Dead end:02

NovelTop | 第三艦橋Top

    自分の…と言うよりは、自分の連れている女の価値を、かなり正しく値踏みして。 参謀職を引き受けるに当たり、きっちり付加条件も提示した守だ。
    今居る所が、その一つ「司令本部に一番間近い、門衛の居る官舎」。
「ま、こんなもんか」
一渡り見てきて、多少の不服は呑み込んで、一応は了承して。
    何の問題が無くとも、守の連れている女が「イスカンダルのスターシャ」である事には、変わりが無く。 余計な雑音と興味から護るには、無用な他人が近付きにくくする事が、第一。
    元々は…それだけのつもりでしかなかったのだが、島の話を聞かされて…状況が変わってきた。 その上に、まだ…いつでも「他人の目」が在る環境に置かないと…拙い。
    テレサの場合、回復が早くて医療機器が外されていたなら、詰所にアラートが鳴り響く事も無く…そのまま連れ去られていた可能性も、全く否定出来ない。 1人で居る時にも、1人でない環境下でないと…拙い。
    その為の「官舎」で、その為の「司令本部に間近い」という条件。 司令本部に間近いという事は、周りは軍関連施設が多い…という事で。 往来には、軍関係者が…いざ何か起こった時に、対処出来る知識と能力を有してる者が、至って多いという事。
    「自分の女」を護るのに、他人ばかりを当てにするつもりも無く、軍人だから…と無条件に信用している訳でも無く。 あくまでも「無いよりマシ」…の範疇では有ったのだが。
「…狭い所だろう?地球ってのは」
    室内を見て廻る間、ずっとスターシャに抱かせたままになっていたサーシャを受け取りながら、守がそう…多分に自嘲を含んで問うてみれば。
「いいえ…イスカンダルが、漠(ひろ)過ぎただけです」
…と、言葉が戻る。 少しだけ、寂しげな笑みを見せながら。
    条件の2つ目は、本来の…官舎の居住条件からは外れている「内縁の妻」の同居を認める事。
「静かで…嫌いじゃなかったんだがな」
「そうね…静かだったわ。 静か…過ぎたわね」
    参謀職を受ける事から全てが、ただ…スターシャの為だったから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…という事で、真田。お前が考えろ」
    お前「も」…では無い辺りが、ものすごく…守らしい物言いである。
「それが、人に物を頼む態度か?」
言葉そのものには突っ込まない辺り、真田も慣れている。
「希望とあれば、お前に縋(すが)り付いて、よよ…と泣いてみせるが?」
「…遠慮する」
    本当に…島には「泣き付かれて」しまった守は、その翌日までに自力で調べられる事は全て調べ上げてきた。 病院の医師や、看護婦から。 島には…絶対出来ない、テレサに「再度、詳細を語らせる」事まで。
「調べる…とかいう事は、嫌いじゃないけどな。 考えるのは嫌いだ」
苦手だ…と言わない辺りも、守である。
    調べ上げた、その覚え書きの束を真田に押し付けておいて。
「お前は、どう思う?」
取り敢えず…「島に泣き付かれて、かくかくしかじか」程度では、真田も何とも言いようが無い。
「その後…島をどうしたんだ?」
    いや…むしろ、たかが知的好奇心、たかが学問の為に。 人間を犠牲にするなど…真田にしてみればどうしても許せないから、もしかすると問題が身近な守以上に…真剣に、それを読む。
「宥めて、帰した。 直後に警備員を入れてるからな、病院に居る間は大丈夫だ…と言って」
    守は、そこで一旦言葉を区切って、軽い溜息を吐いて。
「ただ…廻って来た輸送船勤務を、体調不良を理由にして既に蹴ったらしい」
「それは…お前だって、おちおち大気圏外になんか出掛けてられないだろう?」
この話を聞かされた後で、絶対に傍に居てやれない宇宙には…と、真田が。
「分かるから…それまでは止めてないだろうが、俺も…」
    そう言ってもう一度、今度は長く深く…溜息を吐いた。

    護りたい女性の傍に…ずっと居てやりたいから、距離を離れざるを得なくなる…仕事は出来るだけ、いや…絶対にしたくない。
「問題は、だな。 それを突き詰めていった時に、あいつに『操舵士』って仕事が捨てられるかどうか…なんだよ」
    地球に戻ってからの短期間にも、入り浸(びた)り過ぎて。 すっかり勝手を憶えてしまった真田の官舎に、グラスと氷を世帯主の許可無く持ち出して来て酒を注ぐ。
「捨てられなくは…無いんじゃないのか?」
「いや…島の方じゃなく、軍の方が…手離すと思うか?」
    事も有ろうに、一旦は失った軍籍を回復させてまで守に参謀職を振って来るような、軍の現状である。 先の戦いで、艦隊は…その乗員ごと殆ど失われている。 当然、数多くの操舵士も。
「…無理だな」
あれだけ年若でも、波動エンジン搭載艦艇の操縦とワープに関しては…経緯上、一番の有経験者である。
「だろう? …と言って、地上勤務もさせてくれそうに無いしな。 同じ理由で」
    まだ、目を通している最中だったが、守の言葉にふ…と真田が顔を上げて。
「いや…待て。 操舵士の地上勤務なら…無くは、無いぞ?」
「…あ?」
グラスを口に持っていった直後だったから、守の返答は少しばかり遅れて。
「無人艦隊の実働に、操艦経験者を2人ばかり廻すつもりでいるからな、司令本部は。 人選はまだ未定だから、島を充てる事は…出来なくは無い」
「…無人艦隊?」
    元が「戦艦乗り」だから、艦名だの、艦隊組織だの、そういった事の記憶は早いし正しい守だ。 イスカンダルからの帰路に、一度でも真田の話に出て来ていれば憶えている。 それが記憶に無い…という事は、守には初耳だった…という事だ。

    未稼働…つまり、一般にはまだ知られていないはずの艦隊。 地球が青さを取り戻した頃から、既に進んでいた計画で。 未だ…科学局の管轄のまま、司令本部には委譲されていないままで。
    本来なら、機密…だが。 軍籍も回復し、正式に参謀職にも就いた守なら、遠からず耳にする。 だから…真田も、今告げた。
「完全自動化された艦の…集合体だ、コントロールは地上から行う」
アンドロメダでも、最低限の人間は乗っていたのにな…と、真田が。 勿論、聞かされている守には今更その艦名に説明を必要としない。
「完全…って、人工知能(あたま)は搭載(つ)んでるのか?」
「まさか…コントロール波の通りに、動いてくれるだけだ。 自己判断力は無い」
    真田の吐き捨てるような言い方と、嫌そうな表情は…取り敢えず、意識の外に捨てておいて。
「一艦辺りの、制御人数は?」
「一艦じゃない、艦隊全部に対して最低2人…最大でも10人足らずだ」
要するに、人員不足を技術力だけで補(おぎな)おうとしているだけだ…と。 そんな真田の言葉を聞きながら、守は頭の中で概要を想像してみて。
「…それじゃ、せいぜい閲兵式の賑やかしに役立つ『玩具』だぞ? 実戦だと、九分九厘まで…沈む」
そこで初めて、真田の表情に同意を述べた。
    先の戦いで、艦隊がほぼ全滅したと言うのなら。 守は、数少ない艦隊戦経験者である。
「一糸乱れぬ行動…ってのは、得意そうだけどな。 旗艦の言う事聞いて、まとまってりゃ良い…ってもんじゃないぞ」
沖田旗艦の反転命令に逆らって、勝手に「戦死」した守に言われても…今ひとつ、正論に聞こえないが。
「大局を見て、的確な指示の出せる頭脳(あたま)と。 自艦の置かれてる状況を、正確に読める判断力と。 二通りの『頭』が必要なんだよ、艦隊戦は」
言っている事は、決して間違っていない。
    もう一つの空のグラスに、氷を放り込んで酒を注いで。
「最大でも10人足らず…だ? 考えるまでも無く『頭』が足りないぞ、それじゃ」
それを、真田に押し付けて。

    覚え書きを読み終えた…と見て、守は改めて真田に問う。
「お前は…どう思う?」
「…あまり、大きな声で言えないし、言いたくも無い話だが…。 この男…十中八九、科学局の所属だ」
この…とは、勿論テレサを連れ出そうとした男の事で。
「何故…分かる?」
多少驚いても、わざわざそれを表面に見せる事はせず。
「テレサという女性が関わっていた事は、一般にも知れてるが。 地球を…結果的に救った事も、現在地球上で加療中である事も、一般にはまだ流れていない。 恐らくは…今後も、一切流れない」
    真田はそこまでを言って、そうして伏せているのが長官である事を守にも伝える。
「下手に知られるよりは…そりゃ、暮らしやすいだろうからな」
スターシャを思えば、自明の理。
「つまり、今のテレサの所在を知っているのは、軍関係者のみ。 ヤマト…の生存者、司令本部の上層部、中央病院の上層部。 それから…科学局だ」
    科学局は、司令本部の直下。 中央病院は、科学局直下に位置する組織だ。 民間を受け入れていても、中央病院は結局は軍関連施設なのである。
「テレサの…異星人の身体を調べたい…となると、生物学者か医学者。 医学者は、全て中央病院勤務…自分の職場から連れ出す奴は…そうは居ないだろう?」
    俺なら、取り敢えず退院までは待つ…と、真田が。
「消去法で、科学局…って事か? そのマッド・バイオロジストは…特定出来るのか?」
「日時がはっきりしているから、恐らくは」
シフトから、多分絞っていく事が可能だろう。
「特定出来たら、科学局から放り出せ。 諦めないかも知れんが、今後の情報が掴みにくくなるからな。 お前で何とも出来ないなら、参謀(おれ)のほうから手を廻す」
「…やる気充分だな、古代」
「他人事じゃ…無いんでな。 今後も含めて」
    恐らくは…諦めない相手に、今後…民間の学者からまでも。 2人をどう護るのか、本当に他人事ではなく。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    そう…その「今後」だ。問題は。
    護るべきは2人、護ろうとする自分は…1人。
    同じ状況下の島なら、言えば…いや、言わなくても手を貸す事は厭(いと)わないだろうが。 島にも島で、護るべき相手が居る。 当てに出来ても、当てにしてやらない方が親切だ。
    進は…拙いか。 あいつにとっては、俺も島もどちらもが身近に過ぎる。 性格的に無駄に熱くなりそうだし、その上に恐らく…冷静さを見失いそうだ。
    バレてしまったなら仕方ない…その時だが、それまでは…出来るだけ離しておいて、知らないままにしておいてやった方が良いかも知れない。
「…となると、やっぱり…真田か?」
    真田なら、最初から関わっている…というより、俺が既に巻き込んでる。 今更、説明する面倒も無い。 頭の中身は飛び抜けてるし、対処に要する身体能力だって悪くない。
    それより…何より、俺が無条件に信服(しんぷく)していられる。 どんな問題だろうと、信用出来て任せていられるのと、そう出来ないのとでは違い過ぎる。
    第一に…あいつは、十中八九「地上勤務」だ。 それこそ、ヤマトが発進しない限りは。
    護るべき2人…テレサも含めれば3人は、恐らく今後宇宙に出る事が無いとしたら。 その護るべき場所は、地上という事で。 その意味では、地上を離れる宇宙勤務でない方が良い。
    …誰の手を借りなくとも、絶対に護りたいとは思う。 必ず護ってみせよう…とも思う。 だが、護り切れるか…と訊かれたら、そこまでの…自信は無い。
    ただ…安心が欲しいだけだ、誰でもなく俺自身が。
「…スターシャ、話が在る」
    聞かせたくは無い、話したくも無い。
「ものすごく不愉快だが…真面目な話だ」
だが…それでも。 自分の置かれた状況を正しく知っておいてもらわないと、護り切れる…とは思えない。
「…構わないか?」
    知っておいてもらわないと…俺の方が潰れそうだ。

    こんな話にも、冷静で居られる女は有難い。 勿論…当然に、多分に驚いてはいたようだが、少なくとも面(おもて)にはそれほどの動揺も見せずに。
「在り得る事でしょうね。 いいえ…もう、現実に在った事…ね」
    スターシャは、まだ一度もテレサとは対面していない。 …が、話の都合上、どうしても地球に来るに至った経緯を話さざるを得ない。 当然に…島との事までを含めて。
    混乱の上に、時空を見失っていた事までは話さなかったが。 スターシャも、実際に島の混乱を目の当たりに見ている、会話を…俺がさせている。 似過ぎた条件に、他人事…ではない。
「その時には…貴方に従えば良いのでしょう? 貴方の足手まといとならないように、貴方の言う通りに」
    利口な…呑み込みの早い相手は、こういう時には助かる。 必要以上に繰り返して、自分が…傷付かずに済むから。 既に有る傷を…深くしないで済むから。
「でも…サーシャは…?」
    そこで初めて、スターシャは眉根を寄せて。
「まだ歩けない、歩く事が出来るようになっても…速く走る事が出来るようになるには、まだ時間が必要だわ」
そう…今の所は、サーシャを護るには抱き抱えるしかない。 それは…逆に言えば、向こうにとっても抱えてしまえば…それ以上には手が掛からないという事で。
「話したくは無くても、いずれ…教えねばならないにしても。 それまで…あの子をどうやって? 守1人が…全てを抱え込んで…それで良いの?」
    賢(さか)しさは、言ってもいない事まで読む。
「1人…じゃない、当てにする気は無いが…島が分かり過ぎるほど分かってる」
分かってはいても、なるべくなら考えずに済ませたかった事まで。
「真田も知ってる。 君も…もう、知っている」
出来るならば、ギリギリまで先延ばしにしておきたかった事まで。
「誰も…当てにするつもりは無い、だけど…当てにせざるを得ない事が…きっと有る。 そうなった時に…信じて、頼っても…構わないか?」
    他の誰でもなく、護りたいと思う2人の賢しさと…運を。

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Last Update:20040417
Tatsuki Mima