ぱらぱら…という不規則で、しかし連続した軽い音に目を覚まして。
何だろう…と、そっとベッドから抜け降りた。
隣にまだ眠っている人を起こさないように、そっと。
その音は、窓の外から。
日暮れに閉ざしていたカーテンを、ほんの少しだけ。
結果。
「…島さん、島さんっ」
テレサにしては、相当大きな声もして。
また、随分と驚いてもいるように。
いつもよりも随分と早い時刻に、揺り起こされた島である。
「空から、水が落ちてくる」
確かに「雨が降る」という気象現象に、そういう表現も出来なくは無い。
だが、日常会話の中でそう言ってしまう人はあまり居ないだろう…地球人なら。
「雨…雨ですね?」
2人並んだ窓際に、それまで知らなかった言葉を憶えようとするように繰り返して。
この時初めて、あの惑星(ほし)に雨が降らなかった事を知った島だった。
◇
◇
◇
◇
遊星爆弾の傷痕の癒えたのも、表面…のそのまた一部だけ。
それ以前と同等、もしくはそれ以上の発展を見せているのは都市部だけ。
干上がった海こそ何とか回復したが、崩されたものは崩れたまま、削られたものは削られたまま。
地形はそれまでの姿を留(とど)めていない、風景は以前の面影を忘れていた。
再びの地上に、2度目の長雨の季節。
だが…去年も、そして今年も少しばかり天気の悪い日の続くだけ、雨の日はあまり無くて。
ベランダの窓を大きく開け放って、ぽつぽつと落ちてくる降り始めの雨を精一杯伸ばした手のひらに。
「濡れるよ?」
大した風も無いが、それでも動く空気に足下に少し。
「あ…はい」
言われてようやく、ほんの少し…名残惜しそうにも窓を閉ざす。
あの惑星に、水の存在していない訳では無かった。
生命体として生存にはやはり水を必要としていたから、それまでが物珍しい訳でも無い。
だが、同じ地球上でも気象条件…水の量の多寡でその使い方に差があるように。
そんな場所に生まれて育った彼女には、水に身体を濡らすという経験が少なくて、好きでもないようでもあって。
だから、頭から濡れるのは嫌で部屋の中から。
でも、振る雨はまだ珍しいから…手のひらに。
手招かれる事に、素直にその隣に座り込む。
しかし、その視線はまだ窓の外。
散々眺めておいてから、今度は手のひらに受けた水滴をしげしげと。
「…面白い?」
「はい」
問うてみれば、にこやかに即答。
「不思議ですよね?
どうやって水が、空の上に行くんでしょう?」
それから…時期的な擦れ違いに、まだ小さかった次郎にさえ問われなかったような素朴な疑問も、真正面から一つ。
雨の降らなかった場所に生きてきた女性(ひと)には、水の循環が良く分からない。
未だに雲が、水…水蒸気や水滴の集まったものだと信じてくれない。
何か…超常的なものによって、空から水滴が落ちてくる。
もしかしたらテレサはまだ、そんな風に信じているかも知れない。
「…可愛いよ」
そんな事を信じていられる君は。
「…はい?何か仰いました?」
手のひらの上を転がる水滴に見惚れていたテレサは、聞きそびれたらしくて無邪気にそう問うて返してきた。
聞こえなかったなら、まあ…それも良いか。
「何です?」
「何でも無いよ」
そんなに繰り返してまで、訊かないで欲しい。
そんなセリフを真顔で、2度も3度も繰り返して言えるほど図々しくも無いのだから。
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Last Update:20060502
Tatsuki Mima