嵐:03

NovelTop | 第三艦橋Top

    窓の外には、嵐。 艦内には、一時の退屈とささくれ立った空気。
「…ねえ。 この嵐、いつ止むんです?」
「知らん」
    頬杖突きながら…の南部の問いに、素っ気無く答えた太田だ。
「…ってか、まだ計算出来てないんだよ」
「実際、止んでみるまで分からない…って事ですか?」
「そういう事だ」

    そうして2人同時に、それぞれに溜息を吐く。

「もう飽きましたよ、喧嘩止めるのも」
「俺なんか、もっと飽きてるよ」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    往復1年と区切られた航海、その往路の半分も遠い地点(ところ)で長い足止め。
    いや…結果的な行程を選んで、今を留(とど)まる事を選んだだけなのだが。 前に進む事も無い、戦闘も無い、その退屈さが要らぬ焦燥も生む。
    …という事で、退屈な日も1週間を過ぎた辺りから、艦内のあちらこちらで小さな衝突が起きていた。 留まり続ける航海班員と、それに退屈した戦闘班員の間で。
    …という事で。 その衝突を「小競り合い」で済ませる為に、仕方無く走り廻らされているこの2人である。
「…って、加藤は?」
「あのヒトは、格納庫担当」
    航行していないものだから、全員が艦橋に詰めている必要も無い。 いや…艦橋だけではなく、艦内の各部署でも。
    そんな訳で単なる雑談の場として、ここのところ食事の時間に関わり無くいつでも満員御礼な食堂のテーブルである。
「この嵐で艦外(そと)に出られませんからねえ。 抑えるの大変みたいですよ、あっちも」
    さっきからずっと頬杖突いたまま…という事は、やっぱり食事に関係無くここに居る南部である。 もっとも、その点については太田の方もご同様なのだが。
「もう、半月だからな〜」
    2人だってここに留まってからの2週間、全く退屈していなかったと言えば嘘になる。
    嵐のひどさにあちらも近付けないようで戦闘が無いのだから、砲術の南部は全く開店休業状態。 動いていないのだから航路の観測をする必要も無く、太田としても時間を持て余すだけ。
    ただ、2人にはその退屈さを腕力で晴らそう…などという気は無かったのだが。
「口論なんてレベルじゃなくなってるんですよねえ」
そうじゃない連中の方が、はるかに確実に多くて。

「こらーっ!南部ーっっ!!」
    どたばたとした足音の後のそのけたたましい声に、その場に居た殆ど全員がそれぞれの会話や動作を止めて…ついその声の主を見てしまった。
    見ようとしなかったのは、名を呼ばれた当人の南部だけだ。
「あ、居やがった。 隠れてんじゃねえよ、お前は〜」
「隠れてませんよ、全然」
「手ぇ上げて、ここだ…とも言わなかっただろーが」
    テーブルの傍までやって来た加藤とそんなやり取りもしながら、それでも南部は席を立つ。 加藤が何故自分を探しに来たのか、有難くないが良く分かっているからだ。
「何処です?」
「格納庫だ」
    南部が分かっているなら、太田だって同じだ。
「俺も行こうか?」
    今回は格納庫だそうだが、何処かで衝突があって。 それに砲術の人間が交ざっているから、わざわざここまで加藤が呼びに来た訳だ。 南部が加藤を「格納庫担当」と言ったように、加藤も砲術の方は南部に任せとけ…と思っているらしい。
「あ、太田は良い。 航海班、居ねえから」
「…は?」
    加藤への間抜けた返答は、南部と太田の異口同音。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…何で、人数増えてるんだよ?」
    格納庫に戻ってきた加藤が呟いた通り、最初は10人足らずの騒動だったはずが、今はどうやら30人が近い派手な大騒動になっていた。
「止めようって気、無かったんですか?」
「俺一人でどうやって、だよ?」
    壁に背を預けて、腕を組んで。 見るからに、この騒動を止める気の無さそうな山本である。
「ああ…そうですねえ」
    そんな山本に至極もっともな事を問われて、南部がちょっと考え込んだ。 掴み合い、殴り合っている連中を、その入口から眺めながら。
    加藤が、太田に「来なくて良い」と言ったのも当然。 緑色がただの1人も交ざっていない代わりに、赤いのと黒いの…つまり戦闘士官同士の乱闘だ。 これでは、山本も無駄な怪我はしたくない…とばかりに傍観決め込んだのも仕方無いだろう。
「撃っちゃって良いですかね?」
    連中を指差しながら、南部が真顔でさら…っと。
「…それは止めとけ」
思わず、真剣にそう答えた加藤である。

    航海班員が居ないから来なくて良い…と言われて、一度立ち上がり掛けた椅子へ元通り落ち着いた太田だったが、やっぱり…気にならないと言えば嘘になる。
    …で、格納庫まで来てみた訳だが。
「…って、片付いてるし」
「良いっつったのに、何来てんだよ」
加藤からは、そんなご挨拶だ。
    あれから、それほどのんびりと座っていた訳じゃない。 それでいて、綺麗さっぱり終わっていた格納庫だ。
    まあ…死屍累々といった様子で、その場が片付いていた訳でも無かったが。
「これだけの人数、良く黙らせたな」
    ざっと数えて30人、3人ではいささか手に余るはずの人数だ。 3人とも勿論戦闘士官だが、それは相手にしても同じ事。
「腕力で勝てなくて、隊長(トップ)やってられるか」
「も〜、面倒いったら」
「加藤相手で、慣れてるしな」
    どのセリフが誰だか…は、ご推察。

「…て言うか、銃把で殴んの止めとけよ。 お前」
「素手で殴って、拳傷めるなんざ御免です。 大体、俺。 砲術(うち)の連中しかぶっ飛ばしてないんですから、君に文句言われる筋合いございません」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    窓の外には、嵐。 そのこちら側でも、台風一過。

「この嵐って、いつ止むんでしたっけ?」
「…だから、分からない…って言っただろうが」
    そうして2人同時に、それぞれ長い溜息を吐く。
「もう飽きましたよ〜、俺」
「…それも、前に聞いたって」

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Last Update:20070808
Tatsuki Mima