色々とあった航海を終えてようやく地球に帰還(もど)ってみれば、そこもまだどたばたの真っ最中。
まあ…占領下にあったのだから、残党を片付け済んでなくとも仕方は無いだろう。
残党が無くとも、街は破壊され…それに見合うだけの人間も亡くなっていたのだし。
個人的には両親と再会もして、その無事をお互いに喜んで。
あれやこれや…の本当にすっかり片付いたのは、それから半年以上も後の事。
そうしてサーシャは、身の周りの騒がしさにようやく気付いた。
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「地球人…って、変」
自分が同じ「地球人」である事を棚上げして、サーシャが心底呆れたように呟いた。
「…って、自分は?」
当然のように、その事を相原が突っ込んでみる。
成長の過程が特殊だったから、正式には小学校の卒業さえなっていないサーシャだったが、そこはそれ。
育てたのが真田であった以上、知能程度と学力は見た目に見事に即していて、非公式にだが訓練学校の一部課程にも紛れ込んでさえいた。
そんな事を「特例」にして、ちゃっかり司令本部での事務に収まった。
そこに、多分に「親のコネ」も無かったとは言えないが。
そういう訳で、ここでもやっぱり「同僚」やっている相原とサーシャだ。
「私は、イカルスで育ったもん」
つまり、戸籍云々では無く、単純に何処で…何処の常識で育ったか、と。
「地球人って『平和になる』と、求婚してくる人種な訳?」
イカルスの中では、そう言う「常識」は無かった。
…と言うよりそもそも、女性は子供だったサーシャを含めても片手にも足りないほど、適齢期の男女が全く混ざっていなかっただけ。
恋愛を語り合う男女の姿が、文章や映像の中にしか見えなかっただけの事だ。
「…本気で結婚したい人は、どーいう事態(とき)でも結婚すると思うけど」
ガミラス本星の沈黙した後で、弟や友人と懐かしい場所に帰還(もど)る事よりも、簡単にそちらを選んでしまった守と。
地上の放射能汚染などの充分に何とかなってから、ようやくそんな話の出てきた古代と。
少なくても…君の「血統」はそうかも…と思いつつ、一応黙っておく相原である。
そうと知れて、その…まだ赤ん坊だった頃の姿も憶えていたから、当たり前のようにサーシャと呼んでしまう相原だが。
実を言えば、戸籍上はまだ「真田澪」のままである。
現在も過去も「妻帯者」では無かった真田と、養親養女の関係でいるのもあまり例が無くて珍しく映る事だが。
同じく戸籍上は妻帯者では無いながら、実質上の奥さまが「イスカンダルのスターシャ」だと軍外にまで知れている守の娘でいる事は、もっと…要らぬ注目を引いてしまう。
だから、当人の判断に選ばせよう…と話が決着していて、現在のこの状態だ。
その所為で、サーシャの実父が誰で養父が誰…と知れまくっているのだから、どちらかだけの知れているより余程タチが悪いような気もするが。
「…も〜っ」
平和になってくると、今後の欲も出てくる。
この場合、端的に言えば出世欲。
親という背景をアテにして…の求婚者の大量に勢揃いだ。
まあ…中には、本当にサーシャ本人に惚れている奴も居ないじゃないかも知れないが。
見た目なら「10代後半」、実年齢は「未だ幼児」のサーシャにこんなに急(せ)いて求婚するような20代後半から30代男性…には、別の問題が有るだろう。
自分自身をあんまり見てくれている訳じゃない。
そうと知っているからこそ、のサーシャの憂鬱である。
「相原さん、私と結婚しない?」
「…は?」
これまでにお付き合いもしてなければ、こちらへの恋愛感情の有るような様子も無かった相手から、いきなり真剣さの足りない求婚を受けても…途惑うしかない。
「だって、結婚してる人に『結婚してくれ』とは言わないでしょ。
誰も」
要するに、偽装結婚の申し込みだった。
「…そう言ってくる人の中から、マシそうな人選んでそう言ったら?」
「嫌」
…選べないほど、誰も彼も欲得づくなのがあからさまに見えてしまうのか。
それとも単純に、好みの問題なのか。
相原のお軽い提案に、サーシャの即答だ。
「だから、相原さん。
結婚しよ?」
「やだ」
今度はサーシャのお気楽な再度の求婚に、相原の方が逃げ腰ながら…きっぱりと即答した。
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「…馬鹿か?お前は…」
そうは言いながら、アイディアは悪くない…とか思っていたりする守だった。
「だって〜」
確かに、既に旦那の居る女に堂々と求婚する男はあんまり居ない。
そういう教義のある宗教にも関わり無いから、重婚は法的にも道義的にも罪だ。
お断りの方便としては、決して悪くは無い。
だからと言って、愛情なんか有りゃしません…な男に。
幾ら「偽装」だろうと、やっと居られるようになった娘をほいほいとくれてやるほど、物分かりも諦めも良くは無い。
「大体…何で、相原なんだ?」
「思い付いた時に、その場に居たから」
…こいつは、ホントに「真田の娘」だ…と守は思った。
欲しいものが無ければ、自分で「作って」でもとっとと手に入れようとする辺りが、ものすごく。
「結婚相手は、愛情か…せめて『好意』で選べ」
同じ艦に航海もした相原に、仲間とか友人としての好意は有るだろうが、明らかに異性としての好意は無さそうだ。
その場に居たなら、犬猫にも同じ事を言ったかも知れない。
「好きな人〜?
え〜と…お義父さまじゃ、駄目かなあ?」
「却下」
父親と結婚したい…と願うのは、実年齢を考えれば当然のセリフだったかも知れない。
だが見た目がこうで、知能程度もそれに即している以上、法解釈力もそれなりに。
決して、本気で言ったりなどしていない。
守の言った事を噛み砕けば、せめて「好きだと思う男」を選んでおけ…という事だ。
好きな人…と言われて、真田の顔が思い浮かんだのでそう言ったまで。
駄目と言われて、じゃあお父さま…とも思ったが、お母さまが居るからなあ…と口にしなかっただけだ。
…この上「叔父さま」とか言ったら、呆れる通り越して怒られるでしょうね。
「あ〜、も〜。
誰と結婚したら良いのよ〜っ」
「…誰ともしなきゃ良いだろうが」
多くも無い身内を一周したところで「好きな人」が居なくなる、それがこれまでのサーシャの世間の狭さを物語っているようなものだった。
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まあ…あの時はそんな状況じゃ無かったのも本当だが、あの航海の途中では何にも言ってなかったくせに、島はしっかり女性と暮らしていて。
これは流石に…お願いしにくいなあ、と。
しかもそのテレサは、簡単に母親を思い出してしまうほど良く似たような立場で、何て言うか…ものすごく親近感を感じてしまう人でもあって。
従って。
そんな事はおくびにも出さないで、ただどうでも良いような事だけを笑いながら話して、ただ単に「遊びに行っただけ」に終わらせたサーシャである。
言われた事を頭で理解するまでの、ほんの一瞬の無言。
しっかり理解してしまった後の、芝居掛かって見えるほどに深くて長い溜息。
「…あのな、俺にだって『好み』とか『理想』ってのは有るんだよ」
「悪かったわね〜。
何も、そんなにしみじみ言う事無いじゃない」
先の航海では義父の真田、叔父の古代を除けば多分…一番話していたのが、実は太田だ。
第一艦橋での席は非常に近かったし、扱っているのも種類と目的が違うとは言えどちらも観測(レーダー)機器。
確かに、真田に育てられたらしくその扱いは間違い無かったが、だからと言って決して手馴れている訳でも無かった。
…という理由で、その比重はかなり仕事面に偏ってはいたが、どうしても一番会話が多かった…と。
「…で。
その理想や好みから、私がどう外れてるって言うのよ?」
いや…そんなもの以前に、結婚を考えてしまうような恋愛感情ってものが無いだろ。
それが何より重大事なんじゃないかと思う太田だが、サーシャにとってはそれほどの事では無いらしい。
私を振るんならその理由をお言い…とばかりに、何故か偉そうに。
これは薄いとか少ないというレベルでは無く、恋愛感情皆無と言って良いだろう。
「何処が外れてる…って言うより、むしろ真逆」
そんな…良く言えば明瞭闊達、平たく言えばずけずけとものを言い騒々しい女性はご遠慮願いたい。
「小煩いのは、うちの2人だけで充分だよ」
「え〜?
やですよ」
これまた、即答。
「南部さんも、理想がどうこう…って言うの?」
「それも、有りますけどね」
その第一位に「年上」というのが来るのだから、その部分だけで確かにサーシャは南部の理想たりえない。
そんな事などご存じ無いサーシャは、私の何処が不服なのよ…と盛大にご機嫌斜め。
「お嬢さんは、俺の実家(いえ)の事ご存知でしたっけ?」
「…って、何か変わってる訳?」
素直にこんな返答をしているようでは、全くご存知無いという事だ。
仲間内では「何を今更」な事実なので、誰も特には話題にしないで…つまり誰もそうと教えなかったらしい。
仕方が無い…と淡々と、だがかなり詳細な数字も出しつつ、その説明を。
それまでにも決して小さくは無かったが、疲弊していくだけだった地下都市の10年足らずに自然淘汰された結果、最大クラスとして残ってしまった複合企業(コングロマリット)の事を。
「…って事で。
軍とその関係者で留まってる現在(いま)より、よっぽど身の周りが騒がしくなると思いますが…どうします?」
勿論、丁重に求婚を取り下げさせて戴いた。
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◇
「私ナラ、喜ンデ〜」
何処から聞き付けたやら、アナライザーにそう言われて。
ロボットと人間って結婚出来たっけ…と、つい本気で考えてしまったサーシャである。
「…それは止めておけ、それは」
漫才やってるんじゃない…と、思わず額を押さえた真田だった。
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Last Update:20070316
Tatsuki Mima