からないものは分からないので、素直に訊いてみる。
「えーと、ねえ。 えーとぉ…」
    問われて弥生は、何度か「えーと」を繰り返した後で。
「お花っ」
どうしてもその「花の名前」が思い出せなかったようで、自信満々に極めて包括的な名称に逃げた。
「花?」
「お花。 ママにあげるって」
    それでやっと、古代にも何だか知れた。 母の日のカーネーションだ。

    何かしらを期待しているらしい、じーっと見上げてくる瞳に気付いて、綺麗に作ったね…と慌てて誉めた。

    例によって、雪は随分と遅い時間に戻ってきた。 なので、弥生はとっくに夢の中…である。
「え?本当?」
だから、寝る前にしつこくお願いされた通りに、古代から雪に手渡した。
    多分、まだ本当の意味は分かっていなくて、言われたからその通りに作って渡してきただけだろう。 角を揃えて折る事も出来ない、ハサミも上手く使えないから、見た目もこんなザマだ。
「やだ、嬉しい」
だが、それを貰ってしまう側の雪としては、出来の悪さなんて目に入らない。
    だって…これが、初めて貰うカーネーションだ。
「…何か、ずるいよな。 母親って、さあ」
    言葉通りに嬉しがっている雪の横で、その興も冷めるような事をぼそ…っと。
「最初に喋るのは『ママ』だしさ。 それに…」
その後、良くそれだけ言う事が有ったわね…と雪が呆れるほど、古代は面白く無さそうな顔をして腕組みしたままで延々と、ぶつぶつと。
「なぁに?進さん…拗ねてるの?」
    呆れ過ぎて…おかしくて、くすくすと笑いながら。
「母の日だから…よ。 それも意味も良く分かってないわよ、きっと」
状況が特別なんだ…と、もしかしなくとも奥さまより娘の方が可愛くて仕方無い…のに今日は振られた旦那さまを、せいぜい宥めすかす。
「来月には、父の日だって有るわよ?」
    隣にすとん…と座り込んで、下から覗き込むように。 やだ、ホントに拗ねてるわ…と改めて間近に見た表情に、また苦笑が止められない。
「…父の日って何だよ?」
「何…って、何の事?」
「花。 母の日の方は、カーネーションだろ?」
    何を言うかと思えば…と、やっぱり苦笑。 花なんて特に興味も無い、本当はどうでも良いくせに、自分には貰えない…という事はそれもそれで面白くないようだ。
「…バラよ」
    カーネーションよりは「値段が高い」わよ…と付け足せば、それで少しばかりはご機嫌が戻ったらしい。
    そんな様子の古代を、横目に見ながら。 来月にはバラを買って、弥生から渡してもらわなきゃ…とこっそり決心する雪だった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    でも。
「『娘の父親』って、皆こんな感じなのかしら?」
…と、雪にとって「父親」と言えば第一には勿論、実際の父親。 良く可愛がってもらったという記憶は、勿論在るけれども。 母親とのやり取りは思い返してみても…そんな事あったかしら、と首を傾げるばかり。
    娘から見た父親と、母親から見た父親で違うのかも…とも考えたりしたが。 生憎と、雪の「旦那さま」は後にも先にも古代しか居ないから、比較対象が無い。

    …ちょっとだけ、余所様の家庭の様子の気になった雪である。

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Last Update:20060404
Tatsuki Mima