Dead end:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    今までに無い、初めての事態…に途惑うのは、個人も組織も同じ事。
「前例が無い」
それはそんな時の、常套の逃げ口上。
「まあ…想像は付いてたけどな、何となく」
    気の抜けたような顔で、諦めたように淡々とした言葉。
「結局、どういう事になったんだ?古代?」
「どうもこうも…簡単な話だ。 スターシャは『俺の女』だが、俺の『女房』にはなれない…って事だ」
座面に斜めに、片腕を椅子の背に掛けて、真田に其方(そっぽ)向いたまま…拗ねたままの守。
    そこまで来ると、簡単に機嫌の戻らない事を承知しているから、真田も特に急いで宥めもせず。
「サーシャ…もか?」
「そっちは、俺の籍に入った。ものすっごく、簡単にっ!」
実は、拗ねている…なんてとっくに通り越していて、もう相当腹立たしい…だったらしい。
「何で『娘』が地球人なのに、その『母親』が母親にもなれないで異星人のまんまなんだっ!?」
    当たり前だが、守は純粋に「地球人」で、スターシャはイスカンダルの人間だ。 母親がどうであれ、サーシャは間違いなく地球人を父親として生まれた。 ただ、それだけの「事実」の為に、至極あっさりと「地球人」として認められてしまって。
    反して、スターシャは経緯と「恩義」から、永住の許可こそあっさりと出たものの。 地球人として新たに籍が作られるでもなく、未だ…あくまでもイスカンダルの人間のままで。 だから、未だ…公的には実際の夫の「妻」としてさえ認められずに。
「…そういう事は、戸籍係に向かって訴えろ」
    こちらに背を向けたまま、誰も居ない空間に吠える守に、呆れたように真田が言い捨てた。

    不機嫌はそのままだったが、其方向いている事には守も飽きたらしい。
「司令部からの…要請の方はどうする気だ?」
    まだ、あくまでも内々にだが。 イスカンダルから戻って来て早々、守には参謀職に…という打診が来ていた。
「受ける」
守の即答は、真田には…少しばかり意外だった。
「…お前に、デスクワークが向いてるとは思えないが?」
「向き不向きは、二の次だ。 俺には…何が何でも、護らなきゃならない女も娘も居るんでな」
    立て続いた戦争で人材そのものも、それ以上に有経験者の極端に少なくなっている防衛軍である。
「俺個人がぐたぐた言ってたって、政府が動かせる訳じゃない。 …が、今の所、政府に一番近いのは…防衛軍だ。 そっちから突付ける可能性が有るんなら、参謀だろうが長官だろうがやってやる」
    2年の空白が有ろうとも、守という人間が現在の地球では稀有な、経験と実績と実力の保有者である事は間違いが無く。 それをむざむざ、民間にそのまま放置しておくほどの余裕は防衛軍には無い。
「権力をくれてやる…ってんなら、有難く貰ってやる」
    そちらの思惑がそうなら、守にも守の側の思惑が有る。
「見てろよ、真田っ。 俺は近いうちに絶っ対、スターシャを俺の籍に入れるからなっ!」
「…ああ、分かった。分かった…」
    純粋なんだか不純だか分からない動機を、堂々と公言出来る辺り…大した性格だ…と、真田は思った。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    島の急襲を受けて、話を聞かされても…瞬間、耳を疑った。
「こんな事が冗談で言えますかっ!」
確かに、冗談としては洒落にもならないし、少なくとも…島には何が有っても作れそうに無い話だったが。
「お兄さんにだって、決して他人事じゃないでしょうっ?」
他人事じゃない…どころか、なさ過ぎる。
    テレサを連れ出そうとした男の目的が、その何らかの…恐らくは生物学的な研究の為、異星人の…「地球人以外の人間」を欲した…と言うのなら。 それは…そのままスターシャにも、サーシャの身にも降り掛かるやも知れない事態。
    正直…知的好奇心が、理解出来ない訳じゃ無い。 それが人類として、文明として発展してきた原動力でも有るのだから。
    異星人も、地球人と同じく「人間」である事を承知した上で。 その同意を取って、決してその生命を脅かす事が無い…と言うのなら、まだ笑っていられる。 例えば…佐渡のように。
    生物学と医学は、根本的には何も変わりが無い。 研究と発展の為には、何らかの生命を…犠牲にする事もある、せざるを得ない場合もある。 だが…あくまでも生命を救うべき「医師」である佐渡は、それを無視してまでその好奇心を満たそうとはしないから。

「…おい…島?」
    眼前の光景に当惑しながら、その額に伸ばした手を。
「…何なんですか?」
ひどい不機嫌の知れる声と同時に、その手に叩き落とされて。
「いや…また、体温上がってんのか…と思って」
    だって…島は、泣いているから。
「え…?」
しかも…守にそうと言われるまで、零(こぼ)れて頬を伝っている涙にも、気付かないでいたようだから。
「泣…こうと思って、泣いた訳じゃないです。 放っておいて下さい…っ」
    いや…だから。 そのつもり無く、気付きもしないで…って事の方が、よっぽど問題有るだろう…と。 どういう意味にしろ、また…混乱してるだろう?…と。

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Last Update:20040417
Tatsuki Mima